「惜しくも」とすんなり言える人間でいたい
こんにちは、須恵村です。
趣味で小説を書きながら、音声書き起こし(反訳)の内職をしています。
こちら「note」では、言葉や仕事術についての雑文を公開しています。
まだ市議会事務局に勤めていた頃のことです。
「議会事務局」「議長室」「副議長室」は横並びにになっていました。
議会事務局は、いわゆる役場やオフィスの一般的なつくりを想像していただけると分かると思いますが、オープンになっていて、来客はカウンターで受け付けていました。
議長室と副議長室にはそれぞれプレートと扉が別個であったものの、この三つの部屋の間は行き来できる設計になっていました。
そして事務局の片隅に、議長室と副議長室の電話があり、基本的に職員が取ることになっていました。
ある日、いつものように議長室の電話が鳴り、たまたま私が一番近くにいたので取ったところ、「〇〇議長いらっしゃいますか?」と言われました。
いや、議長室に議長宛ての電話がかかってくるのは何一つおかしくないのですが、問題は「〇〇」の部分に入る名前です。それは実は2代前の議長の名前でした。
当時勤めていた議会では、慣例的に議長は2年ごとに代わっていました。
○○さんはその当時、議長どころか議員職から引退していたのですが、電話の向こうの方は、それを全く知らなかったご様子でした。
本来ならば「恐れ入りますが、○○さんは現在、在籍していません」程度で済む話だったのですが、なんと、本当にたまたまそのタイミングで、○○さんは現議長のもとを訪れていたのです。
個人的な御用でいらしていたようですが、これはどうしたものかと思い、「あのお…○○さんにお電話です」と声をかけたところ、ご本人も大変驚きつつ電話に出ました。
その話は後々、ちょっとした語り草になりました。
エピソード的には地味かもしれませんが、普通はあまり起こらない偶然ですからね。
それはそれとして困ってしまうのは、フツーに落選したことを知らずにかかってくる、「〇〇議員いますか~?」的な電話でした。
選挙区内の方ならご存じのはずですが、たまたま他の自治体の方なのか、はたまた、よそに引っ越された方なのか。
一応、各会派室に電話はありますが、それでも「とりあえず」という感じで事務局に電話をしてくる方が一定数います。
いらっしゃる場合は転送すればいいし、いない場合は「本日はいらしていないようです」でおしまいです。
これが(落選したという事情で)その場にいなかった場合、「残念ながら、さきの統一地方選で…」みたいな感じで言葉を濁しながら、葬儀に出席中の「このたびは…」「まだお若かったのに…」みたいなモニョッとした態度で、「察しろ!」ビームを送ります。
いや単に「落選したので、現在議会にはいらっしゃいません」でいいのかもしれません。
近くで私の受け答えを聞いていた先輩職員に、「君が悪いんじゃないんだから、そこまで恐縮しなくても」と笑われたりしました。
もうああいう状態で電話対応することはないでしょうが、それでも悔やまれるのは、「残念ながら」ではなくて「惜しくも」という言葉を使えばよかったかなということです。
どちらも似た意味ではありますが、「惜しくも」という言葉を使えば、「(実態はさておいて)次点・僅差で本っ当に残念ながら議席を失いました(**下記注)」という感を演出できたのでは、と。
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なぜそうなるのか!と不思議なのですが、惜敗を「ざんぱい(惨敗)」と読み間違える方が一定数いるなあというのを、経験上何度か見聞きしているので、「日本人なら訓読みの言葉の方が事故らずに済む確率が上がる」と、実感から思っています。