10分日記『食塩オンザデスク』
私の机には食卓塩が乗っている。
英語でいうとテーブルソルト。
半透明の便と赤いフタでかっちりと閉じ込められたふんだんな塩は場違いに白く輝いている。
猫暮は食べることにこだわりはない。基本的にちょい足しとかもせず、出されたものをあほみたいにほおばって生きている。だから味音痴だって自覚をしつつも今日も今日とて出されたものを召し上がる。
でも、ちょっと好奇心が湧いた。
ありのままの生活とか、そのままの生活を享受している私でも、たまに魔がさす。
そう、味覚に変化を加えようなんてアジな真似をしようとするのだ。
その一環が、筆記用具やら、コピー用紙やら、郵便ポストに無秩序につっこまれていた書類に紛れた場違いにもほどがある「食卓塩」なのだ。
たまに冷凍食品をあっためた後にちょい足しして、ちょっとQOLでも高めようかしらともくろむ私の、ささやかな抵抗と煩悩なのだ。
で、問題はこの食卓塩がいつからあるか、ってことだ。
確か、これを買ってからすでに3か月が経過していると思う。
すっかり私の机の上のアイドルとなった食卓塩ちゃんが、オブジェクトとかインテリアみたいにボーっと佇んでいる。そんな光景になってから久しい。
さて、肝心の中身だ。さすがに3か月もかけていたら、それなりに量が減っているのを期待できるだろう。
しかし、そんな期待とは裏腹に悲しい結果が透明の景色の奥に広がっている。
なんと、どう見積もっても1/10も減っていない。
ざっと内容量を確認してみたところ、全部で100gの食塩がこんもりとさざれ雪のごとく降り積もっている。猫暮はその10gだって消化できていない。
この結果がいわんとしていること。それは単純明快。快刀乱麻。
食に対するこだわりは本当に薄いということなのだ!!!
食べれればなんでもいいやの精神ここに極まれり。
上昇するかと思ったQOLは永遠の平行線をたどっていたようだった。
いや、自覚はあった。自分はとことん食に興味ないよなぁとは常々思っていたけれど、あるものにすら手をつけないほどの清貧極まっていたとは予想外です。単純に塩味がすきじゃない?って可能性も考慮したけど、お酒の席でたしなむような塩分は大好きだから、おそらく関係ないかも。
塩は好きだけど、過剰摂取は苦手なようだ。というかその過剰のハードルが人よりも極端に低い。
食のミニマリストである。
そんなわけで、本当に机の上のインテリアと成り下がってしまった透明と赤でデザインされた食卓塩。
本当の意味でアイドル(役立たず)になってしまったけれど、ルッキズムにすっかり染まった現代では、そんなアイドル(神)にこそ付加価値が産まれるというものだ。
よって我が家のアイドル(塩)は今日も元気に机の上で煌めいている。
その蓋が開くことはしばらくなさそうだけど。
アイドルのプライベートには介入しないのがいっぱしのファンの勤めだろうと、なぞの自己解釈によって今日も事なきを得ている猫暮であった。
(所要時間:10分)