頭の中で文字がおどる 表記のお話
突然ですが。
Q、もんた&ブラザーズ、中森明菜、U2、この3組のアーティストに共通する楽曲のタイトルは何でしょう?
A、デ(ィ)ザイア―[DESIRE]
ちなみに中森さんのタイトルは、正式には「DESIRE -情熱-」だそうです。
もし書き起こし音声の中で、これらのタイトルが話題に出たとき、私はどのように表記するか?
クライアントからのご指定がない限り、2組の日本人のものは「DESIRE」、U2の曲は「ディザイアー」にするでしょう。あるいは全部片仮名です。
その際、「デザイアー」か「ディザイアー」か「ディザイア」かで表記の揺れはあるかもしれませんが。
ごちゃごちゃ細々何言ってんだと思われそうな話ですが、もちろん理由はあります。
カラオケで洋楽を歌ったことがある方なら、経験があるのでは?
岡本真夜さんの「TOMORROW」と、ミュージカル『アニー』でおなじみの『トゥモロー 』。一応同じタイトルのはずなのに、なぜ日本語の歌がアルファベットで、英語の歌が片仮名なのか?
ちなみにビートルズの『イエスダデイ』と、Official髭男dismの『イエスタデイ』。これは両方とも片仮名表記です。
ここまで書けば、敢えて理由を書くまでもないかもしれませんが、要するに「その表記でリリースされているから」です。
「ディザイア」「トゥモロー」は、日本人アーティストがアルファベット表記のタイトルで発表したのでアルファベットになっています。
さらに、大文字で始まってあとは小文字か、全部大文字or小文字か、または一種のデザイン的に、最初の一文字だけ小文字であとは大文字だったり、Sの代わりに$を使う、なんてケースもあるでしょう。
余談ですが、ドルマークがなぜこのデザインなのかは、こちらが参考になるかと思います。
それに対して外国人アーティストの楽曲は、日本でリリースするときに「邦題」というものが付されます。
「恋と涙の○○」とか「愛と友情の○○」とか、言語センスがベタ過ぎるを通り越してバグってそうなのをつけられることもありますよね。最近はそうでもないかな。
今回例に挙げたものの場合、「ディザイアー」にしろ「トゥモロー」にしろ「イエスタデイ」にしろ、全て英単語を片仮名読みにしただけのものなので、これを邦題とみなし、片仮名表記にするわけです。
つまり、日本で外国人アーティストの曲が発売されたとき、「邦題として」アルファベット表記にされていたら、当然それに倣ってアルファベット表記になります。
正直なところ、全ての曲について、発売されたときのライナーノーツでどんな表記になっていたのかを調べるのは大変なので、ウィキペディア、Amazon、You Tubeなど幾つか当たり、「このあたりが相場っぽい」と思われるところを採用します。
だから、厳密に“それ”であるとは言い切れない場合もあるのですが、あんまりやり過ぎるのも、ほかの作業の妨げになるので得策ではありません。「これで手打ちにしよう」といったところです。
もちろん、開き直って全て片仮名、または外国語の曲の場合、全てその国の原語にするというのもナシではないでしょうが、英語やヨーロッパの言語、中国や韓国など周辺国の比較的見かけることの多い文字ならまだアリですが、例えばロシア語などのキリル文字、タイ語、ペルシャ語、アラビア語まで対応できるかどうか…少なくとも私は無理です。その場合は、謹んで片仮名を使わせていただきます。
何でこんなしち面倒くさい話をいきなり始めたかといえば、詳しくは言えないものの、今、音楽関係のインタビューを1本提出したところでして。
これが日本人と欧米のアーティストや楽曲名が入り乱れたものだったため、検索と吟味だけで、もうクッタクタになってしまいました。
また、アーティストは有名無名問わずお友達の話が多かったので、よく分からん身内感満載のニックネームも多目でした。そういうのは、前後の文脈で分かったり分からなかったり。
全て終わって納品したとき、私はほぼ仁王像のような顔になっていました。鏡を見たので間違いありません。
いただけるお仕事は、基本何でもありがたいのですが、だからといって、作業が大変でないわけではありません。
もやしのひげでも取るように、さやえんどうの筋を取るように、淡々と粛々と進められるタイプの仕事が一般的ですが、今日のは何というか、パンをこねるくらいの重労働のたぐいでした。
今後、ネットでインタビュー記事を読む皆様へ。
ライターさんのお仕事に敬意を表するのは当然としても、裏で仁王像顔で入力していたかもしれない文字起こし人にも思いをはせていただけますと幸いです。
(特に芸能系・サブカル系は固有名詞の情報量が半端ないので)