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強力な敵の不在『チア☆ダン』がつまらなかった理由
『チア☆ダン』は、つまらなかった
楽しい映画もあれば感動する映画もある。また、つまらないと感じる映画もある。
良かった映画だけでなく、つまらなかった映画に対して、なぜつまらなかったのか?を考えることで新たな発見もある。
2017年公開の広瀬すず主演『チア☆ダン 女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話』は、つまらなかった。
タイトル通りの作品である。実話を基にしており、福井の高校、ダンス経験のない部員たちばかりが集まったチアダンス部が舞台となる。彼女たちが、日本一となり、さらに、チアダンス全米選手権に出場、そこでも優勝を果たすまでが描かれる。
『チア☆ダン』がつまらなかった理由
なぜこの作品がつまらかなったか。それは、強力な敵、もしくは強力なライバルがいない、それに尽きる。
『チア☆ダン』は、そのタイトルからも、その内容や舞台設定から、スポ根的な映画をイメージさせる。
スポ根物といえば『ロッキー』シリーズであるが、シリーズのどの作品にも強力な敵が存在する。その敵が強ければ強いほど盛り上がる。憎らしければ憎らしいほど盛り上がる。
卓球を題材にした『ピンポン』も、強力なライバルだらけである。スポーツという点では映画に限らず、バスケットを題材にした『スラムダンク』も、やはり強力な敵が多数登場する。
これはスポ根物に限らない。『スーパーマン』や『スパイダーマン』など、ヒーロー物には当然、強力な敵、ラスボスが登場する。
強力な敵がいるからこそ、観ている側は主人公たちを応援し、ライバルを憎らしく思う。感情移入が強くなるのである。
逆に、B級映画ファンから人気の高い『悪魔の毒々モンスター』を、筆者はあまり評価していない。なぜなら、この映画はヒーロー映画であるのに、ラスボスが太った市長で、要するにラスボスが弱いからだ。実際やはり、最後はあっさりと市長を倒す。だからラストの盛り上がりに欠ける。
強力な敵を必要としない映画ももちろんあるし、強力な敵がいなくても素晴らしい映画はたくさんある。
しかし、『チア☆ダン』の場合、タイトルからスポ根的な映画を連想させる。また、序盤にやる気のない部員たちを登場させることで、もともと下手くそな部員たちの大逆転劇を期待させる。
つまり、タイトルも舞台設定も、爽快な大逆転劇を期待させるのに、ラストまで憎らしい強力なライバルが出てこない。
途中、前年に全米制覇したアメリカのチームが登場して、多少憎らしく描かれるが、描き方が弱い。ライバルが強く憎く感じられるには、ライバル達もちゃんと描かれる必要がある。前述した『ロッキー』シリーズや『ピンポン』等で、ライバル達がどのように描かれているか見れば、それがわかるはずだ。
そして、最後はタイトル通り、あっさり全米制覇する。それがどれたけ大変なことか、そのダンスがどれどけ凄いのかも、よくわからない。盛り上がりにかけるのである。
だから、つまらなかった。
観客に与えるマインド・セットの重要性
別の言い方をすれば、『チア☆ダン』は、スポ根物ではないし、爽快な大逆転劇を期待させるべきではなかった。この作品は、青春群像劇だったからだ。
『ロッキー』シリーズだったら、ライバルを描くであろう時間帯を、部員たちとのイザコザを描くのに充てられる。主演の広瀬すずに限らず、部員の女子高生一人一人が丁寧に描かれているからだ。
だからこの映画は、青春群像劇だった。スポ根ではなかった。
『チア☆ダン』が、チアダンスを題材とした女子高生たちの群像劇を連想させるタイトル、宣伝文、舞台設定だったら、違った感想を抱いていただろうと思う。
『チア☆ダン』を観て、強力な敵の存在の重要性ととに、映画タイトルや宣伝文、また、舞台設定等、見る側にどのようなマインドセットをさせるか。映画においてこれらがいかに重要かということを考えさせられた。