連載第5回ヴァン・モリソン「アクセンチュエイト・ザ・ポジティヴ」から聞こえる音楽史 ヴァン版「ユー・アー・マイ・サンシャイン」のサウンドに鳴り響くブギウギ
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Van Morrison / You Are My Sunshine
ヴァン版「ユー・アー・マイ・サンシャイン」のサウンド
ヴァン・モリソンのアルバム「アクセン
チュエイト・ザ・ポジティヴ」の1曲目
「ユー・アー・マイ・サンシャイン」について、曲の録音史、歌曲として何が歌われているか、そして録音史において多く生まれた
ヴァージョンの中からレイ・チャールズのものに注目し、その録音をした頃のレイのこと、レイとヴァンの関わりといったことについて、ここまで述べてきた。
そろそろ、いいかげん次の曲だろうとお考えかもしれないが、もうしばらくヴァンの「ユー・アー・マイ・サンシャイン」に関わることを記したい。
今度は歌と共にあるサウンドのことである。
すでに第2回で記したが、このヴァンのアルバム「アクセンチュエイト・ザ・ポジティヴ」の音造りは50'sR&B
(この表記は「1950年代のR&B」と書いた場合と同じことを意味するものとして使う)
の要素(それが1960年代初めに流れ込んだ頃くらいまでをも含んで捉えている)と、
ロカビリー〜ロックンロールの合体が基本線であり、※15
↓
Reverb(残響追加部)※15
↓
→アルバムの1曲目「ユー・アー・マイ・サンシャイン」はものの見事にそうした造りだ。タイトなサウンドが50’sR&B的で、歌モノのバックでエレキギターが前面に出ているのはロカビリーのあり方と受けとれる。(ギタリストのデイヴ・キーリー[ケアリー?Dave Keary]による間奏もとてもカッコ良い)。
歌モノのバックにおいてギターの存在が大きいのはブルースでも同じだが、ここでのギターはロカビリー的と受けとれる。
また、50’sR&Bではブルースが大きな基盤になっているが、ギターの存在感が占める比重は全体としては、ブルースより小さい。ではあっても、その世界で活躍したギタリストがいないわけでもないのだが。
しかし、そのサウンドの中で、ギターが占める度合いは50’R&Bよりロカビリーの方が大きいと捉えることができる。
ロカビリーの音源をここでまた
ロカビリーの音源は第2回である程度まとめて挙げたが、ここでは2曲聞けるようにしておきたい。
共に超有名曲ではあるが、エルヴィス・プレスリーのヴァージョンも名高いカール・
パーキンス(Carl Perkins)の
「ブルー・スウェード・シューズ(Blue Suede Shoes)亅(1955年)を、せっかくなのでプレスリーのヴァージョン(1956年)と両方、そして1950年代のロカビリーとしてより、1960年代のブリティッシュ・ロックの重要曲のひとつ、ザ・ヤードバーズ(The Yardbirds)の代表曲としての方がより知られているかもしれない「ザ・トレイン・ケプト・ア・ローリン(The Train Kept A Rollin’)亅のジョニー・バーネット・トリオ(Johnny Burnette Trio)の
ヴァージョン(1956年)である(ヤードバーズが最初にこの曲を録音したのは1965年で、この時のギタリストはジェフ・ベック
[Jeff Beck]であり、うっかり落ちてしまったのだと思うが、彼らのこの録音の曲名には、「The」がついてない)。
実のところジョニー・バーネットが録音した曲はこれとは別の曲が、このヴァンのアルバムでカヴァーされていて後で出てくる(記事冒頭の画像に表示の曲目の10曲目「ロンサム・トレイン」で、トレインつながりに結果としてなった)。
なお、ジョニー・バーネットのヴァージョンもカヴァーで、1951年にジャンプ・ブルースのシンガー、タイニー・ブラッドショウ(Tiny Bradshaw)が発表した録音がオリジナルである。
「ザ・トレイン・ケプト・ア・ローリン」のオリジナルとジョニー・バーネット版とのつながり
このことから、ジャンプ・ブルースの潮流は、1950年代のR&Bと直結しているので、R&Bとロカビリーの境が、少なくとも音楽としては見定めがたい面があることの一例だと言いたいところだが、この曲の場合、ふたつのヴァージョンには違いがかなりあるので、そう言いづらくはある。
だがともかく同じ曲には違いなく、ジョ
ニー・バーネットがタイニー・ブラッドショウのヴァージョンの何をどうしてこういう風に仕上げたのか考えてみると、ふたつの
ヴァージョンのつながりも見えてくるように思う。
力強いけれど、のどかな雰囲気もあるブ
ラッドショウのヴァージョンでは、ピアノがブギウギっぽい演奏をするが、それは音造りの後ろの方に引っこんでいて、背景に位置している。
ジョニー・バーネット・トリオのヴァー
ジョンは、テンポもずっと速く、のどかさなど微塵もない緊迫感に満ちた造りだが(列車の速度がだいぶ違う感じだけれど、どちらも魅力的である)、これはブラッドショウのものでは、背景に引いていたピアノのブギウギ的なスピード感に焦点を合わせ、同期して、前面に押しだすことで、できあがったのではないだろうか。
またブラッドショウのヴァージョンにはギターも含まれていて、けっこう活躍しているので、50sR&Bではギターが占める割合が小さいとも言いづらいのだが、それぞれのギターのあり方の違いが聞けるのは確かだろう※16
