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画壇の明星(21)②・ミケランジェロと修復
古本屋さんで見つけた1951-1954年の月刊誌『国際文化画報』を少しずつ読んでいます。
前回、特集記事【ルーヴル博物館案内】についてご紹介した1953年12月号。
その中から今回は【画壇の明星】について投稿します。
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今月の【画壇の明星】は、ミケランジェロ・ブオナローティ作 システィーナ礼拝堂・天井画『天地創造』(1508-1512年)です。
![](https://assets.st-note.com/img/1709883545280-Q9rWqdyTVp.jpg?width=1200)
この迫力ある画像は、800㎡にも及ぶ大規模な天井画のほんの一部分。
この記事に掲載されている人物を「実際にシスティーナ礼拝堂の天井を見上げて 探しなさい!」と言われたら、精度の高い望遠鏡を用いたとしても 相当の時間がかかることでしょう。
ルネサンスの巨匠=ミケランジェロ・ブオナローティ(1475-1564年)。
1506年、バチカン宮殿内にあるシスティーナ礼拝堂の天井画を制作するように教皇に命じられたミケランジェロは「自分は “画家ではなく彫刻家である”」 「天井画は私の本業ではないので、時間の浪費」と、何とかこの仕事を免れようとしました。しかし結局引き受けざるを得なくなり、1508年5月になって やっと契約書にサインしたそうです。
![](https://assets.st-note.com/img/1710235629091-xD2ZXKQEer.jpg?width=1200)
ミケランジェロは自分で足場を設計し、4年間 天井を見上げる姿勢のまま筆を持ち続け、ほぼ一人でこの天井画を描き上げたというのですから驚くしかありません。
最終的に約300人の人物像を含む『創世記』から始まる旧約聖書の壮大な物語は、 1512年に完成したのです。
ドイツの文豪ゲーテは著書の中で、
「システィーナ礼拝堂を見なければ、一人の人間が何を成しうるかを目のあたりに見てとることは不可能である」
と記しているそうです。
人間の創造力の限界が、このミケランジェロの天井画である というわけですね。
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6年前、陶板で再現された大塚国際美術館のシスティーナ礼拝堂を訪れました。
天井画『天地創造』の迫力はもちろんですが、祭壇壁にもミケランジェロ『最後の審判』があり、さらに側面の壁には「キリスト伝」「モーセ伝」を表したボッティチェッリ、ギルランダイオ、ペルジーノといったルネサンス期の高名な画家たちによる壁画が描かれていることを情報として知ってはいました。
しかし足を踏み入れた瞬間、何というか・・・そこは 異国であり、またイメージする礼拝堂とも、芸術作品の展示会場ともまるで異質の別世界。ただただ圧倒されるのみでした。
もし実際にシスティーナ礼拝堂を訪れたら、私は気絶してしまうのではないかしら。
「神のごとき人」「万能の人」=ミケランジェロの作品について私が語るには、まだまだ、まだまだ修行と資料の読み込みが必要なので、今回はこの辺で。
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そうそう、ミケランジェロといえば。
先月(2月21日)朝のニュースをチェックしていたらこんな映像が飛び込んできました。
ミケランジェロ『ダビデ像』の清掃作業です。
高さ5.1m、幅2mの巨大な大理石の作品は、塵や埃、そして時には蜘蛛の巣を払うために2ヶ月に一度の清掃が必要なのですね。
イタリア・フィレンツェのアカデミア美術館にある 人類で最も卓越した彫刻=『ダビデ像』。ズーム映像で見るとやはり迫力があります。
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そういえば <ミケランジェロ展>(2018年国立西洋美術館)でミケランジェロの彫刻作品を観たことを思い出しました。
![](https://assets.st-note.com/img/1710370869044-GVqCLiSuty.jpg?width=1200)
右)は部分
ダヴィデともアポロとも判別できない この未完成の石に残された鑿の跡はミケランジェロが生きていた証。
「どんな石の塊も内部に彫像を秘めている。それを発見するのが彫刻家の仕事だ」と語っていたミケランジェロが『ダヴィデ=アポロ』に鑿を入れる姿、そして彼が掘り起こそうとしていた完成形を想像するだけでドキドキします。あまり興味がなかった彫刻作品を前に異常に興奮したのを覚えています。
