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Lapin Ange獣医師の「ネットで見たんだけど・・」 #14: ワンちゃんとの冬の散歩

年明け早々に大きな災害や事故,著名人の邸宅の火災などが発生したことを受けて,例によってネットには陰謀論者(?)たちの投稿が溢れており,何やら混乱・混迷が示唆されるような2024年が始まりました。 私事ながら,私たちも羽田空港での事故の煽りを受け,(往路フライトは事故の数時間前に離陸して影響なかったのですが)復路のフライトが欠航となったことにより,大阪での延泊を余儀なくされたのでした。 幸い航空会社の対応は迅速かつ丁寧で,翌日のフライトへの変更および延泊分の宿泊費の補償も円滑に行って頂いたのですが,もし今回の事故の原因が海保機にあったとして,海上保安庁が航空会社に補償金を支払うとしたなら,戴いた宿泊費も原資は私たちの税金なの?と少々モヤっとしたり,焼損した機体は150億円とかで,大谷選手でも1年半かかるのだと感心したりしながら,無事に帰宅したのでした。
 空港から鉄道に乗る際には外気に曝されることがないため,最寄駅を出たときにいつも感じる関西人あるあるですが,特に今年はお正月というのに暖かかった大阪に比べて関東の空気は冷たく,4日間不在にしていた自宅は冷え切っており,3年前の年末に入居して初めての夜,入浴時に震え上がったことを思い出した私たちでした。

さて,暖冬とは言え,私たちの居住地域でもときに雪が舞う季節となりましたが,みなさんのワンちゃんたちは元気に過ごしているでしょうか? 前回(#13)ワンちゃんの防寒着の必要性について,寒さには強いイメージのあるワンちゃんでも,厳寒期には防寒着やブーツが必要なケースがあることを述べました。 今回,重複を承知の上で,寒い時期にワンちゃんと散歩する際の注意点に関して,もう少し具体的なpetMDの記事(All Creatures Veterinary Servicesのオーナーで,獣医情報ネットワークの指導的立場にある獣医師 Sandra C. Mitchell のレビュー済)を紹介します。

冬の散歩における5つのヒント:  5 Tips for Walking Your Dog in the Winter

冬は犬に適した楽しいアクティビティがたくさんありますが,極端な気温の低下は身体の大きさや年齢を問わず,犬に危険をもたらす可能性があります。 犬の無限のエネルギーを目一杯発散させるときでも,またゆったりと冬の散歩を楽しみたい場合でも,犬の安全を優先し,散歩には寒すぎる時期を理解することが重要です。
寒い季節に犬の散歩をする場合は,以下に示す安全上のヒントを参考にしてください。 気温が下がりすぎた場合でも,犬を幸せにし,健康的で,事故を防ぐ室内の代替手段はたくさんあります。
(元の記事の中では,各種グッズの具体的な商品を紹介している箇所がありますが,その部分は割愛します)

犬の散歩に適さない気温とは?

「犬と一緒に屋外に出かけるには,気温が32°F( 0°C)以上のときを選ぶ必要があります」と獣医外科医であり,英国に拠点を置く VETSbarn 獣医センターの創設者である MRCVS のニック ホーニマンは推奨しています。 同氏は,寒い季節の散歩は30分以内に制限すべきだと付け加えました。
ただし,ある犬にとっては安全でも,別の犬にとっては寒すぎて散歩できない場合もあります。 基礎疾患があったり,高齢の犬や仔犬は,一般的に凍傷や低体温症といった寒さによる問題に陥りやすくなります。
シベリアン ハスキーやバーニーズ マウンテン ドッグなど,一部の犬種は,その厚い二重被毛(ダブルコート)により,寒さに対して適応しており,「冬の犬」というあだ名が付けられています。 小型犬や被毛の薄い犬は寒さに敏感です。
犬の低体温症は生命を脅かす状態です。 品種,年齢,全身状態にかかわらず,犬が低体温症の兆候を示していることに気付いた場合は,犬を屋内に入れ,すぐに獣医師に連絡してください。

寒い中で犬を散歩させるためのヒント

飼い主が,寒い季節に犬を外に連れ出すのが億劫になるのは当然のことですが,ホーニマン氏は,できる限り安全にアウトドアを楽しむことが重要だと強調し
ます。
季節を通して愛犬を安全に保つための重要なヒントをご紹介します。

