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満員電車の濡れ事          最終話                 官能小説


「お願いって、何?」
 
 
「私の営業成績が悪くって。今月の上半期は会社の営業部で最下位なの」
 
 
「最下位って、ひょっとして営業の時間僕と会っていたから?」
 
 
「それもあるかもしれない。最下位じゃ、私、本社から地方に飛ばされてしまう。あなたと会えなくなる」
 
 
「それは困ったな。律子、どうしたらいい?」
 
 
「保険の契約してほしいの。」
 
 
 
 
 
律子はすがるような表情で僕を見つめている。
 
 
「契約って、いくら?」
 
 
「1億円の生命保険契約してくれたら、最下位は免れる」
 
 
「1億円か?掛け金高いだろうな?」
 
 
「大丈夫、すぐ解約できるから。」
 
 
「すぐ解約できるの?」
 
 
「来月になったらすぐにクーリング オフの制度使って解約できる。全額帰って来るわ。」
 
 
「そうか、クーリング オフを使えばいいんだな。」
 
 
「クーリング オフしても、契約は今月の成績に反映されるから今月の最下位は免れるの。」
 
 
「わかった。だったら契約するよ」
 
 
「ありがとう。助かるわ。契約にはとりあえず頭金が300万円必要なの。」
 
 
「300万円か。いつまでに納めればいい?」
 
 
「明日が今月の上半期の締めだから、できれば今日」
 
 
「今日は厳しいな」
 
 
「だったら私、地方に飛ばされちゃう」
 
 
律子は今にも泣き出しそうな表情だ。
 
 
「わかった。でも、今日は無理だ。明日の午後なら300万円準備できる。」
 
 
律子の表情が少し明るくなった。
 
 
 
 
「銀行振り込みでいいのかな?」
 
 
「振込だと手数料かかるから!できたら現金で欲しいの。」
 
 
「分かった、明日現金を300万円準備する。」
 
 
「感謝するわ。明日の午後、いつものホテルで受け取るね。」
 
 
 
そう言うと、律子は多目的トイレを出た。
 
僕も律子の後を追って出た。
 
 
 
律子は僕に手を振りながら会社に向かって歩いて行った。
 
 
僕もすぐ会社に向かった。
 
 
 
今日も完全に遅刻だ。
 
 
 
 
夕方、仕事が終わると急いで帰宅した。
 
 
妻はまだ帰っていなかった。
 
 
箪笥の引き出しから預金通帳を取り出した。
 
明日300万円引き出しても、来月のはじめにクーリング オフすれば、また300万円入金できる。
 
 
 
次の日の朝、家を出ると駅に向かった。
 
通勤かばんには預金通帳が入っている。
 
 
改札口に律子が待っていた。
 
律子は僕の姿を見つけると、すぐに駆け寄ってきた。
 
 
「お金は?」
 
 
「預金通帳を持ってきた。今日の午後銀行で下ろしていつものホテルで君に渡す。」
 
 
「ごめんなさい。今日はホテルに行く時間がないの。できたら、ひろしさんの会社の前で渡してほしい。」
 
 
「わかった。午後12時を過ぎたらすぐ銀行に行って下ろしてくる。」
 
 
「それじゃ、12時30分に会社の前で待ってる。」
 
 
「会社の前は人目につくから、会社の正面のポエムという喫茶店で渡そう。」
 
 
「ポエムという喫茶店ね。」
 
 
律子はそう言うと、改札口を通ってホームに向かって歩いて行った。
 
 
僕と律子はいつものように一緒に電車に乗り込んだ。
 
 
律子は僕に身体を密着させ、ズボンの上からペニスを握りしめてきた。
 
律子のスカートの中に手を伸ばし、下着の中に手を入れた。
 
指先で膣を掻き回していると、電車が僕の駅に止まった。
 
 
「降りるね。」
 
 
律子は黙ってうなずいた。
 
 
「ポエムで待ってる。」
 
 
律子はにっこり微笑んだ。
 
 
僕は電車から降りると、律子の愛液のついた手をトイレで洗って会社に向かった。
 
 
 
 
 
午前中の仕事が終わり12時になった。
 
急いで会社を出た。
 
 
銀行で300万円下ろし、ポエムに向かった。
 
 
店に入ると、奥の席に律子が座っていた。
 
 
 
律子は僕の姿を見つけると、にっこり笑って手を振った。
 
 
僕は律子と向かい合って座った。
 
 
「300万円下ろして来たよ。」
 
 
僕は百万円の束が3つ入った銀行の紙袋を律子に渡した。
 
 
「ありがとう。ひろしさんに何といって感謝すればいいのか。」
 
 
「感謝だなんて。律子がこの300万円で助かるのなら僕は嬉しい。」
 
 
「ひろしさんと会えてよかった。」
 
 
そう言うと律子はにっこり笑った。
 
 
「何か昼食注文しようか?」
 
 
僕はメニューを手に取った。
 
 
すると律子は、
 
 
「ひろしさん。ごめんなさい。私、急いで入金しなければいけないの。だからすぐ会社に戻らないと・・・」
 
 
そう言って立ち上がった。
 
 
「そうか、それじゃ気をつけてね。」
 
 
慌てるように律子は店を出て行った。
 
 
 
僕は一人でランチを注文した。
 
 
ランチを食べながら
 
 
「契約書は作らなくて良かったのかな?領収書ももらわなかったな。」
 
 
少し疑問に思った。
 
 
「律子は時間がなかったんだろう。」
 
 
と思い直し、ランチを食べ終わると会社に戻った。
 
 
 
 
 
