裏方って、本当にもったいないのかな。
「演劇やってるんだ、じゃあ役者?どんな役やったの?」
サークルで演劇をやっていたというと必ず言われる言葉。私は大道具を担当していたので毎回違うんです~大道具やってました~と答え、相手に意外がられる、ここまでがワンセット。一番表に見えるのは役者だし、演劇自体も最悪役者さえいれば成立するものだからこの話の流れになるのはまあしょうがないかな、と思う。
ただ、こんなことを言われた時は少し引っかかってしまう。
「役者やればいいのに、もったいない」
………。もったいない、かあ。何度かこの言葉を言われたことはあるし、そこに悪意がなにも込められてないのは分かってはいるのだけど毎回反応に困ってしまう。そして、私の戸惑った反応を見た相手は私の容姿に言及する。綺麗なんだから、もったいない、向いてそうなのに…などなど。容姿を褒められることに関しては悪い気は全くしないのだけど。裏方をもったいないと一蹴してしまうのがもったいないよなあと個人的に思うところはある。
役者志望の大道具だった私
まあ、そんな私だけどサークルにはスポットライトの下に立ってみたい、そう思って入った役者志望だった。
ただ、役者になるにはオーディションに受からなければならなくて。結果は不合格。配属されたのは裏方の大道具だった。
役者になれなくて、落ち込まなかったと言ったら嘘になる。けど「いつまでもウジウジしてもしょうがないし今年は大道具全力でやる!来年絶対オーディション受けてやるからな!!」と謎の切り替えの早さで(笑)大道具に取り組み始めた。
大道具の劣等生
そして私はここでまた大きな壁にぶつかることになる。”製作”と言う壁だ。木を切る、ビス、くぎを打つ。どれもうまくできなかった。大道具員としては致命的なセンスの欠如。私のセンスがどのぐらいなかったかというと10人ぐらいいた大道具の同期の中で一番センスがなかった(笑)
「世界で一番釘の打ち方が下手」その当時、先輩から揶揄されたときの言葉はきっと一生忘れないだろう。先輩、全く笑えないからやめてくれって。
頑張っているのに、全然製作が上手くならない。そういえば中学の時の技術の成績(木工)は3だった、どうしよう、希望部署絶対に間違えたわ。オーディションに落ちても心が折れなかったポジティブ野郎もさすがに心が折れた。
スポットライトの下に立つ同期
一年生の夏ごろ、すっかりふてくされていた私。大道具なんか選ぶんじゃなかった。早く公演終わってくれ。思ってたことはこんなことばかり。そんな私の転機になったのは、公演が行われる会場の下見だった。新入生に会場の設備を説明する目的で行われる下見。ステージ上では観客席との距離感を把握するために役者がなにも載っていない状態の舞台にのり、セリフ回しをしていた。
確かその時私は舞台の大きさの測定をしていたと思うのだけれど。同期の女子にパッと目がいったんだ。確か貧乏な家のお母さんとかそんな感じの役柄のセリフ。何もステージ上にないはずなのに、古ぼけてほこりが被ったテーブルが見えた、つぎはぎのエプロンが見えた、スポットライトが見えた。彼女じゃない”役”がそこにはいたんだ。「裏方として、彼女のキャラクターをさらに深められたらどんなに素敵だろう」と思った。「彼女のために作りたい」と思った。
物語を織り込む
台本は、ある世界に住む、ある人たちのある期間を描いたもの。キャラクターもそれぞれの人生を歩んできている。ただ、その物語は台本に書かれていないだけで存在はしている。スピンオフって考え出したら止まらないでしょ?そんなイメージです。そこに気づいてからは、楽しくない作業も途端に楽しくなった。時代考証のための画像検索も、時代に合わせることだけを考えるのではなくてキャラクターも併せて考えるようになった。物持ちはいいタイプなのか、どこで買ったのか、どんな風に扱っているのか。あっという間にスマホのカメラロールは家具や壁紙の画像でいっぱいになった。使用感を出すために作った家具に傷をつけたり、ほこりに見立てた塗料を塗るときはどのように使われてきたのかを意識した。あまりにこだわりすぎて先輩に止められることもあった(笑)
「意図のないものは舞台から排除しなければならない」
演劇に関わった人なら一度は似たような言葉を聞いたことがあると思う。役者の動き、おいてある家具、音のタイミングの全てが台本ではなく、台本の”世界”を織り込むものでなければならない。私の想像以上に演劇は深かった。そして私はいつしか大道具の中に台本に描かれていない物語を織り込むことに夢中になっていた。好きこそものの上手なれ、なんてのはよく言ったものでセンスがなかったはずの私も好きになってからは製作技術もマシになったし舞台美術に関しては誰にも負けないくらいの技術を身につけた。
スポットライトに憧れていた私だけれど、いつしかその有無はどうでもよくなっていた。大道具が一番物語を織り込む余地がある事に気づいたから。そしてその想像をすることがあまりに楽しかったから。受けようと思っていたオーディションも受けず、気づけば大道具一筋で現役の3年間を終えた。劣等生は、舞台美術の責任者になった、すごい出世だと自分でも思う(笑)
大道具を始めてから、映画とか、舞台でも道具に目がいくようになった。できてないものもあるけれど、やっぱり有名な作品はその一つ一つに意図=物語がきちんと織り込まれている。
そんな物語に気づかないのはとっても「もったいない」ことだと思う。好きな俳優が出ているから、好きな監督だから。作品を見る理由はそれぞれだと思う。でも、道具に目を向けるとまた違った発見があるかもよ?ということを私は伝えたいな(笑)
スポットライトがなくたって、できることがあった。そしてそのできることは私にとってスポットライト以上に魅力的なものでした。
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