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トレパクの何がどう問題なのか?

先週、興味を持ったニュースの一つに、トレパクに関する以下のニュースがある。

YOASOBIのキービジュアルも描いた人気イラストレーター古塔つみ氏の作品には、多数のトレース作品があるのでは?という疑惑である。

Twitterやヤフーニュースのコメント欄では、様々な声があがっていた。しかし、何がトレパクで、トレパクの何がいけないのかという点が、バラバラな印象を受けた。

イラストレーターの意見

知り合いのイラストレーターに意見を聞いてみたところ、多少面倒臭がりながら、ニュースや比較画像を見て「一番の印象は、本人が、著作権法について意識が低かったんだろうなということ」とした後、以下の回答をしてくれた。

・トレース自体は悪くない
・自分もトレースは行う
・トレースしたかどうかは問題ではない
著作権者に許諾なく公開と販売していたのが問題(それがトレパク)
・ついでにいうと、本人の意図はわからないけど、オリジナル作品という印象を持たせて公開と販売していたのが問題

ということだった。

著作権を侵害するとは?

特許権や知的財産権、そして著作権というややこしいことについては、実際の会社業務だと、契約書に「著作者人格権を行使しない」のような決まり文句を書く程度だったりする。

筆者は以前、業務上で幸運にも、特許権、著作権それぞれで、会社間の面倒な揉め事を経験したことがあり、その際、弁護士や弁理士から長々と教わり、自身でも調べたことがある。

その後、契約書において、特許権、著作権での記載内容を注意して見るようになった。

それらで学んだことを踏まえて、古塔つみ氏が著作権を侵害しているか否かでいうと、先に結論を書くと、以下になると考えている。

著作権を侵害している可能性が高いが、被疑者ではない。

先述のイラストレーターが言うように、著作権侵害している作品を、著作権者に無断で公開したら著作権侵害になる。トレースしていたかどうか、販売していたかどうか、出典元を明記していたかどうかは関係ない。

著作権侵害の要件

著作権を侵害しているのは、著作権侵害の要件を満たした場合となる。

著作権侵害の要件というのは、弁護士が法律用語で詳しく解説しているサイトは多々あるので、あえてわかりやすい言葉を使ったフローチャートにすると、以下のようになる。

著作権侵害の要件

イラストの場合、それがトレースであっても模写であっても、そして、オリジナルに描いた物であったとしても、多くの人が似ていると感じられる物であれば、著作権侵害となる可能性がある。

その場合、似ている対象が著作物の表現上の本質的な特徴か否かが争点となる。

言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。

最高裁判例 平13年6月28日「江差追分事件」

この「著作物の表現上の本質部分な特徴」かどうかがややこしく、ここまではOK、ここからはNGといった明確な線引きはない。最終的に裁判でどう判断されるかとなる。

例えば、「ケロケロケロッピ事件」を調べれば、著作物の表現上の本質的な特徴とはどういうことかがわかる。

ここまでの要件が満たされる場合、あとは、著作権侵害を疑われる人が、制作時にその著作物を知っていたかどうかで、それも満たされれば(インターネットで該当の写真を見られた状態とか)、著作権侵害となる。

今回の炎上ニュースについて「著作権を侵害している”可能性が高い”」と書いているのは、「著作物の表現上の本質的な特徴」のように、それが著作権侵害かどうかは最終的判断は裁判所が行うもので(もしくは当事者同士の話し合い)、海賊版のように明らかなコピー製品を販売していたわけではないため、現時点で、著作権侵害していると断定はできないためである。

著作権侵害=逮捕ではない

著作権は「非親告罪だから、告訴がなくても犯罪」のようなコメントもあるが、これは正しくない。

著作権は、一部の例外を除いて親告罪である。

親告罪は、告訴がなければ起訴することができない犯罪のことで、つまり、イラストの元となった写真等の著作権者が告訴しない限り、逮捕されることはない。つまり、被疑者にはならない

非親告罪は、告訴がなくても警察が逮捕できる犯罪となる。

ただし、著作権での非親告罪の範囲は限定されている。著作物をそのまま複製して、公開して、利益を得ていて、著作権者の利益を害している場合である(正確な定義は、著作権法・第百二十三条参照)。

