しかくいスイートポテトと私。
大学1年生の秋、私は初めてスイートポテトを作った。
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きっかけは近所の激安スーパーでさつまいもが激安になっているのを目にしたから。
…いや、違う。当時片思いをしていた先輩にいいカッコをしたかったからだ。元々いい奥さんになりそうと良く褒められる私。そのステレオタイプを利用して、"あ、この子はやっぱりイメージ通り家庭的だな。"と思って欲しかったのである。
思いついた方法は、手作りのお菓子をサークルに差し入れるっていうとっても王道で使い古されてきたであろう考え。
一人暮らしのワンルームにオーブンはなかったから、クックパッドで秋、お菓子 オーブンなしと検索をかけてみた。そして出てきたスイートポテトのレシピは馴染みのある楕円形ではなくて、小さな正方形をしていた。
思い立ったが吉日。私は早速、家から少し離れた100円ショップに自転車で向かい、裏ごし器、ゴムベラ、卵の黄身を塗る用のハケを買った。めんどくさがり屋の私が、わざわざスイートポテトを作るためだけの汎用性の低い道具を買いに行くなんて。恋の力はすごいもんだ。
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バターの甘い香りがした、真っ赤なオーブントースターの中を覗く。少し焦げ目がついたスイートポテトを一つ一つ取り出した。少し冷ましてせっせとタッパーに詰める。これでバッチリ。あとはサークルに差し入れるだけ。
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「お菓子作りが趣味なんです」
そんな大ウソと共に差し入れたしかくいスイートポテトは好評だった。「美味しいよこれ!」ありがとう、自分が作った料理を褒められるのはもちろんとっても嬉しい。でも君たちモブの感想が聞きたくて作ったんじゃないの。
『うまいわこれ、本当にいいお嫁さんになりそうやな。すごいわ。』
心の中で、ガッツポーズをする。たったこれだけの言葉だけれど、作るまでの手間の全てが報われた気がした。
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先輩は私が2年生になる前にサークルを辞めた。勇気を出して告白したけれど、失恋。スイートポテト作戦は、あまり意味を成さなかったらしい。
"せっかくスイートポテトが作れるようになったのだし、また作るか"と思い作った2年の秋。2年生の秋も変わらずしかくいスイートポテトは好評だったけれど、先輩はいない。少し寂しい気持ちになった。
時の流れは早いもので、私は大学3年生、サークルの中で最上級生になった。そろそろまた激安のさつまいもがスーパーに並ぶ時期だ。1年生の時の恋を思い出しながらスイートポテトを作り、後輩たちに振る舞うのも悪くないだろう。
ただ、先輩への想いは2年のうちに吹っ切ったのでしかくじゃない形にしたいな。ハロウィンも近いから、お化けの形のスイートポテト、なんて悪くないかもね。
後輩たちの驚く顔、喜ぶ顔を想像すると笑みがこぼれてしまう。みんな、楽しみにしててね。