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描き込まれた「花」から作品を読み解く

昔の絵画なのに、現代の私たちが鑑賞するのにピッタリね。

前回投稿したブリューゲル『ネーデルラントの諺(ことわざ)』の記事を読んで、母親がつぶやいておりました。

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なるほど。
実物を前にしても よほど近づかない限り、ブリューゲルが描いた100以上の諺を全て読み解くことはできないでしょう。
しかしスマホやタブレットの画像をピンチアウト(拡大)すれば、自宅のリビングで隅々まで見ることができます。
本物と対面することが叶わなくても遠距離で画像が見られる環境、そして何より 拡大しても美しい画像✨。
ハード面もソフト面も進化を続ける現代においてこそ楽しむのにピッタリの、400年前もに描かれた作品の存在。
我々は恵まれていますね。

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絵画に描かれた細部までしっかり捉えたい! そういえば。。。
昨年(2020年)国立西洋美術館の常設展を訪れたときに、可能な限りの接写で 部分撮影を試みたことを思い出しました。もちろん、ルールを守って足元の柵(結界)の後ろから静かにスマホで撮影しましたよ(^-^)。
あの時も絵画に描かれた細部を捉えたい!という気持ちがあったのです。

普段は作品の前に立ち、全体をしっかり全身で感じてから細部を観ていくのですが、そこは何度も訪れて見慣れた常設展のコレクション。たまには細部に注目してから、作品全体を楽しんで見よう!と思います。

まず「花」を接写した写真をピックアップしてみました。

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こちらの小さな花からスタートです。

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控えめながら可憐に咲く花。地面に広がる葉の部分は三つ葉のようですね。白い石の部分が少しひび割れているのは、古い作品のため絵の具が割れてきたのかも知れませんが、いい味を出しています。実物の前に立つと、重厚な額に目を奪われて花を見逃してしまいそうです。

アードリアン・イーゼンブラント(に帰属)『玉座の聖母子』(16世紀前半)。

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イーゼンブラントが16世紀前半に描いたと考えられている一枚。
展示室ではあまり気がつきませんでしたが、聖母子を囲む玉座には詳細な描き込みがされていますね。解説によると、
「海豚や山羊の頭部、花綬や壺、植物文様が彫り込まれ、両端の角柱基部の正面には、左に『カインによるアベルの殺害』、右に『獅子を退治するサムソン』を表したレリーフがある」そうです。すごい。。。
やや左 前方から光が当たっているのでしょうか、玉座に落ちた影が奥行きを深めているような気がします。
今度 常設展に行ったら玉座にも注目してみます!

一方で、玉座に座る聖母は上質で柔らかそうな赤いマントを羽織っています。柔らかな長い髪を覆うベールが美しいですね。そして幼児キリストに向ける視線の穏やかなこと。。。

堅苦しさと柔らかさ、冷たさと温かさ、光と影を描いた宗教画。
この対比に「なごみと彩り」を添えているのが画面最下部に描かれた小さな草花のような気がします。
何だか。右下の小さな花が、聖母子を見守る 鑑賞者たる自分に思えてきました。

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少し褪せたような青色の花が珍しい…菖蒲かしら?
小さな白い花も咲いています。

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自然に生息している花ではなく、何らかの意味を持って配置された装飾品のような印象を受けます。

これは聖ルキア伝の画家による『聖ヒエロニムス』(15世紀終わり)。

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聖ヒエロニムスの左奥に小さく描かれた女性は誰かしら?何だか唐突な感じがする…と思っていたら、どうやらこの作品は左側と下の部分が3分の1ほど切り取られてしまったのだとか。
切り取られた左奥には龍と聖ゲオルニウスが戦うシーンが描かれ、左手前には十字架やヒエロニムスが棘を抜いた獅子が描かれていたのでは?と推測されています。
なるほど。素人のわたしでも、構図に違和感を抱くわけです。
後景の景色やお城、女性の衣装と同じ色調の青色を使用して統一感を持たせたアイリスの花。これらに現実味を帯びさせる必要はないのですね。

解説に「とりわけアイリスを初めとする草花の描写が見事」とありました。
花に注目して接写したのは正解でした(^-^)。

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お次は、切り取られた丸太の横に咲く小さな小さな白い花。

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どうやらこの丸太は長期間ここに置きっぱなしにされているようで、周囲の草花に包み込まれています。きっと丸太を持ち上げたら、そこには小さな虫たちがウヨウヨ生息しているのでしょうね。

17世紀オランダの画家 ヤン・ステーン『村の結婚』。

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初めてみたとき、ブリューゲル作品に似ている!と思いました。
解説のヤン・ステーンの紹介文には、
「風俗場面の中にある人物たちの多彩な心理や行動を見つめる視線において優れた画家」 とありました。ブリューゲルと同じ視線を持つ画家なのですね。
結婚をテーマに50点以上描き、そのうち農村の結婚式は20点あるそうです。

建物前にあるちょっとした空間の中に51人もの老若男女がいるそうです。花嫁、花婿らしき人、祝福する人、ふざけ合う子供たち。あら、丸太の上に登って花嫁を見ようとしている夫婦もいますね。
村人たち、木々の葉 一枚一枚、レンガ一個一個まで丁寧に描いたヤン・ステーン。彼が描いた他の結婚式も観たくなりました。

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次はこちら。展示室の照明が写り込んで うまく撮影できていないことをお許しください。

