満員電車の濡れ事 第1話 官能小説
マンションのリビングでコーヒーを飲みながら妻の帰りを待っていた。
広告代理店に勤めている妻は、毎日6時過ぎに帰宅する。
「テレビのニュースでも見ようかな。」
テレビのリモコンのスイッチを入れようとした時
「ピンポーン」
玄関のチャイムが鳴った。
「だれだろう?」
玄関のドアを開けると、30代くらいのスタイルのいい綺麗な女性が立っていた。
「今日、お隣に越してきた山本です。つまらないものですが、お近づきの印にどうぞ。」
女性は博多明太子の袋を差し出した。
「有難うございます。福岡からいらしたんですか?」
「福岡からこちらに転勤になりまして、今日からお隣に住まわせていただくことになりました。」
僕は、その女性の美しさに見とれていた。
「こちらの生活に慣れるのも大変でしょう。何か困ったことがあったらいつでもご相談ください。」
僕がそう言うと
「有難うございます。そう言って下さるととても心強いです。よろしくお願いします。あのう、奥様はいらっしゃいますか?」
「あいにく妻は、まだ仕事から帰って来ていないんです。」
「では、奥様にもよろしくお伝えください。」
女性は僕を見つめて微笑んだ。
そして、軽く会釈して隣の部屋に帰って行った。
数分後、妻が帰って来た。
妻はリビングのテーブルの上の博多明太子を見ると、
「あら、この博多明太子どうしたの?」
「さっき、隣に越して来た山本という女性からお近づきの印にってもらったんだ。」
「その女性、独身なの?」
「詳しくは聞かなかった。奥さんによろしくって。」
「そうなの。私、明太子大好き。」
妻は嬉しそうに明太子を手に持つと、冷蔵庫に入れた。
次の日の朝、出勤しようと部屋を出て隣の玄関を見た。
ドアの上に山本の表札がかかっていた。
エレベーターの前に行くと、昨日の女性が立っていた。
ワインカラーのジャケットに身を包み、肩まで伸びたストレートな髪がよく似合う、色白でスタイルのいい美人だ。
女性は、僕と目が合うとにっこり微笑み
「おはようございます。」
軽く頭を下げた。
「おはようございます。昨日はご丁寧にありがとうございました。」
と僕がお礼を言うと、女性はにっこり微笑みながら一緒にエレベーターに乗り込んで来た。
エレベーターの中では女性はドアの方を向き、無言で僕の前に立っていた。
女性の髪から言葉では表せないほどのいい香りが漂っている。
エレベーターを降りるとマンションから駅まで500メートルほどの距離だ。
僕が駅の方角に向かって歩いていると、すぐ後ろを女性が歩いている。
僕は振り返り
「山本さんはこれからお仕事ですか。」
と尋ねるた。
「はい。私、生命保険会社に勤めているんです。そこの駅から電車で通勤なんです。」
「僕も、電車通勤です。駅まで一緒に歩きましょう。」
僕がそう言うと、女性は僕の隣に並んで歩き出した。
綺麗な女性と並んで歩く僕の心は弾んでいた。
女性が独身なのかとても気になった。
「あのう、失礼ですが、山本さんはあのマンションにお一人でお住まいなんですか?」
「実は、主人がいるんですけど、まだ福岡に残ったままなんです。」
「ご主人は福岡にお住まいなんですね。」
「今までは、福岡で一緒に暮らしていたんですけど、私だけこちらに転勤になってしまい、別居することになったんです。」
「だから表札が山本と名字だけなんですね。」
「あら、よくお気づきですね。フルネームの表札だと女の一人暮らしが知られてしまうので、山本だけの表札にしたんです。」
「確かに女性の名前の表札は物騒ですね。ご主人と離れて寂しくないですか?」
「寂しいですけど・・・仕方ありません。私も仕事を続けたいし、共働きなら時には別居も覚悟しないといけないですよね。」
「たまにはご主人とお会いになるんですか?」
「週末には主人が私のマンションに来てくれることになっているんです。」
「そうですか。今日は火曜日だから、あと3日の辛抱ですね。」
「そうですね。でも3日後、主人はちゃんと来てくれるかしら。」
「こんな綺麗な奥さんに会いに来ないはずないです。」
「まあ、お上手だこと。」
女性ははにかむように微笑んだ。
その表情が愛らしく、僕は女性の名前を知りたくなった。
「山本さん?」
「はい。何でしょう?」
「山本さんのお名前伺っていいですか?」
「律子です。」
「山本律子さんですか。いい名前ですね。」
「あら、そうかしら。律子ってちょっと古臭くないですか?」
「そんなことありません。素敵な名前です。」
「あなたのお名前は?」
律子は僕の名前を聞いてきた。
「ひろしです。」
「ひろしさんですね。これからひろしさんとお呼びしていいですか?」
「もちろんです。僕もあなたを律子さんとお呼びしますね。」
僕はこの女性と急に親しくなったような気がした。
楽しく語り合っているうちに、駅に着いた。
改札口を出るとプラットホームでたくさんの通勤客が電車を待っていた。
律子は通勤客の多さに驚いているようだった。
やがて電車がプラットホームに停車した。
僕と律子は一緒に電車に乗り込んだ。
後ろから乗り込んで来た大勢の乗客に押されて、僕と律子の身体は密着した。
向かい合って立っているので、電車が揺れるたびに律子の胸と僕の胸がぶつかり合う。
律子は右手で吊り革を掴み、左手でバッグを押さえているので、胸はノーガードの状態だ。
僕の胸に律子の胸の弾力が伝わってくる。
律子は少し頬を赤らめ、恥ずかしそうに目を伏せている。
僕はこのままずっとこの満員電車に揺られていたかった。
僕は律子が下車する一つ前の駅で降りなければならない。
「次の駅で僕は降ります。」
小声で律子にそっと伝えた。
「お気をつけて、お仕事頑張ってください。」
律子はそう言うと、僕の目を見つめて微笑んだ。
僕は電車から降りると、胸にかすかに残る律子の胸のふくらみの感触を思い出しながら会社に向かった。