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【読書感想3】「人類すべて俺の敵」
※今回も少なからず作品のネタバレを含む点に注意。
はじめに
今回読んだのは第28回スニーカー大賞を受賞した「人類すべて俺の敵」だ。
作品の内容および雰囲気はタイトルが如実に表している。
端的に言えば「中二病」である。それもシリアスなほうの中二病作品だった。個人的には十年くらい前の、なろうが出てくる前のラノベという感じがした。「ブラック・ブレット」みたいなノリかな?
つぎに、以下で内容の要約を示した。
要約
「人類は、《魔王》によって滅ぼされるだろう」
突如、全人類の前に降臨した神はそう告げた。
1ヶ月ほど前から無差別に発生した不審死により、既に八億人もの命が失われていた。《魂魄剥離》と呼ばれるその現象が、あどけない少女にしか見えない《魔王》によるものと神は言う。
厄災を阻止すべく、人類を代表する十人の天使が選出され、《人類》対《魔王》――《聖戦》の火蓋が切られる。
震撼する世界で、ただ独り高坂憂人だけは少女を知っていた。彼女が世界の敵に仕立て上げられ、助けを求め手を伸ばすか弱き存在であると――。
ひとりの少女が為、世界に仇なせ。
内容の概観
主人公の高坂憂人は魔王と呼ばれる少女を助けたことにより能力を譲渡され、彼なりの正義心のもと彼女を守るために戦うことを決意する。
彼と敵対するのは、人類を守るため、そして神から与えられる報酬を手に入れるために戦う十人の天使たち。彼らは憂人と似た境遇を持っていたり、あるいは友人であったり、あるいは戦闘狂であったり、あるいは人類のためを思っていたりと様々な動機を持って戦う。
次にキャラクターのありかたについてみる。
キャラクター造形について
登場人物たちを追っていた所感としては、キャラが深掘りできていないというか、立ち方が不十分なのではないかと思った。だた、この点は現代ものにありがちなところではあるので(行動や性格が常識的になりがちなため)、ジャンルを考えれば取り立てて言うことではないのかもしれない。
ヒロインのキャラは特に立っていてほしかったが、生い立ちゆえにあまりしゃべらないし(若干の成長はあるが)、ぐっとくるようなセリフや場面がなかった。
幼馴染の二人も、憂人を陰ながら支えてくれるが、励まし方・関わり方は遠巻きで、憂人と同じ道を歩んでくれるわけではないし、命を懸けてくれるわけでもない。その割には話に介入しすぎで、どうして憂人がそこまで心を動かされるのかしっくりこなかった。
とはいえ、それはまだ些細なことだ。より不満だったのは、物語の主軸である聖戦が一巻のうちに終結しなかったこと、十人の天使のうち憂人とまともにかかわったのは二人だけで、それ以外は大して物語に介入しなかったことの二つだ。
使徒のトップ的立場でカリスマを発揮して見せるエレオノーラは、最大の脅威になりそうなのに、結局刃を交えることなく作品が終わってしまう。大賞受賞作ということで一巻完結を期待していただけに少々肩透かしを食らった。
面白さについて
ここまで不満点ばかりあげたが、つまらない作品かというとそうではない。
文字密度が高く文章の運び方が一般文芸っぽかったのがはまらなかっただけで、ストーリー自体は手堅い面白さがあった。
またどうやって圧倒的不利な状況を耐え抜いていくかや、逃避行というロードムービー的要素は一つの魅力と言える。
そして一番の魅力はやはりクライマックスに至るまでの人間関係の変化にあるだろう。クライマックスでは、引きこもり少女の翡翠との団らんや対立、そして戦いを通して彼女の悩みを解消していく。この部分は先が気になるストーリー運びで非常に面白かった。翡翠はなぜ引きこもっているのかや、母親との関係はなぜこじれているのか知りたいと思えた。彼女の魅力を考えると、翡翠がヒロインじゃないのがもったいないくらいだ。
そして物語は神の思わせぶりなモノローグとともに終わる。戦いはまだまだ続きそうだ。
余談だがこの神は戦わないくせして超越的な能力とともに講釈を垂れてくるので最後まで気に食わなかった。せんとくんみたいな見た目しやがって・・・。この点のあうあわないは人によってあると思う。
作品全体の評価について
その他に作品の特徴をあげるとすると、著者の文章力はなかなかうまい。語彙力や文の運びがこなれているし、情報過多とかテンポの悪さもさほどかんじさせない。それに終盤の展開は非常に読ませる。その点を考えると、前にnoteを書いたスパイ教室と同じくらいには評価できるだろう。美少女が好きならあちら、そうでないならこちら、という判断もありだと思う(おおざっぱすぎるかも)。
二月に発売された比較的新しい作品なので、まだチェックしていない人はぜひ書店に行ってチェックしてほしい。