学校での「前例」から、気づきをくれた先生に感謝
小学3年生のとき、漢字の50問テストで「2点」をとってきた息子。
苦手なだけかな…と思っていたところに、担任の先生からの「専門のところに相談に行ってもいいかも」と言われ、「あ、そういうこともあるのかもしれない」と気づいた新川さん。
気づきから診断、合理的配慮を受けるまでの経緯についてうかがいました。
お話を聞いた方:新川恭子さん(仮)
当事者との関係性:母
ー読み書きが苦手だと気づいたきっかけは?
小学校での漢字テストです。
漢字の50問テストで2点を取ってきたことで少し気にはなったものの、その時点ではまだ苦手なだけかなと思っていました。
後日、担任の先生との面談で「もしかしたら…発達の問題とかそういうものがあるかもしれないから専門のところに相談に行ってもいいかもしれません……」と言われて気づいた感じです。
先生は様子をうかがいつつ、おそるおそる…という感じで言ってくれました。
私としては、ズバッと言ってくれてよかったのですが、きっと保護者によって受け止め方が違うし、先生の配慮だったんでしょうね。
あのときなにも言われていなければ、苦手と思ったまま見過ごしていたはずで、気づかせてくれた先生には感謝しています。
ー「専門のところ」と言われて、すぐにどこへ行けばいいのかわかりましたか?
先生に言われて「たしかにそういう可能性もあるのかも」とは思ったものの、専門のところがどこなのか、どういう風にアクセスすればいいのかは全然わかりませんでした。
担任の先生と発達支援の先生と3者面談をして、発達支援の先生から専門機関をいくつか紹介してもらいました。
市の発達相談センターと某大学がやっている相談室で、前者は予約がいっぱいでとれず、大学併設の相談室へ行きました。
状況を伝えると「読み書き障害っぽいですね」と言われたのですが、診断するかどうか含め、どうするのか学校に相談してみてくださいと言われました。
学校から紹介されて専門機関に来たのに、また学校に戻されちゃったんです(笑)
仕方がないのでそのことをまた学校に相談し、今通っている病院を紹介してもらいました。
実は学校にほかにも同じように読み書きが苦手な子がおり、その子が通っている病院を教えてくれたのでした。
最初から教えてくれれば…とは思いましたが、相談室で読み書き障害だろうと言われたからこそ、先生も病院を教えてもいいと思えたのかもしれません。
ーでは、その病院で診断を受けたんですか?
そうです。ただ、予約してから3か月待ちと、やっぱり長かったですね。
WISC検査と読み書きスクリーニング検査を受けました。医師と言語聴覚士の先生がいて、「発達性読み書き障害」と診断を受けました。そのとき、息子は4年生。
3年生の夏前に先生から「もしかしたら」と言われて、1年かかりました。
診断については、「診断はつけますか?」と聞かれても、つけたほうがいいのかどうかもわからなかったのですが、学校に「発達性読み書き障害という診断を受けて、配慮を受けている子がいる」という前例があると知り、診断をつけようと考えました。
診断があったほうが先生をはじめみんなが動きやすくなる、やりやすくなるなら受けようと決めた感じです。
努力してもどうにもならないこと(障害)なのか、努力すればできるようになることなのかの判断、線引きが素人には難しいと思うのですが、診断があることで私自身も説明がしやすくなりました。
また、診断を受け、「できること・できないこと」が数値で見えるようになったことで、理解しやすくなったので、それもよかったです。一文字なら読めるけど、単語が長くなると読み戻しが多く、連なりとして処理できないとか。
意識せずともできる自分からしたらフシギな感覚なんですが、「息子の頭のなかで起こっているのはこういうことかな?」と想像しやすくなりました。
ー診断後、学校ではどのような合理的配慮を受けられていますか?
昨年度の先生はとても親身に考えてくださり、いろいろと対応してくれました。
パッと思いつくのは下記です。
ルビつきテストは、診断がついた4年生の途中から切り替えてもらいましたが、費用の負担などもありませんでした。
ルビなしだと読むのが難しくて理解ができず回答できないことがあったのですが、ルビつきになってからは「意味がわかれば答えられるけど、読み取れないから答えられない」という問題がなくなりました。
テストの回答は、算数の単位(〇個、〇人など)もひらがなでOK、そのほかの回答も習った漢字だとか気にせず、ひらがなで書いたらマルにしてくれていました。
うちの息子は、比較的症状が重くないほうだと思います。
カタカナはちょっとあやしくなるときがあるものの、ひらがなは読めるし、2年生くらいまでの漢字の読み書きも大体できる。短期記憶はいいので、漢字の10問テストは直前に覚えて書くならやれそう…ということで、そのまま実施してもらいました。
ただ、50問になると直前に覚えるのも難しく、「書き」の問題を「ふりがなを書く」に変更し対応してもらうことに。
どのような合理的配慮を行っていくかは、病院からも「本人がどうしたいかを含めて考えたほうがいい」と言われたので、息子本人と相談して決めました。
学校として前例があったこと、担任の先生が発達性読み書き障害という障害があり、こういう配慮の前例があると知っていたことでわりとスムーズに配慮が受けられましたが、どこまで柔軟に対応してくれるのかは……担任の先生次第と聞いているので、今年どうなるかは気にかかってます。
これまでの配慮の経緯、やってきた内容を書類にまとめていますが、もしかしたらリセットされてしまうのかも…と思うと心配ですね。
ー今、4月の半ばですが、これから学校側と相談を進めるのでしょうか?
