世界は捨てたものじゃない
先週、こんな憂国の記事を書いたばかりだけれど
嬉しいこともやはり同時に存在する。
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美しいハンカチを持ちたいと、かねてより思っていた。
憧れのイメージはもう、出来上がっている。
それは白い麻のハンカチ。スワトウ刺繍が望ましい。
ハンカチ自体はシンプルで、大きすぎず小さすぎず、
ひとつの角にイニシャル。
それを囲むように、華美に過ぎない刺繍があるのがいい。
昔々から読んでいる、大好きな本に載っている写真、そのままなのだ。
それで、その本には「銀座の和光」でオーダーしたと書いてある。
和光ならまだあるのでは、と淡い期待で出向いてみれば、
やはりもうその商品は置いていなくて。
アートのようなハンカチばかりがくらくらする。
仕方がないね。そう思って、すこし寂しい気もしながら帰って、
それでも諦めきれずによくよく調べたならば。
なんとまだ、それは生産されているらしい。
しかも店こそ変われど、百貨店にも置いてある、とのこと。
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わたしのイメージの源、その大好きな本の刊行は、1996年。
つまりその会社は約20年、同じものを作りつづけているということだ。
スワトウ刺繍は、中国の汕頭で、代々母から娘に受け継がれる刺繍。
キリスト教の宣教師によって伝えられた刺繍が、中国の技術と組み合わさってできたものだから、
誰が見てもほんの少し、異国情緒を感じるデザイン。
きっとその昔。旅立つ汽車に乗る女は、白いハンカチを振ったのだろう。
誰かの記憶と自分の記憶の、境目がどこかに溶け出して、
行ったこともないのに、遠くに置いてきた土地を思い出しそうな
郷愁を誘う、女の持ち物。
聞けば、一度はお針子さんの減少で、生産が不安定になったらしい。
いまでは機械織りのものも多くなったようだけれど、でも
20年の時を経てなお、それは生き残っていた。
自分が素敵だと思ったものが、かつて憧れたものが、生き残っていた。
それはなんと、嬉しいことだろう。
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いいものを作れば分かってくれるなんて
悠長なことは言えないけれど、
それでもどこかで信じてる。美しいものは、強いはず。
きっとまだまだ、したたかにしなやかに、
この世を縫って、生き残っているものがある。
そういうものをきちんと、見つけてあげられるようになりたい。
そういうものをきちんと、保護できる人でありたい。
世界は捨てたものじゃないはず。だから。