百人一首についての思い その88

 第八十七番歌
「村雨の露もまだ干ぬまきの葉に霧立ちのぼる秋の夕暮れ」 寂蓮法師
 にわか雨が通り過ぎ、まだ露も乾かぬ槇の葉のあたりに、霧が立ち上っている秋の夕暮れです。
 
 The sudden shower
 has not yet dried.
 From the leaves of black pines,
 wisps of fog rise
 in the autumn dusk.
 
 
「にわか雨」というのは、大気が不安定な時に突然降り出す雨のことだ。つまり、青天の霹靂のような大事件が起きて、世の中が乱れた。大事件による混乱(霧)をなんとかしなければともがいているうちに、さらに大きな問題(霧)が再び立ち上ってきた。そのような大混迷の時代に入っていくのだ。
「保元の乱」、「平治の乱」と、大きな乱が起き、多くの人の血が流れた。貴族政治の大混乱が収束しないままに、再び霧が立ち上る。平氏が台頭し、武家の時代が来るのだ。そのような時代の流れを寂蓮は和歌に詠み込んだ。
 秋の夕暮れは寂寥感に溢れている。しかし、いくら寂寥感があっても、自然の営みは営々と続く。ならば、気力を振り絞って再度立ち上がるしかない。きっと、新しい時代が来ると信じて。



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