山の上、都会から待ち合わせ

 2回デートした人に、共通の知り合い経由でフられた事がある。しかも、その知り合いと電話してて突然、「彼は、君の事をこれからも友達としか見ないんだって。」と告げられた。

 それを、スーパーの駐車場のすみっこで聞いた。乾いた笑いと、「全然!大丈夫!!むしろそんな事言わせてごめんなさい!!」の言葉しか出てこなかった。

 車を発進させながら、フラれたという事実とさっきのセリフが頭の中をグルグル回る。気づけば号泣しながら運転していて、慌てて路肩に停めた。
 涙でびしゃびしゃの頬と目をこすり拭きながらLINEを開き、メッセージを入れる。私の【運命の人】に。

 「フラれた。話聞いて。」
それだけ入れるのが精一杯だった。直ぐにOKの返事が来て、深呼吸してから長い時間話せる場所に移動する。


 田舎の良いところは、ちょっと騒いでも、長い時間車を止めても怒られない場所がある事。住宅街を抜けた小高い山の上、自販機の灯りしかない開けたところで電話する。時々、車が通る。何回かコール音がして、「もしもし?お疲れ様〜」とのんびりした声がする。

 高校を出て、都会の大学に行ってからは年に数回こちらに帰ってくる幼馴染。
お互い忙しくて誕生日や年末年始の挨拶くらいしか交わさないけど、一度喋り出すと学生のあの頃にひとっ飛びで戻れてしまう。同い年なのに昔から雰囲気がお姉さんで、今も呼び名は「ねーちゃん」だ。

 声を聞いたらまた泣けてきて、鼻をグズグズさせながら今までの2人の事をゆっくり話す。そうかそうか、と学生の頃と変わらない大好きな声の相槌に、つい話も長くなる。


「私の とお になんて事するんだ。そんな奴は殴ってやれば良いよ。」
「ソイツ名前は?私が呪ってやる。」

 こちらが笑いながらツッコミを入れてしまうくらい、明るい方にもっていってくれる。さすがは運命の人。最後はなんてことない世間話をして電話を切った。
「踏ん切りがつけられないなら、一度会って話がしたいってLINEしてみたら?」と背中を押して。

 家に帰って、腫れてる目を見られないように急いでお風呂へ行く。気合を入れる為、あっついシャワーを浴びて全身真っ赤になるくらいに温まったら、のろのろとお風呂から出てLINEを開く。
 メッセージ、なんて入れようか?


『知人のあの人から聞きました♪どういう事か一度会ってお話したいな☆ミ』
サイコパス臭がハンパじゃない。刺されそう。

『私の事、〇〇さんから聞きました。説明してもらえません?」
だから、刺されそうなんだって。

『……明るい所でも後ろには気をつけるんだな。』
逮捕ー。


 全然だめだ。
ねーちゃんと話して弾みはついたけど、どうにも文章が思いつかない。結果、『夏祭り、行きません?』で落ち着いた。


 送る前に一回、祈っとく。
ブロックされてませんように。
ちゃんと既読がつきますように。
返事がきますように。

 ねーちゃんがしてくれたみたいに、私が私の背中を押して、ついでに送信ボタンも押す。
送ったのに返信が来るのが怖くて、その日は携帯の電源も切って寝た。布団に入っても落ち着かなくて、深夜までアレコレ考えて後悔したりした。

 翌日、LINEを開いて薄目でトーク画面を確認する。返信、来てない。ホッとしたような残念なような。
それから数日して返事がきた。


『他の人誘ってあげて?』


 またねーちゃんにLINEすると、やっぱ呪っとこうか?と励ましと慰めの返事が来た。
効き目すごそうだからやめて、と返してから勢いをつけて彼のLINEトークを全消去した。


 そりゃあ、そうだよなぁ。
フッた相手から縋られたら、気持ち悪いよなぁ。
もう、興味なんてこれっぽっちも残って無いんだもんなぁ。
そこまで考えてなかったなぁ。


      あぁ、終わったなぁ。


 終わったというより終えた、自分で最後まで終わり切ることができたよ、お疲れ。
自分で自分を慰めて、夜に飲めもしないお酒を飲んで、朝はむくんだ顔で仕事した。

あれから彼を思い出す事ももう無いし、私に報告した知り合いとも普通に話す(その人も私に伝えるのは悩んだり嫌だっただろうなと思うし)。

 ねーちゃんとは、また誕生日と年末年始の挨拶をし合う仲に戻った。嬉しいことも、今回みたいに悲しいことも、話したい時に聞いてくれる人がいるってかなり救われる。彼女に何かあったら、今度は私の番。

 さて、今年はどうなるかな?
明るい話題でねーちゃんにLINE出来るようになれたらいいなぁ。





 


 







 



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