雨の日、桜と優しい色たち
桜って雨に濡れると、一気に惨めだ。
そんなこと、なんとなくみんなが考えている。
わたしたちが桜といったときに思い浮かぶのはやっぱり、きっと、
青空目指して、天高く登っていく薄いピンク。
もくもくと花びらを重ねては、
わたしたちを威圧する薄いピンク。
このざわざわするのが、この圧倒が、この反対色が、
この季節の醍醐味だから
やっぱりお天気はよくなくちゃ。そう、思っていた。
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ところが今年の東京ときたら。
桜が咲ききった。そう思ったら、雨と風がやってきた。
でもね、そんなときにも
わたしは美しいものを、見つけたよ。
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雨、ベージュをほんのりと焦がしたよなフリルの傘をさす。
雲が不穏に流れていく空には大好きな、
グレーとピンクの組み合わせ。灰色の空に桜が咲いてる。
花は雨に打たれて、次々落ちる。
まるで、桜の花びらが降ってしょうがないから
傘をさしているみたいな気持ちになる。
朝早く、街は雨音で自分だけの世界みたいだから
すこしだけ楽しくなって、
桜並木の下、右にくるり、左にくるりと。
傘をさした、わたしはジーン・ケリーのように踊る。
雨も、風も、ひどいものだから
わたしの傘はあっという間に桜の花びらの柄になる。
ベージュにピンク。
これだって好きな組み合わせ。
誰もいない朝の世界で
桜の花びらの降るこの世界で
すべてが雨にぼやける世界で
優しい色だけを身につけて、わたしは踊る。
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普段ならきっと鬱陶しいだろう。
雨が降り、散った花弁が傘といわず服といわず、まとわりつくなんて。
けどせっかくの桜だ。それをどうして楽しもう。
そうやって考えたら、
この煙った優しい色を楽しむのもまた、一興だと思った。
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青空に桜。それは反対色。
わたしたちは少しだけ浮ついて、心がざらざらする。
けれど雨が降れば
雨さえ降ってしまえば。
世界は柔らかく、どこにも尖った色はなくなる。
そんな日は思う存分、その色の中で休息を。
そういう遊びを覚えたならば。
わたしたちは
雨の日に桜が咲いてももう、落胆することはないね。
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