九九は覚えられるのに、字が書けないのはなぜ?
『うちの子は字が書けない』著者の千葉リョウコさんに、漫画の主人公・フユくんの読み書きの症状についてうかがいました。
※インタビューをしたきっかけは「発達性読み書き障害の症状って?」をご覧ください。
お話しを聞いた方:千葉リョウコさん
当事者との関係性:母
ー読み書きが苦手だと気づいたきっかけは?
漫画に書いたことと同じになるのですが、小学校に入学してもなかなか字が書けるようにならず、宿題の漢字練習をするのにノート1ページに1時間かかる様子を見ていて、違和感を感じるようになっていきました。
2年生になってもそれは続いていて、九九は覚えられるのにどうしてこんな簡単な漢字が覚えられないんだ?と思いました。
ー読み書きが苦手だと気づき、どうしましたか?
通級に通ったり、WISCという発達検査を受けたりしたものの、読み書きがニガテな原因はずっとわからないままで……結局そのあと数年はなにも対応できていませんでした。
6年生の夏休みに、通級の先生が紹介してくれた特別支援の講演会の講師がたまたま宇野先生で、そこではじめて「あ、フユは絶対この障害だ」と確信しました。
そのあと、宇野先生のところで検査をしていただき、発達性読み書き障害だと判定され、漫画に描いたようなトレーニングをしました。
ートレーニングの成果は?
フユはすごくまじめに、小学6年生から高校3年生までずっとトレーニングに通い、家でもほとんど毎日練習をしていました。
それでも、漢字は小学3年生で習うくらいまでしか書けません。
今は大人になり、住所や名前などよく使う字はすぐに取り出せるメモを持っていたり、ほかの字はスマホで調べて見ながら書いたりと対応できるようになってはいますが、今でも「先生の話している言葉を文字に書きなさい」といわれたら対応できないと思います。
ー学校での合理的配慮は?
発達性読み書き障害とわかったのが6年生だったので、中学入学前に教育委員会で就学相談をしました。
そこで、デジカメでの板書の撮影、授業内容をプリントにして配布、テストにルビをふる…などの対応が可能かを相談したのですが、残念ながら難しいと言われてしまいました。
障害者差別解消法が施行される前のことなので、状況としては仕方がないのかもしれないですが、親としては子どもが本当に無理をしてがんばっているのがわかっているので、「仕方ない」とは思えませんでした。
高校では、合理的配慮を申し出たにも関わらず、「前例がない」と配慮が受けられませんでした。
フユは結局、小学校、中学校、高校と12年間ずっと合理的配慮を受けることはなく学校生活を乗り切りましたが、先生たちが発達性読み書き障害のことを知ってくれていれば……と何度思ったかわかりません。そういう経験が、漫画を描くことにもつながっていきました。
また、合理的配慮については、フユ自身も「自分だけ特別扱いはいやだ」という思いを抱えていました。子どもたちが合理的配慮を受けられるには、先生たちの知識も必要ですし、学校全体、社会全体で「特性にあったサポートを受けるのは当たり前のこと」と認識していることも重要だと思います。
ー受験にあたって苦労したこと
高校受験の時期もまだ障害者差別解消法施行前。フユは単願推薦で受験をしました。
このころになると、漢字のトレーニングの効果なのか「自分の得意な覚え方」がわかってきたそうで、英単語や公式も覚えやすくなってきた…と言っていました。とはいえ、本当に大変だったので、受験において合理的配慮が受けられていたら、きっともっと穏やかな気持ちでいられたのではないかなと思います。
これから受験を迎える方にとって、少しでも状況がよくなっていることを願っています。
ーいまの困りごとは?
フユは家を出てひとり暮らしをしているので、最近困っていることがなにかはわかりません。親になんでも相談する年齢じゃないですしね(笑)
相談がないのは大きな困りごともなく元気な証拠だと思っています。
発達性読み書き障害だとわかったときは、希望する高校には行けないだろうな…とか不安がいっぱいでしたが、好きな仕事をして、ちゃんと確定申告もして、ひとり暮らしができています。
フユくんの高校生までのことは『うちの子は字が書けない~発達性読み書き障害の息子がいます~』をぜひご覧ください!
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