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夜風が吹く、たぶん誰かがそれを飲んでるから。〔エッセイ〕

 連日のように熱中症注意が叫ばれ、いつもより暑い夏だという気にさせられている。それでも梅雨明けと共に湿気が去った新潟の空は、わたしにとっては不快ではない。
 でもウダウダと平日の忙しさにかまけて夏の予定を立てずにきてしまったので、恐らくそんなに遠出はしないことになりそうだ。映画と読書と、日帰り温泉くらいは行きたいかな。夏の露天風呂は案外、気持ちいいものだ。
 わたしは特にサウナブームには乗っからなかったけど、元々、日帰り温泉を利用するのが好きだ。そして、わたしが夏に行きたいのはぬるい露天風呂があるところだ。長い時間入っていられる温度。そういうところがたまにあるのだが、夏はそれがいい。お湯からでている上半身を風がたまに抜けていく。森林から聞こえる自然の声は、ぼーっとするのにもってこいだ。湯から上がった休憩室で仮眠できるような座布団でもあれば最高だ。
 
 そういうときは夜にならなければいいと思う。ずっと昼で、昼寝をしていたい。夕暮れまできたらまた夜をスキップして朝になればいいのに。座布団を枕にして思うことは、子供のころから進歩がない気がする。田舎の親戚の家に泊まりに来ていると何度もそう思ったものだ。夜が来るたびに、帰る日が近ずく。そして夏が終わっていくんだ。確実に。
 氷の入ったグラスのなかでサイダーの炭酸が音を立てて弾けるのを見つめるのは、夏休みの特別な思い出だ。自宅に帰ればそんなことはしない。親戚のおじいちゃん、おばあちゃんがぼくらのために用意してくれた夏の日を最大限に楽しむためにすることだ。グラスの汗がテーブルに丸をつくる。
 風鈴が鳴っていた。たぶん、サイダーの泡がはじけたからだと思った。

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