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画壇の明星⑩・ マネと頑張れニッポン🇯🇵

古本屋さんで見つけた1951-1954年の月刊誌『国際文化画報』。
特集記事【画壇の明星】で毎月一人ずつピックアップされる世界の巨匠たちは、70年前の日本でどのように紹介されていたのでしょうか。

今回は『国際文化画報』1952年(昭和27年)5月号です。

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1ヶ月ほど前の3月26日、パリで暮らしている姪っ子から「明日からサマータイムが始まるので間違えないように…」とLINEが届きました。
えっ、まだ3月だよ⁈ もう夏?…と思ったのですが、毎年 夜の8時、9時になっても昼間のように明るいパリの写真が送られてきたことを思い出しました。
本日、5月2日を比べてみると、
東京:日の出 4:47 → 日の入 18:28 (予想気温は11-17℃)
パリ:日の出 6:28 → 日の入 21:07 (予想気温は6-18℃)
ふむふむ、サマータイム。納得です。

2022年のフランス・サマータイム(夏時間)は、
3月27日(日)03:00〜10月30日(日)02:00まで。
一年の半分がサマータイムなのですね。サマータイムが始まると、8時間あった日本との時差が7時間になります。
具体的にどうするのかというと。。。
フランスに住む人は、3月27日の午前2時に時計の針を1時間進めて3時にしました。毎朝6時に起床している人は、3月27日は5時に起きて時計を6時に進めるのだそうですよ!
うーーん。馴染みがないから分かりにくい…(汗)。

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なんと!。今月の『国際文化画報』にサンマー・タイム(←こう呼んでいたそうです)の記事が載っていました。
【五月の言葉】「自然への反逆」(SUMMER TIME BLUES)

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日本でもGHQの指令により1948年(昭和23年)からサンマー・タイム(夏時間法)が4年間導入されていたそうです!全く知りませんでした。
調べてみるとサンマー・タイムは、1952年(昭和27年)4月27日の占領終了と 同月28日の条約発効による日本の主権回復に先立ち、夏時刻法は同年4月11日に廃止されたそうです(1952年まで主権は回復されていなかったことにも驚きました!)。
本誌は1952年(昭和27年)5月号なので、この原稿は 制度廃止直前に書かれたのかもしれませんね。
記事にはこうあります。

サンマー・タイムが法律化されてから、今年はすでに第4年目だが、毎年その切換えのたびにこれほど問題にされた法律も少なくないだろう。サンマー・タイムが何故このように問題になるのか。その意図するところがよいのになぜその期待通りにいかないのか。

4年間だけ実施してあっさり廃止となった理由が続きます。

それを一言にしていえば、四季の変化がはげしく、こよみに対して敏感な日本人の生活感情や生活の実態が、夏時間というような、より人為的な時間割に、容易に融けこめないことである。そして法律をもって強制しても、日本という国の、土に根ざし、自然に支配されて出来た慣習を改めることが、かえって甚だしく不自然であること、などを挙げることが出来よう。実際時計が1時間繰り上がったからといって1時間早く寝るなどということは出来ない。人間はそのような機械のようなものではないのである。

【理由その①】
我々日本人は、地球に生きとし生けるものの一員として「太陽」の角度・強さや熱さ、そして恩恵にあずかれる時間の変化によって日々移りゆく季節を体感してきたのです。そして小さいながらも縦に長い国土を持つ日本は、各地域ごとにそれに合わせた祭りや風習、生活様式を育み、それを大切に守っていく そんな粋な人種なのだ!
ということですね(ちょっと拡大解釈)。
「日が長くなったからもっと時間を有効活用しましょう」とGHQ(←日本人でない人種)によって一方的に制度を押し付けられても、対応できるわけないじゃないですか!
ふむふむ、的を射た説明に納得です。

自家用自動車を持っていてセーヴした1時間を家族づれで郊外にドライブして日光を楽しむ、という国のやることをそのまま真似してこれと日本とを一しょに考えることが土台間違いなのである。
大人なみの法律を与えて12才の子供を苦労させることはどんなものだろうか。

【理由その②】
日本は制度導入によって生み出された1時間を残業に充ててしてしまうほど勤勉な人種。そんな美徳を持って働く日本人と、快楽のために生きている欧米人を一緒にしてもらっては困るのだ!(またまた拡大解釈)。
これ、軽くディスってますよね(笑)。

日本でサマー・タイムが不評だった大きな理由が、残業増加や寝不足を引き起こすことだったというのですから、70年前の日本人がいかに真面目であるか…、言い方を変えると いかに柔軟性・対応力がないか…がわかります。

