余計を抱えて旅にでる
少し前まで、旅の荷物は少ないのがいいと思っていた。
小さなスーツケース、あるいは手提げかばんにすっかり入ってしまうような量の持ちもので列車や飛行機に飛び乗り、
身軽に動けることと、失うものがないことが良いのだと思っていた。
足りないものはその場しのぎでなんとかしたり、それ以前に足りないものなんてほとんどないということにどこか優越感を持ったりして、
そういう、感覚を研ぎ澄ませている旅が好きだった。
だけど最近、すこし気持ちが変わってきた。
それで意識的に、荷物を増やして旅に出るようにしている。たとえそれが小さな旅行であったとしても、そうするようにした。
いつもよりふたまわり大きいスーツケースをひっぱり出して、一緒にあったらこころたのしく快適に過ごせるものたちのことを考えてみる。
それはたとえば、ホテルの部屋で使うためのちいさなスピーカーだったり
読んでいない本を詰め込んだKindle、それに
歩きまわった日の夜のための、いい香りがするボディクリームだったり
柔らかい部屋着だったり
素敵な出来事があったときのために余計に持っていくワンピースとか、それにあわせたいま履いているのとは別な靴とか
あとは、つけたくなるかもしれないアクセサリーや伊達眼鏡だったりする。
必要か否かと問われれば、ぜんぶいらない、と言えるようなものたち。
日常を彩るものものと、たくさんの遊び道具。それらをわざわざ持ってでかけるのが果たして旅というのだろうかと、たぶん以前のわたしならそう思ったはずだ。
だけどこういうものを持って出たら実際、旅は今までよりずっとずっと甘く華やかになった。
だって出かけて遊んでくたくたになったとして、ホテルに戻ればまだ楽しいことが待っている。
好きな音楽を音のいいスピーカーでかけて、お風呂にはすっかり疲れがとれるような入浴剤を入れて、
気持ちのいい部屋着に着替えて、眠くなるまで気になる本を読む。
目が覚めたら、すこし多めに持ってきた洋服の中から何を着ようか、どのアクセサリーをつけようか、窓の外の天気を見て選んだりする。
旅先でしかできないことではないし、だからその場でしか体験できない不自由を楽しむのが旅だと言われれば、これはちょっと違うのかもしれない。
だけどいまのわたしはこうやって、好きなものや楽しいもの、安心できるものをいっぱい携えてでかけるのがなんだか、気分に合っている。
いまはずっとたのしい気持ちでいたいのだ。
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大好きなものを思いっきり詰め込んだら当然、スーツケースは重くなる。
なくなったり忘れたりしたら困るなと、持っていくか迷うときもある。
それでもなお、今のわたしはそういうものと一緒に旅に出たい。
好きなものをいっぱい詰め込んで、なにか期待してるような気持ちを込めて、
ひとりでいるときも、誰かといるときも、
四六時中、たのしい気持ちでいたいから。