古塔つみ氏の場合、検察が非親告罪として逮捕することは考えづらい。

なぜなら、古塔つみ氏が非親告罪として逮捕されるのであれば、古塔つみ氏以上にはっきりと著作権侵害している、二次創作物を販売するコミケ、コスプレ、ゲーム実況等で大きな利益をあげているユーチューバーは、すべて逮捕される可能性が出てくるためだ。

著作権法に非親告罪の条件が追加されたのは2018年で、その法律改訂時の議論でも、非親告罪の目的は海賊版のような悪質行為への対策であり、コミケ同人誌やコスプレは非親告罪から除外されるべきということが指摘されている。

コミケ同人誌に代表されるような二次創作,あるいはゲーム実況動画「歌ってみた,踊ってみた」コスプレなどに代表されるような,まさに今花開いている各種のユーザー発信文化,さらにはビジネス・研究・福祉分野での軽微な利用など,これまでは権利者も問題視せず,グレー領域的に行えてきた多くの利用,これを萎縮させるおそれは大きい

文化審議会著作権分科法制・基本問題小委員会(第6回)議事録

目的を海賊的利用対策に絞るべく,非親告罪化の対象を複製権侵害に限定する。2番として,単に「複製」と書くだけであれば二次創作的行為も一部対象とされるおそれがあるため,出版権の条項などと同様に,原作のまま複製する行為のみに対象を限定する。かつ,3番として,現在のTPP条文案として伝えられるものと同様の定義による

文化審議会著作権分科法制・基本問題小委員会(第6回)議事録

赤信号を渡ったら逮捕されるのか?

イラストのトレパク問題となると、創作活動を行う人であれば憤りを感じたり、ファンであれば失望したり、ニュースをみてムカツクと思う人もいると思う。

そのような感情自体は自由に持つべきだと思うが、ただ、著作権に対して発言を行うのであれば、著作権のようなややこしい法律をすべて理解しなくとも、要点だけは把握した上で行わないと、的はずれな発言になる。

実際、著作権法はややこしいと思うし、特に「著作物の表現上の本質的な特徴」においては、明確な線引きがない。

このようにややこしい法律事に対して炎上ニュースが出ると、創作物全般に対する信用低下創作者の自由な活動を萎縮させるほうが懸念として感じる。

何かを発表する際、発表者は、著作権はしっかとりと注意するべきだが、必要以上に気にすることではない、と思っている。ちゃんと自分が創作したものなのであれば、である。

インターネットにおいては、著作権侵害は毎日行われている。トレパクを非難するサイトやTwitterの投稿それ自体にも、著作権侵害とされる可能性が高い行為は多数見受けられる。

筆者自身のnote記事で、見出し画像に映画の画像を載せているが、それも著作権侵害である。

しかし、note記事やブログのような個人の弱小サイトで、相当悪質なことを書いているわけでもないのに、法人等の著作権者が著作権侵害として告訴することは到底考えられない。万が一、著作権侵害を指摘されたら、謝罪して画像を取り下げればよい。

どうしても、画像利用の著作権が気になる人は、著作権フリー画像を使うか、Google画像検索の「ツール」から「クリエイティブ・コモンズ ライセンス」を選択し、その画像の利用条件をよく読んでから使えばよい。

車も人も誰もいない田舎道で赤信号を渡っても、誰にも迷惑をかけないし、逮捕もされない。

赤信号なのに横断歩道を歩行したら、道路交通法に違反しており犯罪者である。しかし、それで事故を引き起こしたり、第三者に「あの人、赤信号なのに渡っていたから逮捕してください!」と告発されない限り、(警察官に現場を見られて、現行犯逮捕されるというおバカなケースを除けば)逮捕はされない。

著作権を気にしすぎていたら、自由な創作活動も自由な発信も、ただ萎縮させるだけになる。重要なのは、ズルしよう(オリジナルでないのにオリジナルという印象を持たせて販売等)とか、誰かを傷つけようといった、悪意があるかどうかで、著作権法の目的もそこにある。

著作権法の目的は、文化の発展にある。

この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。

著作権法第一条

著作権法は、著作権侵害を監視して、摘発して、クリエイターの創作活動を委縮させるためにある法律でなく、創作活動の保護、そして創作活動の発展のためにある。

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