【過去記事】新しいラオス支援のかたちお金をかけなくてもできることを考える
※本稿は、2013年5月に『ザイ・オンライン×橘玲 海外投資の歩き方サイト』に執筆した内容を、掲載元の許諾を得て掲載しています。
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資金面だけではないソフト面での支援を
ラオスは、親日で穏やかな国民性ということもあって、日本からも多岐にわたる支援プロジェクトが入っており、その活動成果が高く評価されている。しかし近年、隣国のミャンマー人気が、投資や経済分野だけではなく、国際協力の分野でも、財政面でのラオス離れに影響を与えはじめているという。
こうした背景からも、今後は、資金力を背景とした箱型支援よりも、アイデアや内容を重視したソフト面への支援が重要になるのかもしれない。今回は、日本のNPO団体の小さな支援プロジェクトがきっかけとなって、ラオス人身体障害者たちのやる気を起こさせた、ある事業を紹介したい。
認定NPO法人AAR Japan(難民を助ける会/以下、AAR)が、ラオスに事務所を構えたのは2000年。同会が活動の軸に据えている障害者支援から、その活動は始まった。
当時、年間7台の車いすしか製造していなかったというラオス保健省所属の車いす工房を、AARは国際協力機構の支援を得て再建。その後、製造・配布の強化を行ない、これまでの10年間で3000台以上の車いすを製造するまでに成長させた。
また、ラオスが抱える難問のひとつでもある不発弾(UXO)対策として、北部のシェンクアン県で、クラスター爆弾被害地域の村民を対象に、応急処置トレーニングを行なっている。山奥で事故が起きてから、手や足がない状態で、町の病院まで半日以上山道を運ばれるケースもみられるため、村々での的確な応急処置の大切さを教えているのだ。
障害者にやる気を起こさせた「ヒラタケ栽培」支援プロジェクト
そのAARが始めたユニークな活動。それが障害者によるヒラタケ栽培の支援だ。
栽培に必要なモノは、キノコ菌・おがくず・ビニール袋。支度金はわずか340万キープ(約4万3000円)と手頃で、これが4カ月間で550万キープ(約6万9000円)ほどの収益になる。月収100万キープ前後の障害者家庭にとっては、非常にありがたい副収入だ。
栽培の初めは3日がかりで菌床を作るものの、その後は基本的に水をやるだけ。1カ月半後にはヒラタケが生えはじめ、4カ月間は定期的に収穫できる。ヒラタケは1kg当たり2万キープ(約212円)で取引され、新鮮なこともあって、村人がこぞって栽培者の家庭まで買いに来るほどの人気だ。
障害を持つ栽培者のブアチャンさん(68歳)は、「このプロジェクトは、私たちに新しい資産を与えてくれた。子や孫たちと一緒に、この小さな事業を拡張していきたい」と意欲を見せている。
AARラオス事業プロジェクト・コーディネーターの太田夢香さんは、「支援というと、日本からモノを持ってきさえすればすべて良くなるというふうに考えがちだが、そうではなく、現地の実情に合わせた支援を考えることが大事」という。
ヒラタケ栽培と販売は、材料も支度金も、彼ら自身の努力でなんとかなる範囲の事業だ。それがハンディキャップを負った人たちを、また、努力することをあまり好まない傾向にあるラオス人のヤル気を起こさせたのだろう。
現時点では小さな事業かもしれない。だが、そのヤル気こそがラオス社会にとっての大きなイノベーションに繋がるのではないだろうか。
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