<シンエヴァの薄い本>考察。2号機と8号機が海上で打ち上げられたのは何故か?
※本記事は一部ネタバレを含みます!
またまたエヴァが最新の宇宙開発ネタを取り入れてきた。
2021年6月12日から『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の入場者プレゼントとして、公式冊子『EVA-EXTRA-EXTRA』(『シンエヴァの薄い本』と呼ばれる)の配布がはじまった。
本冊子の中のマンガに、エヴァンゲリオン2号機と8号機を宇宙へ送るための「洋上発射台」が登場する。巨大なロケットを搭載した「マイティK(キング)」と「マイティQ(クイーン)」だ。
調べてみると、洋上発射台はかつて実在した。アメリカ・ロシア資本などが共同経営していた「シーローンチ」社は洋上発射台を開発していて、本作はそれをモデルにしたようだ。※シーローンチは下のサムネイルを参照↓
それにしても、わざわざ海の上からロケットを発射するのは何故だろうか。ヒントは、マンガの一コマ目に書かれている「太平洋緯度0地点」。つまり赤道直下。そこは、大質量のエヴァ機体を打ち上げるのに、地球上最も有利な場所なのだ。
1 何もしなくても秒速470m
ロケットにとって、発射台の設置場所は重要な問題だ。なぜなら緯度が違うと、打ち上げに必要なエネルギー(燃料の搭載量)が違ってくるからだ。
緯度0度(赤道)は、地球の自転軸から最も離れた場所。ここでは24時間で1回転したときの移動量が最大になるから、地球上最も速い自転速度になる。普通に生活していてもそうは感じられないが、秒速約470m(時速約1700km)という猛スピードで動いている。
つまり赤道に設置されたロケットは、打ち上げ前の時点で、西から東へ秒速470mで移動している。もしロケットを自転の向きに合わせて東向きに発射すれば、その速度分エンジンを噴かさずに済む。結果として、燃料の節約につながる。
ロケットが地球の重力と大気抵抗を乗り越えるには、多くの燃料が必要だ。何せ人工衛星打ち上げ用ロケットは、全重量のうち80〜90%ぐらいが燃料である。
それぐらい莫大な量が要るから、少しでも節約したい。そのため、世界中の国が発射場をできるだけ低緯度に設置して、速度を稼ごうとしている。
世界地図を広げてみると、赤道付近は陸地が少なく大半が海。また海上であれば、トラブルでロケットが墜落しても被害が少ない。以上のことから、緯度0度の太平洋上でエヴァを発射したというのは、理にかなっている。
2 洋上発射台は流されないの?
再びマンガの1コマ目に注目しよう。「洋上発射台予定位置にて固定完了」とのセリフがある。どうやらこの発射台、「建っている」わけではない。つまり、海底まで柱を伸ばしてガッチリ留めているのではなく、浮いている状態だ。
また、マイティKとQは「可潜艦」との説明書きもあるから、船なのだ。果たしてそんなところで打ち上げても大丈夫なのだろうか?
先に述べたシーローンチ社は、使われなくなった「海洋掘削リグ」を買い取り、巨大な発射台に改造している。
海洋掘削リグとは、海底油田を掘る構造物だ。※外観はこちらのサムネイルを参照↓
これは目的の海域に着くと、まずアンカー(錨)を海底に何本も降ろして流されないようにする。そして、備え付けの巨大なタンクに海水を入れ、重しにする。だから、船のように浮いているが揺れは少なく、海が荒れやすい北海やアラスカでも安全に稼働できるという。
恐らく本作のマイティKとQも、同様の工夫をしていると思われる。
シーローンチ社は洋上発射台でのロケット打ち上げに成功したものの、2009年に経営破綻してしまった。しかし2021年1月、今度はスペースX社が中古の掘削リグを購入し、洋上発射台の建造をはじめた。だから『シンエヴァの薄い本』は、とてもタイムリーな話題を盛り込んだと言える。
3 KとQがあるならJもある?
最後に余談として、もうひとつ考察しておく。庵野秀明監督は、自分が好きだったアニメや特撮のオマージュを作中に散りばめている。洋上発射台「マイティK(キング)」と「マイティQ(クイーン)」の元ネタは、特撮ドラマ『マイティジャック』だ。
この作品は1968年に円谷プロダクションが制作したSFテレビ番組。万能戦艦マイティ号に乗り込み、悪の組織Qに立ち向かうマイティジャック隊員を描く。
庵野監督は『マイティジャック』の大ファン。自宅で飼っている愛猫に「庵野マイティジャック」と名付ける程だ(『監督不行届』安野モヨコ/祥伝社)。
あと残るは、エヴァを宇宙へ運んだロケット「ドッペルゲンガー」。実に思わせぶりな名前。由来は何だろう?
恐らく、1969年のイギリスの特撮映画『決死圏SOS宇宙船』(原題『DOPPELGANGER』)だろう。もし本当にそうだとしたら、だいぶマニアックなチョイスだ。いつか真相を教えて欲しい!