2x/2x = x^2 か 1 かランダウ・リフシッツが答える

$$
2x/2x = x^2
$$

というネット上で何度も興隆を極めた話をしたいと思います。
これを 1 とするのはド素人であるという話です。気になった人は試しに google に計算させて見てください。

とは言ってもこれについて語るのは炎上するだけなのでこのノートの趣旨ではありません。しかし、ランダウ・リフシッツの理論物理学教程との関わりだけは一言述べたいというのが今回の趣旨になります。

このネットミームとランダウ・リフシッツの理論物理学教程が一体なんの関係があるのでしょうか?もちろん、本来この両者にはなんの関係もないのですが、話は英語版の wikipedia

にある注釈 d にランダウ・リフシッツの「mechanics」が引用されていることから始まります。これは、物理学の標準的な文献では、$${2x/2x}$$ を $${(2x)/(2x)}$$ と解釈しているという例のために、ファインマン物理学と並べて、ランダウ・リフシッツの mechanics 22p から $${hP_z/2\pi}$$ という式を($${/2\pi = /(2\pi)}$$ と解釈している例として)引用しています。これによって、$${2x/2x = 1}$$ とした人(多数派?)は歓喜。偉い(?)物理学者はみんな $${2x/2x =1}$$ と理解している。$${2x/2x = x^2}$$ とか言う頭の固い人とは付き合えないよね、というわけです。

しかし、これをもって $${2x/2x = 1}$$ をランダウが支持しているかどうかについては大いに問題があります。というのは、問題の式は日本語版 26ページ、9章最後(今度出るペーパーバックではページ数違うかも)にありますが、なんと $${\frac{h}{2\pi} P_z}$$ と紛れのない形になっているではありませんか。実は、ロシア語版も同じで、日本語版と同じ紛れのない式が書かれています(一応ちゃんと調べました!)。他の式も眺めてみると、$${2x/2x = 1 }$$か $${2x/2x = x^2}$$ のどっちをランダウが支持しているかについて語っている式はなさそうでした。つまり、英語版は英訳の際に英語の出版社が勝手に $${2x/2x = 1}$$ のルールに基づいた式に書き直しており、wikipedia に書かれている "this is also the convention observed in prominent physics textbooks such as the Course of Theoretical Physics by Landau and Lifshitz"
というのはランダウの意図ではないということだけはお伝えしたいわけです。

なお、日本語版の wikipedia には昔はランダウ・リフシッツを引用してなかったと思うのですが、

を今見ると、ランダウ・リフシッツへの引用があります。ただし、英語版を引用していることを書いていないので日本語版としてはページ数も意味も通じていないので、編集をした人はきっと原典にあたっていないのでしょう。

しかしまあ、わたしが一番怖いと思うのは、名著と呼ばれるこの本は、別に $${2x/2x = 1}$$ を支持するために書かれたわけでもないのに、それを自分の主張の根拠にしようとする人の営みです。この話を思い出すたびに、人は自分に不都合な真実は見えないのだなあと他山の石にしたいと思うのです。

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