何者かになんて、なれない。
「何者かになんて、なれないですよ」
その一言で、メモをとっていたわたしははっと顔を上げた。それだけでちょっと泣きそうになってしまうくらいに、まっすぐに胸に届いた。
あとに続いたのは、「あなたは、あなたになるんです」という言葉だった。
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先週の土曜日から、「言葉の企画」という講座に通い始めた。
コピーライターの阿部広太郎さんが講師をつとめる、月1回半年間にわたる講座だ。「企画メシ」から独立して今年から始まったもので、わたしは言葉の企画第一期生ということになる。(うれしい)
いっぱい悩んだけれど、勇気を出して受講することを決めた。
その第一回目の講座の冒頭に、阿部さんがおっしゃったのが先の言葉だ。
「何者かになんて、なれないですよ」
書くことを仕事にしたいと思い始めてからずっと、何者かにならなければいけないと焦っていた。
何者かにならなければ、この社会で息がしづらいと思っていた。
でも、自分が自分である以上、何者かになるなんて、不可能だ。わたしはわたしでしかない。
何者かにならなければと焦るよりも、「わたしが望むわたしになる」。そのために努力するほうがよっぽど健全だな、と思った。
「何者かにならなきゃ」がかえって自分の首をしめて、息を苦しくさせていたことに気づいた。
予防線を張るのはもうやめる。
そうやって焦ってしまっていたのも、結局、今の自分に圧倒的に自信がないからだ。
「何者かにならなきゃ」と「結局何者にもなれない」のあいだで、ずっと葛藤していた。不安と焦りが募る一方で、ふつふつと湧き出す逃げ出したい気持ち。
今回の言葉の企画も、参加に踏み切ったはいいもののずっと怖かった。実績も肩書もない。なんとなくみんなすごそう。ばかにされたり、笑われたらどうしよう。
そんなふうに思ってしまって、〆切ぎりぎりでなんとか提出した事前課題にもなかなか向き合えなかった。自分の課題はもちろん恥ずかしかったのだけど、他の71人の企画がつまったURLを開くことができなかった。自分のみじめさに直面したくなかったから。
そんな不安を、わたしはあらゆるところに「予防線」という形で意図的に表現してしまっていた。
これは、事前提出した企画書に阿部さんが赤入れしてくださったもの。いちばん最後のページだ。
見破られてしまっていた。
自分を落として、「未熟者」だとか「恥ずかしい」とか、そういう言葉で予防線を張って、自分を守っていたことを。
いざ腰を据えて、71人の仲間の企画をひとつひとつ丁寧に見ていったら、開かないでうじうじしていた時間を後悔するくらい、わくわくが詰まっていた。
自分の企画を恥ずかしいと思っていたら、「企画、好きでした」と声をかけたり投票してくれた人たちがいた。
この講座にも、他のメンバーにも真剣に向き合っている阿部さんや仲間たちを目の当たりにしたとき。結局予防線を張って、自分を守ってばかりいることが、いちばん恥ずかしいなと思った。
だから、もうおしまいにする。
不安がにじみ出た言葉をだらだらと綴るのではなく、相手にいちばん伝えたいことを「短く、強く」。伝えるのではなく、伝わるように。
これからのわたしの課題だ。
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帰り際、阿部さんの書籍「待っていても、はじまらない。―潔く前に進め」を購入したときに、はじめて直接おはなしをすることができた。
Facebookの申請のときに、例によって予防線をはりまくったメッセージをしてしまっていたので、名前を見て思い出してくださった。
もっと自信を持ってください、と言っていただいたので、頑張ります…!とお答えしたところ、
「頑張らなくていいですよ、そのままでいてください」
ああ、やっぱり阿部さんの言葉は胸にすとんと届くなあ。こんなふうになりたいなあと思った。
もちろん、同じ言葉の企画生の仲間たちもそうだ。みんな言葉がすきで、相手のことを思って言葉をつたえていることがとてもよくわかって、優しい気持ちになった。
あんなに怖いと思っていたのに、1回目のはじめましての瞬間からもっともっと仲間のことを知りたくなっていた。うれしいな。勇気を出して行動していこうと思う。
さいごに
はじめの気持ちを忘れないよう、言葉の企画に応募したときの文章の一部を残しておく。
やわらかくもパンチのある言葉で、この社会に小さな変革を起こし続けたい。言葉の力で大切な人たちや自分自身をしあわせにしたい。
わたしの唯一できることであり、人生で成し遂げたいことだと強く思いました。これができたら、わたしは胸を張ってしあわせだといえます。
まだまだ抽象的だけど、嘘はひとつもない。まっさらな気持ちだ。
そのためにまずはこの半年間、全力でやるぞ~~!負けるな~~~~!
どうか、見守っていてください。よろしくお願いします。
(おしまい)
いつも読んでくださってありがとうございます。大好きです。 サポートいただけたら、とてもうれしいです^^ どうか、穏やかで優しい日々が続きますように。