Culture｜a slice of life〈01.サウナがつくる瞑想空間〉
a slice of lifeでは、フィンランドの美しい一コマを紹介します。今回は、日本でもブームとなっているサウナがテーマです。アアルト大学でデザインを学ぶため、2年間のフィンランド生活を経験した優さんにフィンランドサウナの奥深い魅力について語っていただきます。
昨今の日本のサウナブームの影響もあり、フィンランドといえば「サウナ」というイメージを持つ方も多いかと思います。しかし正直なところ、私はサウナに対して特別強い思い入れがあったわけではなく、フィンランドに行ってからもしばらくの間サウナとは無縁の生活を送っていました。むしろ日本のお風呂が恋しくて仕方がなく、バスタブのある賃貸アパートを熱心に探しまわったほどです。（結局見つかりませんでした...）
そんな私でしたが、いくつかの体験が私のサウナに対するイメージを少しずつ変えて行きました。フィンランドのサウナには日本の神社のような神聖さがあり、自然と重なり合うような心地よい静寂に出会うことができると気づいたのです。今回は、サウナ初心者だった私の体験談を交えながら、フィンランドサウナの魅力についてお話したいと思います。
サウナと自然
私が現地で初めて訪れたサウナは、ヘルシンキ中央駅からバスで約40分行ったクーシヤルヴィ（Kuusijärvi）の湖のほとりにあるサウナです。ここでは伝統的なスモークサウナを体験することができます。本場のサウナはもちろん、湖で泳ぐということも私にとっては初めての体験でした。温まった体で大きな湖に飛び込んだとき、あらゆるものから解放される感覚があり、サウナの魅力とはこのように自然と繋がり合うことなのかもしれないなと感じました。
サウナと神社
私の中でいちばん大きな変化が起こったのは、雪の日に訪れたクルットゥーリサウナ（Kulttuurisauna）です。ヘルシンキ中央駅からほど近いハカニエミの海のそばに建っています。クルットゥーリとは、文化という意味です。クラシカルな雰囲気のサウナ部屋には水平方向に広がるスリット窓から柔らかな光が差し込み、目の前の海が絵画のように切り取られていました。しばらくすると、一人の女性がすっと立ち上がりサウナストーンに水をかけました。薄暗い光の中、柄杓で静かに水をすくい、熱くなった石にゆっくりと水をかけるその仕草、そして瞬間的に蒸気へ変わり再び自然へと還ってゆく水の流れからは、ある種、儀式のような美しさを感じました。まるで、神社で身を清めるような神聖な感覚を味わったのです。
サウナと日常
住み始めたころはあまりサウナに興味がなかった私ですが、だんだん生活の一部となっていきました。日常的に通っていたサウナが、ヘルシンキ中心部にあるウルヨンカツの公共プール（Yrjönkatu Swimming Hall）です。映画「かもめ食堂」で、小林聡美演じる主人公がよく訪れるプールとしても有名です。屋内施設ですが、プール部分の天井が吹き抜けで高く、男女入れ替え制で水着を着ることなくプールで泳ぐことができるため、海で泳いでいるような解放感を味わうことができます。サウナでエネルギーを蓄えたあと、大きなプールに入ってすーっと平泳ぎをすると、まるで憑き物が取れて浄化されるような心地よさがありました。
木でつくられた小屋の中を蒸気で満たし、切り抜かれた窓から自然を眺め、そして広大な海や湖の中へと身を沈める。このようにして自然と繋がり、向き合い、自らの心を清らかにすることが、サウナという文化の本質であると気づきました。茶道や華道といった文化を持つ私たち日本人にとっては、サウナ特有の瞑想空間はどこか親近感を覚える文化なのかもしれませんね。
番外編・ロンナ島のサウナ
こちらは、Design & Viewのコラム「窓が主役になりえる空間」で取り上げようとしていたお気に入りの場所のひとつです。本コラムの番外編として紹介させてください。
ヘルシンキの港からフェリーで10分ほどで行くことのできるロンナ（Lonna）島。歩いて一周できるくらいの小さな島の海際に、サウナが建っています。心地よいサウナの温かさと、木の香り。目の前には絶妙なバランスで切り取られた海の水平線。静寂に波の音が重なり、呼吸が穏やかになっていきます。サウナとは瞑想のことだなと思わずにはいられません。ロンナ島にはカフェとレストランもあるので、海に囲まれてゆっくりとした時間を過ごすのにおすすめの場所です。ひとつ気をつけなければいけないのは、春夏だけのオープンという点。お出かけの前に予約をすることもお忘れなく！
