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汚部屋ダンサーズ|ショートショート?
駅前にある吹きさらしの喫煙所で、とある話題が耳に飛び込んでくる。
「部屋がさ、片付かないんだよね」
「あー…まぁ。まぁ。」
「それ。そのリアクション。やっぱり俺の部屋って汚部屋なんだよ」
一方に相談を持ちかけている二人組の男性の傍らで、私はプカプカと煙を吹かす。
レンガ風の植え込みなんかに視線を逸らしてはいるが、警戒時のネコみたいにバッチリ耳を傾けていた。レッキとした汚部屋当事者として、この話題は捨て置けない。
「ちょっと自己分析してみたんだけどさ」
「お~語りから入るね。なになに」
「お客がこないって要因が相当デカイんじゃないかと思ってさ。」
「あー、人こないって言ってたもんな」
「見られる機会がないとさ、掃除の必要性がなくなるわけじゃん?
そうすると、あとは自分の許容範囲の問題になるっつーか。」
「確かにそれはあるかも。俺は最近結婚したばっかだからさ、結構嫁の親御さんとかくるわけよ。抜き打ちテストみたいに。」
「あ、それでか。この前遊びいったときさ、めっちゃキレイにしてるなって思ったんだよ。」
「まぁ協力してキレイにしてんだけどね。水回りは入念にやってる」
「あー、うちのトイレめっちゃサボったリングあるわ」
「あったあった。なんか4層くらいなかったっけ?」
「そんなないわ!水かさ安定しなさすぎだろそのつき方」
笑い声で閑話休題が入るあたり相当に仲の良いようで。
顔を背けながらも微笑ましい表情を浮かべていた。
ちなみにウチのトイレにもサボったリングがよく現れる。
「汚いって自覚はあんだけど、だからといって困ってはないっていうか」
「まぁ人がこなけりゃ、必然的にそうなるかもな。
…ん?
でも汚いって自覚はあるなら、イヤじゃないの?」
「イヤっていうと?」
「ほら、少なくとも不快だとか、ちょっと嫌な気分ってのがあるから汚いって感想でてくるわけじゃん?
マジの清潔感ない人ってさ、汚いとすら思ってない節があるっていうか。そんなん。」
「あー、それはねアレよ。社会一般の目線みたいのがあって、そういう視点から見てんの。
多分、俺の部屋に入ったやつ100人にアンケートとったら98人は汚いに投票される自信はあるけど、俺はそうじゃないみたいな。なんなら俺もアンケートに参加したら汚い側にいれるって感じ。」
「なるほどなー。そういう自覚があんのに、それでも行動に移せないわけだ」
「そうなのよ。困ったもんなのよ」
なにそれ。そのアンケート、私も今度玄関に設置してみようかな。
普段手に掛けない2本目のピアニッシモを取り出す。
つまり延長です。この話の行く末がどうしようもなく気になった。
「まぁでも多少なりとも危機感を覚えたわけだよな」
「そういうこと。
ってかこの前、お前さ、俺のこと浮浪者って呼んだよな?
あれちょっと傷ついたんだからな笑」
「ごめんて笑。
いやだってお前、この前のあの服装はどっからどうみても浮浪者だったぞ。服もボロボロだし、ニット帽にメガネにマスクで満点だったし。」
「まぁ、それも自覚あるけどさ。
多分損してるなって思って。こんな見た目だとさ、みんな距離取るじゃん。あったかもしれない店員さんとの会話とかも発展しないし、人に道聞かれることもない。
すっごいチャンス減らしてんじゃないかなって」
「なに?ナンパ待ちでもしてんの?笑」
「いやいやそうじゃないけどさ笑。
で、なんで俺が浮浪者してんのかっつーと、最初の問題に戻るわけよ」
「浮浪者は認めんのかい」
待って。このふたりめっちゃ面白くないか??
