短歌総合誌の新人賞に初めて出した頃の想い出。もしくは、わたしのラーメン探索紀行
非合法ビジネス
画像は、先日行ったとなり町のかつやの定食です。かつやはいいね。定食はいいね。裏切らない。
さて、今回は短歌総合誌の新人賞に初めて応募した頃のあれこれについて、つらつら書いていこうかと。受賞の必勝法など知らないので(だいたい知っていたら10回も応募していない)、羊羮をつまみ、ほうじ茶を飲みながら、「また田中が訳のわからんnoteを書いてるけど、よほど暇だったんだな」と思いつつ、流し読みしていただけたらと。
結社に入って短歌を本格的に始めた頃と、だいたい同じタイミングで、人づてに「歌会」というものと「総合誌の新人賞」というものの存在を知った。どうやら歌を作る人たちが何人か集まって、歌を出しあい、批評しあう「歌会」なるものがあるらしい。ほほう。歌会とは雅な響き。狩衣も直垂も着れるけど、着ていった方がいいのかな。でも持ってないしな、と思って色々調べていたらどうやら普段着でよさそう。よかった。
となると、問題なのは「総合誌の新人賞」のほう。そもそも総合誌って?困り果てた結果、とりあえず近所の本屋に行くことにした。知らんけど、なにか雑誌なんだろう。ということで、駅のそばの本屋の文芸コーナーを探すことにした。この本屋の隣には、街で一番おいしいラーメン屋さんがある。麺は全粒粉で、チャーシューの鶏は低温処理されており、歯応えがよい。小松菜は地場産、肝心のスープはダブルスープはではないが、上質な醤油の旨味が感じられる。さらに席は木の温もりが感じられ
脱線した。短歌に話をもどす。
さて、文芸コーナーにただ1冊転がっていたのが、『歌壇』だった。中見は歌人による記事や、短歌作品がいっぱい。なるほど、これが短歌の総合誌か。さらに読み進めると歌壇賞という、雑誌主催の新人賞があるらしい。なるほど、これが総合誌の新人賞か。買わなくては。しかし困ったことに、お金がない。ゴルゴ13の「非合法ビジネス」のエピソードが入ったコミックスを買ったばかりだ。結局その日はあきらめて、家のノートパソコンで改めて調べ直した結果、歌壇賞の〆切日が9月30日ということを知った。
サンマルクカフェに飽きた結果、サンマルクカフェに通うことになった件
時は8月中旬。〆切まではまだある。まだあるのだが、余裕はない。テーマを早く決めなければいけない。何にしよう。
ここで現実的な問題となったのは、歌歴がこの時点で2ヶ月になるか、ならないかという段階であり、さらに結社には入ったばかり。歌会には行ったことがない、というなかなかの状況だった点だ。そんなスキルも経験もない人間が、日常生活の1コマを淡々と描いた連作を送ったら、送る前から予選落ちする未来は確定的に明らかである。郵送だから、ただの貴重な紙資源の無駄である。環境保護団体にバレたら、ボコボコにされるかもしれない。それだけは避けたい。
となると、方法はひとつしかない。題材で勝負するのだ。そこでたまたま興味のあった中東に狙いを定め、ストーリーを組み立て、歌を作り始めた。
最初は家で書いていた。しかし、意外とはかどらない。ということで、駅ナカのサンマルクカフェで書き始めた。しかしやがて中の喧騒が気になるようになって、駅の外のサンマルクカフェで書くようになった。ここははかどった。ということで、それ以降の月詠や新人賞に出す作品は、そこで書くようになった。そしてその頃には、駅から半径1キロ四方のラーメン屋は、あらかた食べ尽くしており、駅から1キロほど離れたとんこつラーメン屋もいいが、やはり例の本屋の隣の醤油ラーメンこそが至高、という結論になっていた。
さて、これはいまでも全く同じ方法をとっているのだが、
まずノートなりメモ帳アプリなりに歌を書いていく→それをノートパソコンで推敲しつつワードに書き写す→いったんプリントして内容を確認しつつ、直接手書きで修正する→再び歌の順番、語順、語の選択を確認しつつワードに打ち込む→プリントアウトして完成
という、かなり面倒なことをやっていた。特にこの連作は、「考古学専攻の博士課程後期に在籍する大学院生が遺跡調査のためイラクに渡り、当局からは遺跡調査の許可は下りなかったものの、「イラク」という場所に滞在することで自分を再発見し、再び日本に戻ってくる」という、なかなか面倒な設定で作っていたので、語の選択やリアリティー、そしてストーリー展開の違和感の排除などに意識を研ぎ澄ませつつ、約1ヶ月かけて月詠以外では初めての連作『北極星』ができあがった。
マッキンリーで登山訓練(なお、登山初心者)
座右の銘はないが、あえて挙げるとしたら、「希望と自信はタダ」だと思う。ということで、歌会にさえ行ったことがなく、事実上生まれて初めて作った連作であるにも関わらず、「まあ、最低でも予選は通過してるだろ」という、謎の自信があった。そして自信は当たった。歌壇賞の予選を通過し、吉川宏志さんと水原紫苑さんから◯を頂き、合計で2点をもらっていた。ちなみに、◎はひとつで2点。その時は予選通過者の名前はほとんどまともに知らなかったのだが、同じ候補作に残ったメンバーだけでも、戸田響子さん、ユキノ進さん、梅原ひろみさん、奥村知世さんなどをはじめ、錚々たるメンバーであった。
ところが、無知の悲しさで、「初めての投稿でここまで行ったなら、あと2、3回も出せば獲れるだろ」という、幸福な勘違いをしていた。愚かである。ぶん殴ってやりたい。しかも、たまたま結果がよかったものだから、もちろん鼻が伸びていた。最悪である。ノコギリで切断してやりたい。
そんな幸福な木登りブタに現実を突き付けてきたのが、受賞作だった。目次には、受賞作品と受賞者がこう記されていた。
『Lilith』川野芽生
そして読んだ。
ぶっ飛ばされた。
もう、物が違った。自分の作品が2次元にいるとしたら、『Lilith』は3次元だった。どう転んでも、太刀打ちできない世界が広がっていた。これを読み、短歌総合誌の受賞レベルの水準はこれくらいなのだな、と痛感した。その上でこれからも戦わなければいけないような、そんな気持ちになった。
Lilithというエベレストに近づくためには、マッキンリーくらいは歩行訓練くらいの感覚で登らなければならない。最低でも、予選通過、候補作入りといったことはコンスタントにできるようにしないと、到底この領域にはいけない。それは果てしないことのように思われた。そしてその日、初めて短歌総合誌を買った。
これが、初めての短歌総合誌の新人賞に出した時の記憶である。とにかく、壁を越えなきゃいけない、という焦りがすさまじかった。そしてそれからそれから9回、総合誌の新人賞に挑むのであるが、それはまた別のお話。