会社を午後5時に出るとマンションに帰った。
 
 
妻は既に帰宅していた。
 
 
「ただいま。今日は早かったね。」
 
 
僕が妻に声をかけると、返事がない。
 
 
妻は鬼のような形相で僕を睨みつけている。
 
 
「あなたに聞きたいことがあるの。」
 
 
「聞きたいことって、何かな?」
 
 
「そこに座って。」
 
 
妻はリビングのソファーを指さし、僕に座るように促した。
 
 
妻は紙の封筒から写真を4枚取り出し、テーブルに置いた。
 
 
「あなた。これを見て。」
 
 
僕は心臓が止まりそうになった。
 
 
 
 
僕と律子が駅のプラットホームで並んで立っている写真。
 
 
電車の中で密着している写真。
 
 
一緒にタクシーに乗り込む写真。
 
 
ホテルに入る写真。
 
 
 
「あなた、これはいったいどういうことなの?」
 
 
僕は弁解のしようがなかった。
 
僕は震える声で
 
 
「この写真はいったい誰が撮ったんだ?」
 
 
妻に聞いた。
 
 
「誰が撮ったんだじゃないでしょう。興信所に依頼してあなたと律子さんの行動を調べてもらったの。」
 
 
妻は氷のような冷たい目で僕を睨みつけている。
 
 
 
僕は黙ってうつむいていた。
 
 
手のひらと額は汗びっしょりだった。
 
 
「あなた、黙ってないで何か言って。」
 
 
妻の声は震えていた。
 
 
妻に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
 
 
しかし、弁解しようがなかった。
 
 
「本当にごめん。」
 
 
僕は震える声で謝った。
 
 
「ごめんですむと思ってるの。あなたのこと信じてたのに・・・」
 
 
妻の肩は震えていた。
 
 
妻の目から涙がこぼれた。
 
 
「本当に悪かった。」
 
 
僕は深々と頭を下げた。
 
 
「あなた、これからどうするつもりなの?」
 
 
僕はハッとした。
 
 
どうするつもりということは、妻と離婚を考えているのかという意味だろうか?
 
 
僕は離婚を一度も考えたことがないし、妻と離婚する覚悟などない。
 
 
「これからも君と一緒にいたい。律子とは別れる。」
 
 
僕がそう言うと、妻は身体をがたがた震わせながら
 
 
「律子って、あなたは呼び捨てにできる関係なの?」
 
 
泣き崩れた。
 
 
「しまった。」
 
 
妻の前では律子と呼び捨てにするべきではなかった。
 
 
妻は激しく嗚咽していた。
 
 
 
僕は声の掛けようがなく、黙ったままうなだれていた。
 
 
やがて妻の嗚咽が止んだ。
 
 
妻はハンカチで涙を拭いた。
 
 
 
 
妻は僕に視線を向け、こう言った。
 
 
「一度律子さんに会わせてくださる?」
 
 
「律子さんと会って、一体どうするつもりなんだ。」
 
 
 
「できれば、律子さんに慰謝料を請求したいところだけど・・・」
 
 
「慰謝料を請求するのか?」
 
 
「でも、そんなことしたら、律子さんのご主人にもあなたと律子さんの関係がバレてしまう。そうなると、律子さんのご主人からあなたも慰謝料を請求されることになってしまう。」
 
 
「確かに君の言う通りだ。向こうのご主人にバレたらまずい。」
 
 
「だから、律子さんに会って、あなたと別れてほしいこと、そして、慰謝料を請求しない代わりにご主人には内緒にしてほしいこと、この二つのことをお願いしようと思うの。」
 
 
妻の表情は落ち着いていた。
 
 
「わかった。彼女に連絡とってみる。いつ呼べばいいかな?」
 
 
「はやい方がいいわ。できたら今日、明日にでも・・・」
 
 
僕も早い方がいいと思った。
 
妻に律子との関係が知られてしまったことを、早く律子に知らせたかった。
 
 
 
律子も驚くだろう。
 
津子も動揺するだろう。
 
僕は胸が締め付けられそうだった。
 
 
「今、彼女と連絡とってみる。」
 
 
僕はスマホを手に握った。
 
 
「私の前で律子さんに連絡するのはやめて。」
 
 
「僕の部屋から連絡する。」
 
 
僕はスマホを手に取ってリビングを出た。
 
 
妻は不安そうな顔で僕の姿を見送っていた。
 
 
 
自分の部屋に入ると、律子の携帯番号に電話をかけた。
 
 
 
すると、
 
 
「・・・・・おかけになった電話番号は現在使われておりません・・・」
 
というガイダンスが流れた。
 
 
律子の携帯電話の契約が解除されている。
 
 
僕は急いでリビングに帰った。
 
 
「彼女と連絡が取れない。携帯の契約が切れている。」
 
 
妻は驚いた表情で
 
 
「だったら律子さんの会社に連絡してみたら?」
 
 
律子は生命保険の会社に勤めていると言っていたが、会社名までは聞いていなかった。
 
 
「会社名までは知らない。」
 
 
妻の顔がこわばった。
 
 
「そういえば、今日、私がマンションに帰って来た時、引っ越し用のトラックが駐車場から出ていったの。まさか、お隣の律子さんじゃないでしょうね。」
 
 
 
僕はハッとした。
 
 
 
僕は急いで玄関を出た。
 
 
 
隣の玄関を確認した。
 
 
山本の表札がなくなっていた。
 
 
 
昼間、律子に渡した300万円を思い出した。
 
 
 
「しまった。逃げられた。」
 
 
 
僕は目の前が真っ暗になった。
 

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