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ニュース映像の中で清掃されている『ダビデ像』も、大理石を削って創り上げたのではなく、大理石の塊に埋もれていたダビデを ミケランジェロが彫り出したのですね!。
『ダビデ像』の顔は、眉間にわずかな皺があり イカつい鼻としっかり厚みのある唇・・・恐ろしいほどの神々しさに圧倒されます。静止画像にしてじっーと見つめているとその瞳に吸い込まれそうになりました。
清掃作業を毎回担当されている専属の保存修復士であるエレノア・プッチさん。きっとダビデの魅力に毎回ドキドキしているに違いありません。
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彫刻の清掃といえば・・・。
『ダヴィデ像』のニュースを読んだ その同じ日に、国立西洋美術館の前庭でロダン『地獄の門』と『カレーの市民』に足場が組まれているのを見つけました。
![](https://assets.st-note.com/img/1708591202485-kKp7UMotY1.jpg?width=1200)
通りがかったのが早朝だったため、実際に何のために組まれた足場なのか判明しなかったのですが「清掃かしら・・・それとも修復かな?」と知ったかぶりをして「ふむふむ」と一人で楽しんでいました。
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修復つながりです。
先日(2月29日)ジャック=マール・アンドレ美術館のInstagramでこんな画像を見つけました。
修復が完了して美術館のレストランに再設置しているのは、なんと天井画!
![](https://assets.st-note.com/img/1709976402139-cUlAEWesfA.jpg?width=1200)
ジャック=マール・アンドレ美術館は豪華な邸宅美術館。2019年に訪れたとき、自分の好きな絵画に囲まれて生活を送る自分を想像して夢心地になりました。
その時は残念ながらこの有名なレストランに立ち寄れなかったので、この天井画も観ていません。いえいえ、たとえレストランに立ち寄っていたとしても、天井画に気がつかなかったかも知れません。
「シャガールの天井画は必見!」と言われて訪れたパリ・オペラ座(ガルニエ宮)では、長時間天井を見上げて放心状態になりましたが、それ以外の場所で天井を見上げることは ほとんどなかったのです・・・もったいないことです。
しかし、前々回のnote記事でアンドレア・マンテーニャの天井画に触れてから、俄然天井画に興味が湧いています。これからは天井画も見逃さないぞ!と誓うのでした。
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あらっ?そういえば。
ジャック=マール・アンドレ美術館の場合は、絵画を取り外して じっくり修復作業を行えるのですが、システィーナ礼拝堂のように直接天井に描かれたフレスコ画の修復はどんな風に行われるのかしら?。
直近の大規模な修復を調べてみました。
天井や壁に描かれたフレスコ画は取り外しができないので、ミケランジェロがそうしたように足場を組んで、礼拝堂の中で直接修復に取り組むのですね。
まず作品の状態把握 → 修復計画 → 使用する溶剤などの事前試験を経てから、少しずつ修復していきます。天井画、祭壇壁画、壁画・・・1980年6月から開始して全ての修復が完了したのは1999年12月。19年もかかったのですね!。ミケランジェロもびっくりすることでしょう。
煤や汚れが除去されたことで現れたのは明るいパステル調の色彩。そしてこれまでの修復で施された着色の除去により全体が明るくなっていますね。
![](https://assets.st-note.com/img/1710283675816-708wd6qcUu.jpg?width=1200)
上)修復前、下)修復後
「こんなに鮮やかな色だったの⁈ 」とか、「あら、積み重ねられてきた歴史の重みがなくなったかしら?」・・・などと少しだけ違和感を覚えたりもするのですが、同時に修復の難しさと重要性をあらためて考えさせられたのであります。
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ミケランジェロ、修復の連想ゲームはまだまだ続きそうですが、今日はこの辺にしておきます。
以前にも書きましたが、私が小学生であったなら、修復家を目指すのも一つの選択肢だなぁ・・・と考える次第です。
ミケランジェロにはなれなくても、彼ら偉大な巨匠たちの遺産に関わるチャンスはあるのです。
<終わり>