「額縁」の威力と魅力
久し振りに国立西洋美術館の常設展に行ってきました。
普段そこに展示されている所蔵作品が、来週火曜日(2024年3月12日)に開幕する現代美術展
<ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?>
に展示されるらしく、モネ『睡蓮』、ゴッホ『ばら』やシニャック『サン=トロペの港』などがありません。その代わりに私がこれまで観たことがない “蔵出し作品” がいくつか飾られていました。
いつ行っても新たな発見がある 国立西洋美術館、私はやはり「この場所が大好きだなぁ」と感じた次第です。
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今回の大きな発見の一つはギュスターヴ・クールベの【狩猟画】でした。
こんなに素敵な作品だったかしら???と何度も見返してしまいました。
この作品に対する私の印象は、国立西洋美術館が所蔵するクールベの一作品、に過ぎませんでした。
『罠にかかった狐』が特に好き!というわけではありませんでした。それなのに今回はなぜだかこの作品にとても惹かれるのです。
3月に入ってもまだ寒い日が続いているから雪景色が気分に合ってる?
それとも私の美術鑑賞の目が肥えてきたから??
以前、常設展の室内を撮影していた写真があったはず・・・と。
おおーーーっ!これは驚き。
シンプルな木枠が、重厚な「額縁」に変わっているではありませんか!!
展示場所も移動して 以前より左右に展示されている作品との間隔も開いているようです。“この作品に注目!” という展示方法ですね。
聞くところによると、オリジナル(松方幸次郎氏がこの作品を購入した当時)の「額縁」は修復が必要な状態であったため、今までシンプルな木枠の「額」にしていたそうです。昨年、専門家の手により修復が完成してして晴れて展示することになったのです!。なんと素敵なお話でしょう。
クールベ氏も喜んでいるのではないかしら?
凍てつくような冬山、白い息、狐の遠吠え。そしてそれを尊い眼差しで見つめる狩猟者・クールベ・・・一瞬でいろいろな思いが湧いてきました。
以前はこの作品にそんな感情は抱かなかったのに、不思議ですね。
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こんな風に 絵画の魅力をより引き立てる「額縁」ですが、それ自体の存在を感じたことはほとんどありません。
『モナリザ』はどんな「額縁」に入っていた?と問われたら???。
全く覚えていないのです。
以前、ルーヴル美術館が「額縁」だけの小展示会を開催したことを投稿したときに、「額縁」の魅力にもっと注目しよう!と思っていたのですが、すっかり忘れていました(汗。
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もし私が額縁デザインを任されたとしたら。。。
絵画作品の保護だけが目的であるならば、選ぶのは簡単かもしれません。
しかし「額縁」は、現実世界と絵画を媒介する窓口としての役割を担っています。その窓口は相反する局面があり、
①展示場所と絵画の調和を図り、インテリアとして日常に溶け込ませる
その一方で、
②壁面と絵画を明確に区別する境界となることで、絵画が表現する世界をその場所に閉じ込め、鑑賞者が没頭できる非日常空間を作り上げる
ことも担っているのです。
ただし、あくまでも主役は作品。
「それがね、『モナリザ』の「額縁」がすごく素敵で印象的だったの!」
と素人の私が回答できるような「額縁」は失格なのかもしれませんね。
さあ、そんな「額縁」をデザインしてください!
と言われても、センスのない私にはとてもとても無理です。辞退させていただきます。
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クールベは自身の趣味でもあった狩猟の作品を数多く残しています。クールベ【狩猟画】を検索していると、国立西洋美術館の作品と同じ1860年に描かれた、“雪の中で罠にかかる狐”の作品が他にもあることを知りました。
もしかしたら同じ狐?と思ったのですが、罠にかかっているのが右前脚、左前脚、後ろ左脚と違っていますね。
例え同じような場面を描いているとしても、受ける印象はバラバラ。やはりふさわしい「額縁」は違って然るべきなのだと思います。
奥深し・・・「額縁」。
<終わり>
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