Reverb(残響追加部)※16
2024-10-30重要な追記
以下の文章でタイニー・ブラッドショウの楽団の「トレイン・ケプト・ア・ローリン」の録音で弾いているギタリストをBob Lesseyだとしていますが、大嘘の大間違いです。
Bob Lesseyは1930年代にはブラッドショウの楽団のギタリストでしたが、この1951年の録音では弾いてません。
この録音で弾いているのはウィリー・
ガディ(Willie Gaddy)というギタリストです。
くわしくは明日以降にお知らせしますが、今このまちがいに気がつきましたので、取り急ぎ、まちがいのご報告だけ今夜はしておきます。すみませんでした。
2024-10-31追記
そもそも最初に掲載した下記Reverb(残響追加部)の文面から、内心、少しおかしいなと思いながら書いているのが伝わってくるのですが、おかしいなと思ったら、安易に割りきって楽をしようとせずに、あいまいな所を追求すべきでした。
チャーリー・クリスチャンより上の世代のギタリストが、1951年のR&B的な曲で弾いているというのが、引っかかっていたのに適当に辻褄合わせをした文章を書いてしまいました。
そのデタラメな文章を書いた時には、まず、このギタリストは誰なのかと思い、このページを見つけたのでした。
このぺージに記されているのは「ミス
ター・ウィル・ユー・セレネイド(MISTER, WILL YOU SERENADE?)」という曲に関することです。
その曲の音源がいくつか挙げられているうちの2番目にタイニー・ブラッドショウの楽団のものがあり、パーソネルも記されているのを見たわけです。
文面からして、信頼できる記事と考えて記述の拠り所にしました。
信頼できる記事なのはまちがいないと現時点でも思いますが、この記事で知ったことを私がどう判断するかという点で、つまり私の側に大きく欠けているところがあったのです。
このページには挙げている録音の時、所についても記載があり、タイニー・ブラッド
ショウの録音は1934年9月19日にニュー
ヨークにてと記されています。
そこで、しっかり考えるべきだったのは、この時のメンバーと1951年に発表した「トレイン・ケプト・ア・ローリン」の録音のメンバーとが異なっている可能性についてです。
さらに、このページに挙げられている音源を聞けば、これは違うギタリストだと分かるはずでした。
何よりもジャズ系の流れがR&Bへと連なっていくところでの1930年代と1950年代の録音ですから、ギターがアコースティックからエレクトリックへと変わっているのは音を聞かずとも、まずまちがいないのでしたが、これも戦後になればエレクトリックを弾くようになったのだろう、くらいに考えてしまいました。
音を聞く手間を省き、正直なところ、うっすらとは、この世代のギタリストが、戦後のR&B的な音楽で弾いているだろうか? と思いつつ楽な方に流れて口先の言葉でごまかした結果の誤りです。
「トレイン・ケプト・ア・ローリン」で弾いているギタリストがウィリー・ガディだとする根拠はDiscogsにある、以下のページです。
タイニー・ブラッドショウの録音を集めたCDの情報が記されていているページですが、Creditの所に収録曲中7曲でウィリー・ガディが弾いていることが記されています。
このCDを制作しているコレクターレーベルは信頼できるレーベルですので、今回、訂正の拠り所にしました。↓
https://www.discogs.com/ja/release/11371112-Tiny-Bradshaw-The-Chronological-Tiny-Bradshaw-1949-1951
このギタリスト、ウィリー・ガディの参加した録音は、こちらに挙げられています。実際はもっと多いでしょうが、ジャンプ・ブルース〜R&Bの潮流において活動した人なのは充分、分かります。https://www.discogs.com/ja/artist/3538365-Willie-Gaddy
まったく手を抜いたあげくの大間違いで、まことに申し訳ありませんでした。重ねてお詫び申し上げます。
なお、ことのついでに情報を追加しておきます。ただ、これも記事を書いた時点で書いておくべきだったとは思うことですが。
タイニー・ブラッドショウの「トレイン・ケプト・ア・ローリン」ではピアニストがブギウギ・ピアノ的な演奏をしている点に、この記事では注目したわけですが、そのピアニストの名前を記していませんでした。
しかし今回、ギタリストのウィリー・
ガディの名前を知った上掲のページで、「トレイン〜」で弾いているピアニストの名も知ることができました。ジミー・ロビンソン(Jimmy Robinsonこれは略称で本来はJames Robinsonであったそうで、Jimmy “Bee Bee” Robinsonと呼ばれることもあった)です。
参加した録音は↓
https://www.discogs.com/ja/artist/2695212-James-Robinson-12?superFilter=Credits
挙げられている録音からは、この人もジャンプ・ブルースからR&Bの流れの中で活動したことが分かります。
Wikipedia英語版の「The Train Kept A Rollin’亅のページ
Bob Lesseyが録音に参加したレコード Discogs