ちょうど今日、先生に電話して面談を依頼したところです。
学校内での引き継ぎは期待しないほうがいいと聞いていたのである程度は状況を想定しつつ、忙しさにかまけて新学年2週間くらいたってしまったのですが、とうとう息子から「先生知らないっぽいからお母さん言って」と言われまして……。
そもそも引継ぎがされていないのか、書類は引き継いだものの読めていないのか、そのあたりはわかりませんが、改めてどういう配慮をしてほしいのかを伝える必要はあり、これからお話しする予定です。
同じ学校でも、先生によっては漢字の書き順やとめはねを重視していて、形がゆがんでいるだけでも△になるなど方針がだいぶ異なる様子があるので、先生次第で対応はかなり変わるんだろうなと思っています。
5年生になり、だんだんと学習内容も難しくなってきています。3年生のころ、困っているのは主に「国語」でしたが、算数、理科、社会などのほかの教科も読めないことで問題を理解することが難しくなってきています。設問が理解できればわかるのに、問題文が読めないからできない…それにより、「自分はできないんだ」と学習意欲が削がれていくのは避けてあげたいなと思っています。
幸い、本人のオープンで前向きな性格もあり、障害のことを深刻に捉えてはいませんし、「できないことはできないでOK、いいところいっぱいあるからそこを活かしたらいいんだよ」と声掛けをして本人もあっけらかんとしているので、勉強が辛い、障害があるから辛いとならないようにしていきたいと考えています。
ー読み書きのトレーニングなどはしていますか?
言語聴覚士の方と月1回、1時間のリハビリをやっています。
目標は「6年生までの漢字が読める」ようになることです。書けなくてもいいから読めて、なおかつタイピングして変換したときに正しい文字を選択できることを目指しています。
「書き」は3、4年生くらいまでの漢字が書けることを目指して、今は文字を部品の集まりとして捉えるようなトレーニングをしています。
トレーニングをしながら、私(保護者)に対しても、学校どうですか、先生にこういう申し入れをしたらいいかも、引継ぎがされないことがあるので準備しておくといいですよ、など学校との連携のアドバイスをくださるので助かっています。
ただ、どうしても保護者が中継ぎをしなきゃいけないので……学校と専門機関で直接やりとりができたらもっとスムーズだろうなとは思います。
ー支援を受けられていても、保護者の大変さはありますね。
同じ学校でひとつ学年があがるだけで、また1から説明をしなければいけないくらい状況がリセットされることがあるので、学校自体が変わる中学・高校・その先はどうなるんだろうと気がかりです。
中学に入ったら、そこから高校受験まではあっという間ですしね…。
高校受験においては、より一層支援の実績をためておかないといけないなと考えています。
治るわけじゃないから、この先ずっと付き合っていかないといけない。
子どもが自分でどうにかできるようになるまで、保護者の大変さは続くんでしょうね。
具体的に、支援や進学をどのようにしたのかという情報がなかなか手に入らないので、ほかの人がどういう支援を受けたとか、受験のときにどうだった…といった情報がもっとキャッチできたらいいんですけど……。
ーここまでをふり返り、感じていることを教えてください。
3年生で発達性読み書き障害かも…と気づいたときに過去を振り返ると「そういえば」と思うことがたくさんありました。
お姉ちゃんは保育園のときに、教えていないのに勝手に文字を書いていたのに、弟は書いてなかった。小学校にあがってからも興味がなさそうで、本を読まないで動画を見ていました。その時は、ただ単に興味の矛先が違うんだな、くらいに思っていました。
テストの点数も普通にやってたらもうちょっとできるし、やる気が足りないのかなと思っていたのですが、発達性読み書き障害かも…ということになり、「そういうことだったのか!」と腑に落ちた感覚があります。
大変だったのは、家族の理解を得ること。
夫は当初「俺もそうだったよ、大丈夫だよ。そのうちできるようになるよ」といっていて。
「そうじゃないんだよ、がんばってもできないんだよ」ということが伝わるまで1年くらいかかりました。
安心させたくて言ってたとは思うのですが、努力でどうにもならないことだしがんばる方向が違うんだよなあ…となかなか理解されない状況に正直イライラしましたね!(笑)ちなみに今はもうバッチリです。
さっきもお話したように、心配はもちろんあるのですが、色々と配慮していただける環境があったり、子どもの性格もあり今のところ気持ち的に深刻なことはありません。友だちに「この本おもしろいよ、読んでみたらいいよ」とすすめられても「読めないんだよねー。お母さん、めんどくさいから説明して~」と、特別気にすることもなくそういうものだとあっけらかんとしています。治るものではないので、この特性とうまくつきあって行けるよう、また本人が必要ないところで「できない」と思うことのないよう大切に、見守っていきたいです。
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