思いっきりむせ込みながら息を整える。
つい落としてしまった2本目のたばこを靴底でグリグリ踏みつけながら鎮火する。拾って灰皿に投げ込むと、決意の3本目に手をかけた。
「いやさ、お前とかは俺が浮浪者してても普通に付き合ってくれんじゃん?
まぁ腹のウチでは思うことはあるだろうけど。でもそれに甘えてちゃいけないなって。」
「ちょっとは危機感もったわけだ。」
「そうそう。だからまず部屋をキレイにするとこからじゃないかなって」
「でもめんどくさいんでしょ?」
「そうなのよ。だから悩んでんだよね」
「あれは?ヘルパーサービスとか利用すればいいんじゃない?」
「浮浪者の?」
「違うって笑 掃除の。2時間いくらってサービス。最近流行ってるじゃん」
「あーあー、あるね。レンタル家政婦さんみたいな」
「そうそう。週に1回くらいお願いすればいいじゃない?
それにヘルパーさんもある意味でお客さんじゃん。
ちょっとは自分の清潔感も意識できるっしょ」
「あー、そうだなー。うーん」
「なに。どしたの。」
「いやさ、なんかヘルパーさん来る前に掃除しちゃいそうで」
「笑 なんでよ」
「だって、恥ずかしいし」
「それもうお金払う意味ないじゃん笑
まだデリヘルでも頼んだほうがマシよ。」
「あー、確かに。
結構前だけど、デリヘル頼んだときもう高級ホテルかってくらいセッティングした記憶あるわ。」
「あ、もうそれがいいんじゃない?
月2くらいで頼めばさ、部屋もキレイに保てるし、性欲も満たせるしで一石二鳥じゃんね?」
「じゃあさ、お掃除ヘルパーさん呼んでから、嬢呼ぶのどうよ?」
「どうよって笑 いやお金が持つならいいけどさ、ヘルパーさんのやることないじゃんそれ」
「いや、なんかこうダブルチェック的なね…」
「もうホテルやん。」
おっと、内容はめちゃくちゃおもしろいけれど、下世話な話になってきたな。
肺がすっかり悲鳴をあげていることだし、そそくさと退散することにした。
男ってホントに気楽でいいよね。
参考にならない独特の改善策にため息をもらしながら帰路についた。
~ ~ ~
「香里ちゃ~ん、二丁目のご新規さんから指名~。お願いできる?」
「はぁーい」
「はい、ありがと~。自宅希望ね。もう表に車待ってるから」
送迎用の白いバンに乗り込みながら、運転席を見て少し動揺する。
今日はうざ絡み多めのおしゃべりなドライバーか。
「香里ちゃん、今日もキマってんね!」「ありがとうございま~す」
とか適当に話を流しながら、予定の住所に到着する。
オートロックもない、表札だけがぶっきらぼうに垂れ下がったマンション。飾り気のないエレベータに乗り込み、ご新規さんの部屋があるフロアまでくると、廊下の一番奥の扉が開いた。
「それじゃあ今日はありがとうございました!」
「いえいえ、むしろちょこっとしか出来ることがなくてごめんなさい!
あ、これ良かったら、オススメの洗浄液なんで使ってください」
「あーーすみません!助かります。それじゃあ」
玄関外に髪をお団子にした妙齢の女性が出てきて、深々と部屋に振り返ってお辞儀をする。
扉が閉まるとそのまま私の背後にあるエレベーターに向かって歩いてくる。
すれ違いざまに軽く会釈をして通り過ぎると、伝えられた住所がさっき開いた部屋と同じことに気付く、
まさか、と思いながらチャイムを鳴らす。
「あ、どうも、待ってました!」
ホテルの一室を思わせるような内装の中、すっかり小綺麗になった浮浪者の姿がそこにあった。
私は思わず吹き出してしまった。
~完~
ショートショート?
短編小説?
境目がイマイチ分からない私であった^q^
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