なお、45回転シングル盤として、このバーネットのトリオの録音は発表されたのだが、そのレコードの裏面も、やはりジャンプ・ブ
ルースのシンガーで、1950年代のR&Bのシンガーとしても活躍し、これから先連載の中で明らかになるようにヴァンの「アクセンチュエイト・ザ・ポジティヴ」にとっても大きなテーマであるビッグ・ジョー・ターナー(Big Joe Turner)のヒット曲「ハニー・ハッシュ(Hunny Hush)亅
(この曲、第2回でアトランティックのR&Bのプレイリストをふたつ挙げたうちの、タイトルに「Vol.2」とある方に収録されていた)
のカヴァー録音が収められている。
(Discogsのこのシングルのページを見ると、プレスによって、この2曲それぞれがA面、B面どちらに収められているかが、異
なる場合のあったことが分かる。最初にプレスされたものでは「トレイン〜」がA面だったようだが。Wikipedia英語版のこの曲のページでもB面が「ハニー・ハッシュ亅だとしている)。
Johnny Burnette Trioの「The Train Kept A Rollin’亅収録の45回転シングル Discogs
◎Blue Suede Shoes
Carl Perkins
Elvis Presley
◎The Train Kept A Rollin’
The Johnny Burnette Trio
Tiny Bradshaw
The Yardbirds
50’sR&Bとロカビリーの関係から浮かび上がるブギウギ
何の気なしにロカビリーの一例として「ザ・トレイン・ケプト・ア・ローリン亅を挙げておこうと思ったら、思いがけずブギウギからジャンプブルースへ、そこからさらにロカビリーから1960年代のロックへと連なっているスピード感、ビート感に改めて出会うことになった。
ロカビリーの実例を挙げておこうとしたのは、とりあえず直接的にはヴァンの「ユー・アー・マイ・サンシャイン」のギターのサウンドに関連づけてのことだったが、「ザ・トレイン・ケプト・ア・ローリン」を聞くうちに、ロカビリーとジャンプ・ブルース〜50’sR&Bとが共有する要素として、ブギウギ・ピアノという要素が浮かび上がってきたわけである。
実のところヴァンの「ユー・アー・マイ・サンシャイン」においても、ピアノのブギウギ的な演奏を聞けるのだが、このことは、今見てきたようなわけで、50’sR&Bとのつながりと理解することができる。
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ブギウギから50’sR&B行きを超特急で
ブギウギ自体はピアノ音楽として1920〜1930年代に盛んだったわけだが[1930年代にはブルースの音楽家として伝説的な存在であるロバート・ジョンソン(Robert Johnson)が、ギターでブギビートを刻んでいたのも重要であるだろう]、第2次世界大戦が1945年に終わった後もその勢いは衰えず、ピアノ主体の音楽でこそないものの、ピアニストを含んだ編成で1940年代から1950年代にかけてR&Bチャート、さらにはポップチャートでもヒットを生んだロイ・ミルトン(Roy Milton)や
ジョー・リギンズ(Joe Liggins)の楽団などは、その流れを受け継いだと言えるだろう。また、その同時代には(ロイ・ミルトンの楽団のピアニストだった)カミル・ハワード(Camille Howard1914年生まれ)や、ハダ・ブルックス(Hadda Brooks1916年生まれ)のような女性のブギウギ・ピアニストの活躍もあり、あるいは男性のピアニストとしてはセシル・ギャント(Cecil Gant1913年生まれ)もブギウギを得意としていた(考えてみれば当然のことではあるのだが、この3人のピアニストが同世代なことに気づいて、すっかり感じいってしまい、それぞれの生年を書き加えてしまった)。
そうした状況を経て、ブギウギの潮流は1950年代へと流入し、ルイジアナ州ニューオリンズ出身のファッツ・ドミノやジョージア州メイコン出身のリトル・リチャードの音楽などで、その生命力が躍動している。
Roy Milton And His Solid Senders
_Information Blues(1950年)
Joe Liggins And The Honeydrippers
_Little Joe’s Boogie(1950年)
Fats Domino_Don’t You Know I Love You(1958年)
Little Richard_Long Tall Sally(1956年)
このようなブギウギの躍動感の潮流が、21世紀になって発表されたヴァンの「ユー・アー・マイ・サンシャイン」には流れこんでいるわけである(なお、音源を挙げたファッツ・ドミノとリトル・リチャードの曲も、今回の記事で聞いた曲ではないが、やはりヴァンの「アクセンチュエイト・ザ・ポジティヴ」でカヴァーされている)。
【次回記事に続く】
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連載の全体については以下の記事をご覧になっていただければと思います。
ガイドマップ的ご案内+目次 / 連載記事 ヴァン・モリソン「アクセンチュエイト・ザ・ポジティヴ」を読んでいただくに際して
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