リードを外さない
「冬の散歩の際にリードを外すのは危険です」とホーニマン氏は言います。 たとえば,犬がうっかり薄氷が張った水の上に迷い込んでしまう可能性があります。
犬はまた,探索行動に味覚を使うことがあり,雪解けとともに融雪剤や不凍液などの危険な化学物質を摂取することがあります。 犬をリードにしっかりとつないで,慣れたルートを守ることで,潜在的な危険を防ぎます。
冬の散歩に最適なリードを選ぶ際は,暗い場所での視認性を高める反射材付きのものを検討してください。 滑りやすい状況でのコントロールとグリップ力を向上させるリーシュも考慮すべき点です。

身体を温かく保つ
あなたが冬用のジャケットが必要なほど寒く感じ始めたら,あなたの犬も同様である可能性が高い,と獣医外科研修医でビッグ・バーカーの獣医師アンバサダーでもあるDVMのダニー・サックは言います。 彼は,ぴったりとフィットする犬用ジャケットを手元に置いておくことを推奨しています。 胸と背中全体にぴったりとフィットする必要がありますが,犬の動きを制限しないようにしてください。
優れた冬用ジャケットは,気温が低く,風や雨が混じる場合や,寒さに弱い犬にとっては特に重要です。

足を暖かく安全に保つ
私たちが意見を聴取した専門家は皆,冬の散歩の後には犬の足をきれいに拭くことを推奨しています。「ペットが最も頻繁に塩に曝露されるのは,散歩後に足をなめるときです」と,救急獣医師であり,イリノイ州オークブルックの獣医救急グループのメディカルディレクターでもある DVM のローラ・コズロウスキーは説明します。 「これは少量では毒性はありませんが,一般に足を刺激し,嘔吐や下痢を引き起こす可能性があります。」
化学物質を含まないおしり拭きなどで足をていねいに拭いた後,肉球に乾燥やひび割れの兆候がないかよく観察してください。 必要に応じて,保湿バームやワセリンを塗布してください。
犬が自分の足を噛んだり,指や肉球に黒または変色した斑点がある場合は,凍傷の兆候である可能性があるため,獣医師に相談してください。
犬用ブーツを使って足を安全に暖かく保つこともできます。 あなたのお気に入りのブーツと同様に,犬用の冬用ブーツも滑ったり転倒したりするリスクを最小限に抑えます。 防水性があり,犬の活発なアウトドア アドベンチャーに耐えられるものを選択してください。

日中に短い散歩をする
ホーニマン氏は,気温が低くなってきたら,屋外の散歩を 30 分以内にすることを推奨します。 日が沈む前に家に帰るのは難しいかもしれませんが,暖かさと安全の両方を考えると,陽当たりの良い時間帯に犬の散歩をするのが最善です。
もちろん,運動、社交,新鮮な空気のために外に出ることは,あなたとあなたの犬の身体的および精神的健康にとって重要です。 思うように外に出られないときは,ゲームをしたり,障害物コースを設置したり,より頻繁に短時間の散歩をしたりして,屋内の時間を最大限に活用することをサック氏は提案しています。
「アジリティやフライボールなど,室内ドッグスポーツに参加することを検討してください」と彼は付け加えました。 もし犬がトイレに行くために外に出ることを強く拒否する場合は,室内で使い捨てのトイレパッドを使用できます。

寒すぎるという兆候を理解する
犬の低体温症は,体温が 98〜99 °F (37 ℃) を下回ると発生します。 コズロフスキー氏によると,犬の低体温症の兆候には次のようなものがあります。
・無気力
・歯肉が蒼白
・震え
・動きたがらない
・歩くときのこわばり
上記の兆候に気づいたら,すぐに犬を室内に連れて行き,毛布にくるんでください。 そしてできるだけ早く獣医師の診察を受ける必要があります。
体温が下がったり,濡れや風で四肢が冷えたりすると,犬も凍傷になる危険があります。 これも深刻な寒冷気候の症状で,中心臓器を温めるために血流がシフトされ,尾の先端,耳,鼻,肉球,指に十分な血行がなくなる可能性があります。 最終的には組織が凍って壊死してしまいます。
コズロフスキー医師は,愛犬に次のような凍傷の兆候がないか観察するよう勧めています。
・赤み
・腫れ
・水ぶくれ
・痛み(引っ掻いたり,舐めたり,噛んだりする)
・肌の色が濃い,またはどす黒い
冬の安全キットを十分に揃えておけば,これらの寒冷時の事故を防ぐことができます。
サック氏は,外が寒い場合でも,防水ブランケットやタオル,新鮮なきれいな水など,犬を温める方法を常に用意しておくことを推奨しています。
事故に備えて「四角いガーゼ,抗生物質の軟膏,医療用包帯」を常に用意してください,と彼は言います。 もちろん,ペットの緊急キットに何を詰めるかは,予定されているアクティビティ,各々の特別なニーズ,およびその日の天候によって異なります。

