ラテン語ニュースを読んでみよう
ラテン語は古代ローマや中世の作家が書くものだけではありません。近代や現代にも、ラテン語で書いた人はたくさんいます。今回は、ラテン語を初めて見る方でも親しみやすい、現代のニュースを取り上げます。使うニュースはNUNTII LATINIという、フィンランドのラジオ局”Yle”によるラテン語ニュースラジオ番組です。この番組は1989年から2019年まで、国外・海外問わず最新ニュースをラテン語で報じていました。現在でもPodcastで過去数年分の放送が聞けるので、興味のある方は聞いてみてください。
この記事ではこのNUNTII LATINIのニュース番組がどのようなラテン語を使っているかを、日本に関するニュースを題材にして解説します。取り上げるニュースは、1998年のF1の日本グランプリです。まずは第1文目です。
Ultimum huius anni certamen de primatu mundano classis autoraedarum, quae dicitur Formula unum, die Dominico multo mane Suzucae, in urbe Iaponiae, factum est.
フレーズごとに訳します。
Ultimum huius anni certamen 今年最後の試合
De primatu mundano 世界の首位に関する(世界の首位を争う)
Classis autoraedarum 自動車の階級の
Quae dicitur Formula unum フォーミュラ1と言われる
Die dominico 日曜日に
Multo mane 朝のかなり早い時間に
Suzucae 鈴鹿で
In urbe Iaponiae 日本の市において
Factum est 行われた
通して訳すと、「フォーミュラ1と言われる自動車の階級の、世界の首位を争う今年最後の試合が日曜日、朝のかなり早い時間に鈴鹿という日本の市で行われた」となります。
ここで「自動車」という単語に注目してみましょう。当然、古代ローマ時代には自動車はありませんでした。そこで、NUNTII LATINIはautoraeda「自動で動く四輪馬車」と書いているのです。自動車を指す決まった訳語は存在せず、Neues Latein Lexiconという、新しいものをラテン語で言い換える辞典ではautocinetum、automataria raedaと書かれています。研究社の『羅和辞典』ではautocinetum (vehiculum)、vehiculum automatarium、automataria raeda、autoraeda、autovehiculumと書かれています。”autocinetum”だと自分で動くものだったら幅広く表せてしまうのですがautoraedaだと、先述のように「自動で動く四輪馬車」とイメージを狭めて自動車に近づけることができるので、autoraedaの方がしっくりくる訳だと感じます。
また、Suzucaeという形にすこし違和感を覚えた方もいらっしゃると思います。これは地格というもので、「~で」を表します。例えば「ローマで」はRomae、「東京で」はTociiです。属格と同じ綴りですが、地格は必ずしも属格と同じとは限りません。例えばシチリア島の「シラクサで」は、 Syracusisという風に、奪格と同じ綴りになります。また、NUNTII LATINIではSuzucae, in urbe Iaponiaeと説明の語句が足されています。このように固有名詞の地格を説明する際は、きちんと前置詞を伴ったフレーズにします。
しかしながら、あらためて見るとこの文は主語と動詞がかなり離れていますね。factum estが中性なのは主語であるcertamenが中性だからなのですが、それをfactum estという動詞が来るまで覚えておく必要があります。
次の文です。
Primus evasit Mika Häkkinen Finnus, cum Michael Schumacher, acerrimus eius aemulus, vehiculo rupto certamen intermittere coactus est.
フレーズごとに訳します。
Primus evasit 一位になった
Mika Häkkinen ミカ・ハッキネンが
Finnus フィンランド人
cum ~の時
Michael Schumacher ミハエル・シューマッハ
acerrimus eius aemulus 彼の一番激しいライバル(彼といちばん激しく争うライバル)
vehiculo rupto 車が壊れて
certamen intermittere 試合をやめる
coactus est ~するように強制された(~せざるを得ない状況になった)
つなげて訳すと、「フィンランド人ミカ・ハッキネンが一位になった。それはどんな時かというと、彼の一番激しいライバルであるミハエル・シューマッハが、乗り物が壊れて試合をやめざるを得ない状況になった時である」
となります。すこし変な日本語だと思います。英語でもwhen「~の時」がある文は、普通when節から先に訳す方が日本語として自然なのですが、今回は acerrimus eius aemulusというフレーズのeius「彼の」があるので困りました。cum節だけを先に訳してしまうと、eius「彼の」の彼はだれ?と疑問が残ってしまうのです。
今回の文ではvehiculoという語に注目しようと思います。これは古代ローマ時代には「荷車、馬車」という意味で使われた単語ですが、ここでは乗り物一般を指す単語として使われています。前の文で使われた”autoraeda”がここで使われていないのは、単語の繰り返しの使用を避けたものと思われます。
最後の文を見ていきましょう。
Maximum est, quod Häkkinen etiam in sedecim certaminum serie primatum certationis mundanae assecutus est.
フレーズごとに訳します。
Maximum est もっとも重要である
Quod 以下のことが
Häkkinen ハッキネンは
Etiam ~もの
In sedecim certaminum serie 17周目で
Primatum 首位を
Certationis mundanae 世界一を決める競技の
Assecutus est 獲得した
通して訳すと、「最も重要なのは、ハッキネンはなんと17周目で、世界一を決める競技の首位を獲得したということである」となります。
Certaminum serieというのはなかなかなじみがないフレーズだと思いますが、これはコース一周を指すフレーズです。 Neues Latein Lexiconにも、” Runde, f (Sport) certaminum series”と書かれています。
これでニュースは終わりです。ラジオ放送では、おそらく全体では1分行くか行かないかの分量ですが、これをラジオ放送を聴いただけで瞬時に理解するのは相当難しいと思われます。NUNTII LATINIは古代ローマ式の発音なので文字起こしは難なくできると思われますので、もし興味がありましたらPodcastでダウンロードして文字起こしして、ニュースのラテン語を味わってみてください。また、下のボタンから私にサポートもいただけると泣いて喜びます。あらためてこの記事を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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