KISSACOの素材ができるまで
*前回からの続きです。
麻袋の加工の相談をするためにやってきた工場は墨田区の民家がひしめき合う一角にあり、ドラマのセットにでも出てきそうな、いかにも下町の工場という雰囲気でした。
職人さんに会うまで、
こんなにゴワゴワした分厚い素材を加工できるのか?
少ない量でも快く引き受けてくれるだろうか?
などの不安材料があったので、無理です、と突き返されることも想像していました。
工場に着く直前まで、ふにゃふにゃとぐずっていた息子はちょうど眠ってくれたので、それだけはほっとしたのを覚えています。
工場から出てきた少し無愛想な職人さんに挨拶をし、持ってきた何枚かの麻袋を手渡しました。
「どうですかね」
と恐る恐る尋ねると、ごつごつとした職人さんらしい手のひらで、麻袋を撫でたり引っ張ったり、透かしたりしました。
すると、
「できなくはないよ」
と一言あっさり返されました。
どちらとも取れる言い方に少しだけ戸惑ったものの、
つまりできるってことだよね?
やってみるよということだよね?
と、いう不安の眼差しで職人さんをじっと見つめていると、
「やってみっからちょっと時間ちょうだい」
と言われました。
麻袋の加工サンプルが仕上がるまでに一週間ほどかかるとのことだったので、その日は麻袋だけを置いて工場を後にしました。
そして、待つこと1週間ほど。
ついに仕上がったサンプルが自宅に届きました。
緊張しながら包材を止めているガムテープをべりべりと勢いよく剥がして中から生地を取り出し、ロール状に巻かれた生地をゆっくりと広げました。
生地を見た瞬間、
こ・これは!!!
と思いました。
前職のときに、お取引先の有名セレクトショップさんなどが作るユニークなオリジナル素材を色々と見てきましたが、今までのどの素材よりもそれは輝きを放っていました。
大興奮のあまり、すごい!!と一人でしばらく叫んでいた気がします。
ただ、これで全てがトントン拍子にうまく行くわけはないんですよね。
コーティングがうまく掛かるはわかったけれど、その工場から告げられた麻袋の加工賃は、
なんと、麻袋の片面で3000円。
つまり麻袋一袋で6000円!
とのこと。
ぼったくりかい!!
かなり高級な厚手の帆布生地ですら、1mあたり3000円しない程度なので、ざっくりと二倍の価格です。
当時(2009年ごろ)はまだ、ファストファッションが日本に今ほどは定着していなかったので、国内の工場もそこそこの数量を生産していました。
その頃は1つのデザインで初回生産500本などはわりと普通でしたが、現在は100本くれば多い方だそうです。
たいした数量を依頼してこないだろうと職人さんに足元を見られ、高い金額を提示されたのだと思います。
あるある話ではあるのですが(^_^;)
「この加工賃は現実的ではないな」
と思い、他に引き受けてくれそうな工場をすぐに探しました。
すると、一回きりならいいよ、とはじめの工場の半額程度で引き受けてくれる工場が見つかったのです。
まだそのときは息子も小さかったですし、特に継続して製作するつもりでもなかったので、とりあえずは一回きりでもいいか!と、そちらの工場にお願いをしました。
また、はじめのサンプルでは表面のビニール加工だけでしたが、
裏面も加工をしないとビニールと麻袋が剥離しやすくなってしまうことや、
表裏から加工して麻袋をサンドイッチ状態にしないと麻の粉塵や匂いがでてきてしまうことがわかったので、
職人さんに相談して両面の加工をしてもらうことにしました。
父の声がけでなんとか集まった30袋程度の麻袋を息子のお昼寝中にせっせと解体しました。
庭でよく天日干しした麻袋をロール状に縫い繋ぎ、約30mほどの両面コーティング生地を職人さんが仕上げてくれました。
麻袋はたいがいが大きめの絵柄なので、
絵柄がきれいにトリミングできるデザインにしないといけないということや、
縫製中にコーティング生地にシワが入らないような構造にしなくてはならなかったので、
デザインするにあたり素材上の制約がいくつかありました。
最終的に、トートバッグの大中小と、ドラム型のバックと、革のはかまが付いたトートバッグ、のシンプルな三つのデザインに決定しました。
この3つのデザインを30mの生地でとにかく作れるだけ作り、当時代々木公園で盛り上がりを見せていたアースガーデンという野外イベントに出店することにしました。
息子が昼寝している時間と夜寝てからの時間、
息子が機嫌のいいときはおんぶをしながら歌をうたったりあやしつつ、ミシンを踏みました。
今思えば27歳だったから気合いと熱意でなんとか出来たのだろうなぁと思います。
寝る時間を削ってクタクタに疲れても、自分の大好きな素材がバッグに仕上がっていくのがとにかく嬉しかったのです。
つづく。
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