そして最後の一文「法律を与えて12才の子供を苦労させる」は、GHQ最高司令官以前マッカーサーが日本を去るときに「日本は12歳的文化国家」と文化レベルを12歳に例えたことを皮肉っているのでしょう。

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平成に入ってからも “省エネ” など新たな観点から何度かサマー・タイム導入が議論されているようです。
この70年。急変する環境や国際情勢の中で日本にも対応力が求められています。サマー・タイムに限らず、制度や仕組みは柔軟に変えていく必要があるのかもしれません。
ただ【理由その①】の部分=身体に染みついた日本人の誇りは大切に守り続けていきたいものです。
頑張れ!ニッポン🇯🇵。

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今月号は、もう一つ面白い記事がありました。
【アメリカ報告②】題名は「文化生活の必需品テレビ」

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アメリカではテレヴィジョン(Television)のことをT・Vと略し“テレヴィ”と呼んでいる。市場には月産30万台の受像器が送り出され今日では文化生活の必需品となって、全くテレヴィ時代が現出している。しかしテレビにも一長一短はあるもので、その悪影響がアメリカ人の能率主義を妨げるというので次第に悩みの種になって来たとも伝えられる。

日本では、1939年からテレビ放送の研究を始めていたものの、戦争により中断。1952年の日本で「テレビ」はこんなポジションだったのですね。

記事には「テレヴィ狂は運動不足になり健康を害すると保健局は頭を悩ましているという」という記述もあります。
テレビゲーム、スマホ…。人類は同じ心配と悩みを繰り返して行くことになるのですね(笑)。

ようやく東京で週2回の試験放送が行われる程度で、正式開始はまだ本年中には危ぶまれている状態である。その上 肝じんな受像器も今の生活程度では一般ラジオ並とはゆかないことはもちろんであるが、やがては量産の開始とともに各家庭でもその文化の恩恵に浴する時代が来るであろう

この記事が掲載された1952年にやっと試験放送が行われたのですね。
しかし、NHKがテレビの本放送を開始したのは翌年1953(昭和28)年2月1日ですから、もう少しです。そしてあっという間に各家庭でテレビ文化の恩恵に浴する時代となるのですよ。
1952年のニッポン🇯🇵、頑張れ!

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いよいよ本題。
内外【画壇の明星】10回目は、エドゥアール・マネ(1832-1883年)です。

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マネは1832年1月25日、パリに生まれた。 1863年、「ピクニック」を描いたことで、将来有望な画家として広く知られるようになった。 彼の作品は完全な印象派とは言えないが、光を重視した新しい印象派の運動に関心を寄せる画家たちの中心的存在とされる。 1883年に死去。

記事に紹介されている「ピクニック」とは、記事の左上の画像『草上の昼食』(1863年)のことでしょうか。画像の作品名は『野外遊び Bathing Picnic」とあります。

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2019年<コートールド美術館展>(東京都美術館)で観ましたよ!
柔らかく素早いタッチで描かれたこちらの作品は、1863年<落選者のための展覧会>で話題になった下の画像『草上の昼食』(1863年・オルセー美術館)の習作と言われています。

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オルセー美術館でこの力強い作品に引き込まれた衝撃体験は忘れられません。
詳しく書きたいのですが長くなりそうなので、マネとモネ『草上の昼食』について投稿した以前の記事に譲ることにします。

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【画壇の明星】の記事を見ながら、
① 写真説明の題名『野外遊び』と記事の題名『ピクニック』を『草上の昼食』に統一できたらよかったのに…とか、
② 1863年話題になった作品として、コートールド美術館の習作ではなく、オルセー美術館の『草上の昼食』の画像を掲載できればよかったのに…とか
ツッコミを入れていたのですが、何たってこれは70年前の月刊誌ですぞ。

①『草上の昼食』も、1866年にモネが『草上の昼食』を描いたことを受けて、1886年にマネ本人が当初の題名『水浴』から『草上の昼食』に改題したのです。題名にこだわる必要はありません!

② そしてマネの作品や略歴を紹介してくれるだけですごいことです。
マネ最後の大作『フォリー・ベルジェールのバー』(1882年)もキッチリ紹介してくれているではありませんか。

素晴らしい!
今回も国際文化画報誌の担当記者・編集者の方に拍手👏を送りたいです。
あなた方の頑張り、70年後の読者にもしっかり伝わっておりますからね。

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2、3年前、ミシェル・フーコーの講演を書き起こした『マネの絵画』(訳:阿部 崇)を購入したのですが、当時の私には難しすぎて途中で止まっています。

そろそろ再チャレンジしてみようかなぁ…と思っています。
頑張れっ、私!

<終わり>

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