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Haco.Niwa | オフィスを育む、2050年の働き方
育つオフィスとは?2050年のオフィス空間を問う
ロフトワークの恒例行事、Year End Party(通称YEP)が2024年12月に開催されました。今年のテーマは「2050 ーPluriverse(多元世界)」。2050年の世界を多元的に捉えるためのトークセッションや展示が企画されました。
空間、建築、まちづくり、コミュニティなどのプロジェクトを多く手掛けるLAYOUTチームでは、”ネイチャーポジティブ”による植物と人間が共生した、少し先の未来の可能性を模索。YEP 2024を一つのきっかけとして、オフィス空間のアップデートを図りました。
オフィスプロトタイピングの試み
私たちが手がけるプロジェクトの中には、オフィス空間に関わる取り組みが多くあります。プロジェクトでは常に未来のオフィス空間への提案が求められるため、自社オフィスは「実験の場」として活用。これが、新たなアイデアを生み出す貴重なプロセスとなっています。
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「いきものがかり」オフィスと自然の共生という実験
その一環として約一年前から行われているのが、オフィス空間でキウイやイチゴ、山椒、ミニトマトなどさまざまな実のなる植物を育てるプロジェクト(通称「いきものがかり」)。出社したメンバーが水やりやメンテナンスのシフトを組み、日々、植物の成長を見守っています。また育った植物は収穫され、料理を作るランチ会が開催されるなど、自然との共生がオフィスの日常に溶け込み始めています。
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未来のオフィス家具「Haco.Niwa」
植物を育てる体験が働く環境にどんな新しい価値を生み出せるか?ーーそんな「いきものがかり」を通じて得られた気づきは、植物を育てることでオフィスへの愛着や自然なコミュニケーションのきっかけが生み出されていたこと。植物が人とオフィスをつなぐ媒介となり、単なる植物の育成を超えて、オフィスそのものを育てている感覚が生まれるという発見がありました。そこでYEP 2024では「いきものがかり」の取り組みが2050年のオフィススタンダードになるという仮説を立て、オフィス家具「Haco.Niwa」として実装する試みに挑戦しました。
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「Haco.Niwa」は菜園システムとオフィス機能を兼ね備えた、BOXテーブルサイズの循環型装置です。現在の都市では、植物は観葉植物として人間が住む空間を彩る装飾的な役割にすぎませんが「Haco.Niwa」では人間の暮らしも植物の生息も同じヒエラルキーで共存している関係性を目指しました。また「いきものがかり」の取り組みを発展させて、コンポストやアクアポニックスも導入。植物は食べられる野菜で構成されており、人間は植物を植え、水を与えます。成長すればそれを収穫し、収穫した野菜で料理を作り、食べる。残飯はコンポストに入れて肥料へ。そして、その肥料をテーブルの植物に与えて、また植物が成長していきます。この小さな循環によってただ植物を育てるだけでなく、私たちの生活の一部に植物との密接な関わりが生まれます。そして、ここに社員たちが集うことで、植物や生き物を基点とする会話が、きっと生まれるはず。それは、かつてオフィスに備えられていたタバコ部屋のようなコミュニケーションツールを彷彿させます。
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特にこだわったのは、BOXテーブルの設計です。既存のテーブルのフレームだけを残し、あとは取り外し可能な均等のモジュールパネルをはめるデザインを考案。パネルのサイズは全て同じでも、あるパネルには人間が作業するための機能を、あるパネルには植物が生息するための機能を。また状況や環境に応じてパネルを可変的に移動できるようにしました。これによって千変万化する自然や植物のありのままの姿を見せられるとと同時に、オフィス空間にあるテーブルとしての機能性の両立が実現しました。
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このモジュールシステムによって人間は仕事やミーティングの効率化を図るため、一方で植物にとっては、日当たりや湿気、温度など植物に適した環境を与えるためにレイアウトを変化することができます。植物と人との生態系の均衡状態を生み出すために変化し続けるこの家具は、都市における生態系の新たな形を示すものではないでしょうか。
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オフィスだけではない展望
隔てられた人間と植物の距離
少し昔に遡れば、本来人間は仕事と農業の二足のわらじで暮らしていて、生活の一部に農業がありました。土をいじり、植物を育て、それを食す。人間と植物の距離は今よりももっと近く、当たり前のものとして存在していました。しかし都市が発展して、アスファルトで地面が覆われた現在の暮らしでは、人間と植物の関係性は分断されています。だとすると、観葉植物を隣に置き、自然があることに特別感を感じる今の状態自体がおかしな状態ともいえるかもしれません。つまり「Haco.Niwa」は、距離が離れてしまった人間と植物の新しい共存関係を結ぶ実験的な取り組みなのです。
暮らしの余剰に植物を再びインストールする
AIやテレワークの普及によって、オフィス空間に生まれるであろう余剰空間。今回の「Haco.Niwa」の取り組みは形骸化するオフィス空間の余剰に植物の生存域を共存させる試みでした。しかし私たちは空間的な余剰だけでなく、都市の人間の「暮らし」の余剰に再び農業(土の関わり)をインストールできないかと考えています。仕事と農業の二足のわらじで暮らしていた時のように、暮らしの一部に当たり前に植物がある。そんな人間と植物の本来の関係性を取り戻したいのです。
例えば、都市のマンションやアパートの一室で一人一坪の「Haco.Niwa」を導入すれば、都市全体では一万坪を超える農地を都市に出現させることができます。個々には小さくとも、一人ひとりの暮らしが植物との結びつきを取り戻すことができれば、きっと人間と植物が共に暮らす未来が再び描けるのではないでしょうか。
執筆:レイアウト.net 松井 創 / 竹中 遼成 / 平栗 圭
最後までお読みくださり、ありがとうございます。自然と人間のグリーンな関係を更新するGOODレイアウトをご存知の方は、レイアウト.net編集室へコンタクトしてください。