揺れる、はるか地面から遠く
スカート丈を、5cm変えた。
あれやこれやが片付いて、そしたら洋服もなんだか一新したいような気持ちに駆られて、
それで、ずいぶん整理して、すこし、新しいものを迎え入れた。
洋服というのは、いつも賞味期限より消費期限が先に来てしまってさみしい。
まだまだ大好きなのに、汚れや、ほつれや、たくさん着たしるしがそこには次々ついてしまう。毎日優雅にしているわけにもいかないから、それは仕方のないことなのだけど。
だからなるべく似たシルエットのものを探そうと思って、サイズははなから測って頭に入れてある。
肩幅はいくつ、身幅がいくつ、総丈はいくつ、といった具合にして。
数字ってこういうとき、とても便利。
だけど今回その数字に、少しだけ変化が生じた。
適切だと思うワンピースの総丈が、5cm増えたのだ。
今までは、膝のちょうど真ん中くらいがベストだと思っていた。実際まだその丈のものも、所有しているし、着るつもりだ。
けどいま新しく買うなら、膝より3cmくらい下に裾がくるのが、なんだかとても心地いい気がした。
少し前に流行った、ミモレ丈というのでもない。とても微妙なのだけど、その5cmはとても大きい。
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この5cmは一体どういうことなのだろう。
この数ヶ月の暮らしぶりのせいで、少し脚のラインや体型が変わったのもあるかもしれない。もしかしたらこれが”年をとる”ということなのかもしれない。
いつも人のことばかり見ているくせして、自分の変化を見逃していたらどうしよう。そう思うと心が不穏になる。
一方で、むかし母の古いスカートを履いて遊んだときのことを思いだす。
それは赤いタータンチェックの、細かいプリーツがいっぱいになったスカート。多分、くるぶしより少し上くらいのところで履くようなものだった。いま持ち出してきても十分使えそうな。
当時小学生のわたしに、そのロングスカートは当然全く似合わなくて、
でも長いスカートはなんだか大人のひとになったみたいで、裾を持ち上げたり、蹴り上げたり、くるっとまわってみたりした。大人のひとは、面倒でエレガントなものを着ているのだなあとか、うっすら思っていたような気もする。
本当にこんなものが似合うようになるのだろうかって、そのときは全然、考えもしなかったけど。
でもいまわたしのスカートの丈は5cm長くなって、それはたぶん、大人になったってことなんだろうと思う。
たくさんの生地にも負けない自分が、鏡の中には立っている、いたらいい、そう考えている。
わたしは脚が綺麗ってタイプじゃないから、スカートの丈は今後長くなりこそすれ、短くなることはないはずだ。
けど見てみればそれはまだまだ地面から遠くて、これからもまだ、変化の余地はいくらでもあることに気づく。
だから、いつも自分にいちばん心地よいところで揺れていてほしいなって
新しい裾を見ながら、少し思う。