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黒い背景に浮かび上がる白い百合の花が印象的です。よく見るとツボミも合わせて7輪の花がついていますね。「7」に何か意味があるのでしょうか。

こちらは、フランシスコ・デ・スルバラン『聖ドミニクス』(1626−1627年)。
国立西洋美術館が2019年に購入した新収蔵品✨。昨年、初めて常設展に展示された本作を観ました。いやぁ〜。新作に胸踊ります(^-^)。

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201.5× 135.5cmの大きな作品。それ以上に大きく感じました。
絵画鑑賞するときに、いつも自分のベストポジションを探すのですが、大きなカンヴァスの作品は 全体を感じ取るために一定の距離を取る必要があります。以前 ベラスケス作品(企画展)を鑑賞するために 3m 以上後ろに下がってマーキング(←自分で✖️印をつけたつもりになること)したこともあります。
しかし本作品、昨年秋の初対面ではベストポジションを見つけられませんでした。
また、解説(美術館HP)に書かれていた、
「犬が咥えた松明の先には火が灯っていることが、聖人の背後に仄かな光が広がることでわかる」ことも展示室ではよくわかりませんでした。
展示場所、照明や室内の混雑状況などの影響もあって、ポジショニングは簡単ではないのです。

ということで自宅に戻って画像でじっくり鑑賞しました。
黒、白そしてポイントで使用された赤色が絶妙のバランスで配置されています。
聖人の背後に仄かな光と、聖人の頭部の影も確認できました。
そして百合の花は金の装飾が施された花瓶に生けられており、かなり背丈が高いことがわかります。やはり「7」輪には意味がありそうです。
と … 細部の描き込みがチェックできたので、次回 作品と再会したときには、スルバランの描いた作品の魅力を全身で感じ取れるベストポジションを見つけることにします。

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足下に咲く可憐な花は、右にいる人物の引き立て役でしょうか。

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ピンク色の衣装、編み上げられた履き物がキラキラ✨眩しいです。

ニコラ・ド・ラルジリエール『幼い貴族の肖像』(1714年頃)。

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当時貴族の間で人気があったという、自然の風景を背景にした肖像画。
クルクルした柔らかな髪、白い肌に赤い唇そしてピンク色のマントがなんとも優雅✨。[ロココ芸術]だ!と思って調べてみると、やはりラルジリエールは “バロック的な肖像表現からロココ的な肖像表現への移行期(過渡期)において重要な役割を果たした” お方とのこと。なるほど。
このモデルは、ルイ15世の幼少期の肖像か⁈と言われていたのですが、特定はできていないそうです。
ラルジリエールは、ルイ14世の肖像画で有名なイアサント・リゴーと友人関係にあったようです。画家の交友関係…興味あります(^-^)。

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お次の赤い薔薇は「棘の鋭さ」と「枝のしなり」が尋常ではなく、おどろおどろしい感じがします。

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こちらは、国立西洋美術館の新館に入ってすぐ左の場所に展示されている大きな作品(267×317cm)。ヨハン・ハインリヒ・フュースリ『グイド・カヴァルカンティの亡霊に出会うテオドーレ』(1783年頃)です。

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初めてこの作品を観たとき「なんじゃぁ〜、これは⁈」と思いました。
展示室では この巨大な作品全体を見渡すための鑑賞スペースが足りなくて、毎回よくわからないまま通りすぎています、今でも💦。
理解不足が原因で苦手意識を持っている作品なので、この機会に勉強します。

描かれたシーンをざっくり理解すると、
左の男性(テオドーレ)が森の中で馬にまたがった亡霊(自殺してこの世にいない)グイドと出会います。グイドは自殺の原因となった女性を獰猛な犬に襲わせ、今まさに彼女の頭部を切断したところ。

なるほど。犬が女性に噛み付いていたり、女性の頭部が不自然な向きをしていることも、これで納得できました。
古代彫刻の研究をしていたというフュースリの肉体描写がすごいです!
全体を覆う暗い画面の中で、赤色が効果的に散りばめられています。
画面右下に描かれた「薔薇の花」は女性の血を、「枝のしなり」はグイドの怨念を、そして薔薇の「鋭いトゲ」は、犬の牙やグイドが振り下ろした刃を想像させるのですね。

スイス生まれのフュースリは、ロンドンでジョシュア・レノルズに出会って画家になる決心をしたそうです。文学作品に親しんだ彼は、新古典主義とロマン主義のはざまに位置付けられています。そしてフュースリが求めた「崇高」の表現は、幻想とおどろおどろしい恐怖のイメージを伴っている … 確かに。
こちらの代表作は画像で見たことがあります。

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『夢魔 The Nightmare 』(1781年・デトロイト美術館)おーーっ。闇の中にいろいろなモノや思いが隠されていそうです。

イギリスのロイヤル・アカデミーの絵画教授を長きにわたって努めたフュースリの初期代表作が『グイド・カヴァルカンティの亡霊に出会うテオドーレ』。
興味が湧いてきました!次回こそは展示室でしっかり鑑賞したいものです。

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小さく描かれた花からスタートして作品全体、そして作家へと興味を広げていくと、これまでと違った視点で絵画鑑賞ができることもあるんだなぁ、と嬉しくなります。

まだまだご紹介したいのですが、長くなってしまいました。
ドラクロワから始まる近代絵画編は次回に投稿したいと思います。

<終わり>

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