結論

「犬は喜び庭かけまわり〜」の歌詞や,極地探検の犬ぞりの映像などの印象が強いため,ワンちゃんは寒さには強いという概念が私たちにはありがちですが,寒さの程度や犬種,その他の要因によって,低温は重大なリスクになり得ます。 愛犬が寒さで震えていたり,凍傷を起こしているのに放っておく飼い主さんはいらっしゃらないでしょうし,関東や関西,特に都市部では,危険なほどの低温になる日は多くないかもしれませんが,降雪や凍結が予想される日には直ちに融雪剤が撒かれ,これがワンちゃんの足に影響したり,経口的に摂取してしまうというのは,十分に起こり得るアクシデントです。
なお,低温時にダックスやイタリアン・グレイハウンドなどの耳に見られることが多く,強い痒み,脱毛,かさぶた,出血などを起こす「寒冷凝集素症」は,低温下で赤血球が凝集することによる病気で,自己免疫の関与が疑われていますが,夏場にも起こることがあり,詳しい病理発生機序は判っていないようです。 
ともあれ,夏の高温時と同様に,ワンちゃんたちが生活している路面の温度や状態,地面にある物に注意を向けて,ワンちゃんの立場に立って,何が必要かを考えたいですね。

雑記

極寒,豪雪,凍傷といった語に接すると私の頭には,「八甲田山」と「植村直己」が浮かびます。 
前者は言うまでもなく,明治35年に日本陸軍が起した世界最大の山岳遭難事故である八甲田雪中行軍遭難事件です。 ご存知の方の殆どは,新田二郎の「八甲田山死の彷徨」を原作とする映画「八甲田山」の記憶かと思います。 私も同様で,当時TVなどでは北大路欣也(神田大尉)の「天は我々を見放した!」がしきりに流されましたが,高倉健さん(徳島大尉)の「案内人殿に対して 頭(かしら)右!」によって隊列全員が農家の嫁である案内人に敬礼し,秋吉久美子さん(案内人)が微笑みながら去っていくというシーンが遥かに強烈に心に残っています。 私の個人的な嗜好はともかく,当時の限られた装備品は仕方ないとして,冬の八甲田に関する情報不足,雪中行軍ということの認識不足,すなわち圧倒的な準備不足が,この壮絶な遭難事故の原因になったことは間違いありません。 
後者の「植村直己」氏も,ある程度以上の年齢の日本人なら誰でもその名を知る,国民栄誉賞を受けた冒険家ですね。 登山家,冒険家というと,凍傷で指を失うことが珍しくありませんが,あるチャレンジで,同じ隊で行動した多くの仲間が指を失くした中で無傷だったというエピソードが有名で,私も「植村直己は超人的に凍傷に強い」というイメージを持っていたのですが,冬のマッキンレー単独登頂で亡くなった後に,彼に関する色々な記述を読むと,非常に慎重で周到な準備をされる方だったようです。 おそらく,凍傷にならないための準備,ケアを丁寧にされていたのでしょうね。 「ナショナル ジオグラフィック」の特集で植村直己氏を取材したカメラマンであるアイラ・ブロック氏は,次のように記しています。 
「前人未到の冒険に旅立つ直己の晴れ姿をしっかり記録したいと心がはやっていたのだろう。濡れた手袋を乾かすのを忘れて,出発準備をする直己を撮ろうと,待機用のテントを飛び出したのだ。たちまち手袋は凍り,手の指が凍傷を負った。<中略> 痛みと水ぶくれは1週間ほどで治ったものの,37年がたった今でも,そのとき凍傷を負った指が冷えるたびにしびれる。」
「直己はついに北極点にたどり着いた。単独行としては世界初の快挙だ。翌日,彼に会うため,私たちはツインオッター機で向かった。地球の頂点で,直己は幸せそうに笑っていた。あんなに幸せそうな人間を,私は見たことがない。犬たちもうれしそうだ。」
私たちも,自然や気候の変化を軽んじることなく,しっかり準備・ケアをして,ワンちゃんたちとともに,ずっと笑っていたいものですね。

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