映画『ラストマイル』感想【ネタバレ】
『ラストマイル』を見に行こうと友人に誘われた。
元々TBSドラマ『アンナチュラル』が好きだったわたしは二つ返事で同意した。
『MIU404』は放送時に重いドラマをみる体力がわたしになかったのであらすじを知っている程度だ。
ちなみにどちらもAmazonプライムビデオで見られる。
この座組の作品の共通点だと思うのだが、現代社会が抱える問題点を扱っていて、ある意味でのグロテスクさを感じる。
立場の弱い人間が立場の強い存在に踏みにじられて死んでいく。司法解剖現場(アンナチュラル)や警察の特殊機関(MIU404)が残された疑問を解決していくことによって闇に葬られようとしていた問題が明らかになり、踏みにじった強者に突きつける。
というのが大体の流れである。
悲しいかな、死人が出ないと話が進まないのである。
今回の『ラストマイル』も基本は同じ構造だ。
食らう人は食らう映画だと思う。
非常に面白いが、感想が難しい映画だった。
特にわたしと同年代でそこそこキャリアアップしている会社員は、ちょうど主人公と近しい立場にいる可能性が高い。
一緒に見た友人の感想が「よし、会社辞めよう」だったことから察してほしい。
さて、本編の内容に話を移すので一切のネタバレが嫌な方は目次でどうぞ。
『アンナチュラル』や『MIU404』を見ていなくても見られる
この二つのドラマとのリンクを強く謳っているので、未試聴の方は「わかるだろうか?」と構えるかもしれないが、話の本筋には関係ないので問題はない。
脇役の豪華さ驚くだけである。
『アンナチュラル』や『MIU404』が好きな人にお勧めな理由
同じDNAを感じるし、同じ世界観を謳っている通り警察や病院、司法解剖現場などで彼らがガッツリ出てくる。
以下、人名が多すぎて冗長になるので敬称は略す。
ほとんどゼロ情報で見に行ったので、医師として窪田正孝が出てきた時は「おお~医者になっとる!」と、キャラの未来が描かれたことに喜んだ。(後でサイトを見たら研修医だった)
しばらくしたら石原さとみも星野源も綾野剛も出て来た。
弁護士役で薬師丸ひろ子まで出てきた時は「お母さん!?!?」と一番びっくりした。
記憶の限りだが、UDIラボメンバーは全員出たのではないだろうか。ついでに葬儀屋もいた。
『MIU404』は相関図を見た限り機捜メンバーは全員いたと思う。
詳細は公式サイトの登場人物紹介ページ参照
映画『ラストマイル』公式サイト (last-mile-movie.jp)
本編のあらすじと感想
主人公(舟渡エレナ)は外資系大型ショッピングサイト「デイリーファスト」の巨大配送センターに新しく赴任してきたセンター長。
巨大な配送センターの社員は九人。あとは派遣アルバイト等でピッキングや出荷作業を行っている。
社員は長続きしないようで主人公を出迎えた梨本 孔も中途採用の2年目だ。
ある時デイリーファスト社初のオリジナルスマホ1台が発売日に爆発した。注文者は死んだ。
スマホの回収コストに頭を痛めつつ手配を進めていたらそして二件目、三件目と爆発は続く。
爆弾が仕掛けられた商品はスマホではなくデリファスで注文した商品ということ以外の共通点はない。
やがてネット上に犯行声明のような動画が見つかる。
爆発物は全部で12個。
毎日金属探知機を通って入館している従業員たちには外部からの持ち込みは一切できない。
デリファスに値切られ安価で配送を請け負っている羊急便関係者が恨みですり替えたのか?
それとも倉庫関係者が見えない抜け道を使った犯行か?
誰がどうやって?
倉庫には毎日何万という商品の納品がある。同じくらい出荷もある。人命にかかわる医療品の扱いもしている。
物流を止めたら荷物はあふれかえり、何億もの損害を生み、人が死ぬ。
警察に歯向かってでも物流は止められない。
どうやって倉庫を止めずに無差別に仕掛けられた爆弾を発見し、犯人を見つけるのか?
捜査が進むにつれ、かつて倉庫で従業員の落下事件があったことが判明する。
謎の書置きを残して…
などという書き方をしたがアラフォー以上の世代にはむしろ爆弾事件の責任を取らされそうな現状をどう回避するか、という映画にも見えるだろう。
というか軸は爆弾事件だが、トッピングは行き過ぎた資本主義への苦言のような気がする。
舟渡の上司の五十嵐も、アメリカ本社のサラも、自分より立場の弱い者に責任を押し付けようとするし、舟渡は羊急便に責任を押し付けようとする。
そういう社会構造なのだ。
いやな人間関係が見える。
本人たちにしてみれば「自分に落ち度はない」ということなのだろうか。
わたしはデリファスみたいな倉庫でピッキングのアルバイトもしたことがあるし、羊急便みたいな配送センターで仕分けアルバイトもしたことがある。
特に羊急便の配送センターから配送を請け負って「一件150円」みたいな働き方をしている個人の配送業者さんたちは一緒に広域配送センターから地域配送センターへ来た荷物を町名ごとに一つ一つ仕分けた仲間である。
雑談する仲だっただけに配達員に同情してしまう。
最終的には主人公と羊急便の呼びかけに応じた大手配送業者3社が結託してデリファスに配送許否をして安全確保と賃上げ要求をやってのけるのだが、主人公は解雇される。
配送の賃上げは成功するが、焼け石に水といった金額だ。
倉庫を去る主人公は清々しい顔をしていたが、生々しさを感じる終幕だ。
次のセンター長になった梨本が転落した彼の書置きを疲れたように眺めているところで映画が終わる。
こんな人は見ない方が良い
1、現在進行形で疲労困憊に働いている人。
多分メンタルも体調も悪化するからやめた方が良い。
そんな状況の人は映画を見る余裕なんてないと思うけど。
2、過去疲労困憊状態で無理に働いていたことがトラウマな人。
シンプルにトラウマを刺激する。
極限に疲れているときは夜の歩行者信号の赤を青と勘違いするようになる。
実体験なのでN=1とデータは足りないが、十分に気を付けて欲しい。
映画なんか見てないで休め。
謎のメッセージは何だったのか
転落した人がどんな意思を持って書いたかよりも、メタ的な思考でどういう意図で最初と最後にこのメッセージを込めたのかを考えてみる。
「ベルトコンベアに耐荷重以上の衝撃を与えて停めてくる」とも見えるし、
「死人が出ても何も変わらない」という意味で“0”とも言える。
あのダイイングメッセージ、実は明確な一つの意味は無くて視聴者に考えてみてね!と投げかけているような気がする。
というのも私がこの映画を行き過ぎた資本主義への批判だと思ってしまったからだ。
「本当にこのままの世界でいいの?」
「このスピードで回る経済世界に人間は付いて行けなくない?」
と言われているような深読みをしてしまうのである。
公式サイトの監督、脚本、主演二人のコメントを見た結果「明確な答えは無い」説が補強されたように思う。