田中翠香

できれば、あなたに生きていてほしい。

田中翠香

できれば、あなたに生きていてほしい。

最近の記事

ルックバックを観終えて詠んだ13首「京本に」

映画「ルックバック」を観たあとの感情のままに詠んだ13首です。若干ネタバレもあるので、よかったら観た後で読んで頂けたら。 京本に 学校に天才がいる 読むほどに溢れ続けるこの感情よ そんな目で見るんじゃないよ負けたんだ だけど信じていいと思えた 君と手をつないで街を駆け抜けるこの瞬間を光と呼ぼう どこまでも走っていけると思ってたあの雪道で告げられるまで もう二度と負けたくなくて勝つために限界を超え走らせるペン 止まった 時間が止まった感情がすべて凍ったすべてが散った 今まで

    • 第10回 毎月短歌連作部門選評

      おはようございます。こんにちは。こんばんは。田中翠香です。深水英一郎さんの表題の企画にご縁あって選者として参加することになり、現代語・連作部門でそれぞれ佳作2首、佳作秀歌2首、特選1首をそれぞれ選出しました。 以下、選出作品と選出理由を書いています。どうぞご覧ください。 佳作 「持参」 微円 お風呂場の壁、コンクリートでして正拳突きが日課ですのよ 身体を抜ける陽射しとか愛してる自意識だけが残ったセトリ じゃじゃ馬のじゃじゃってなにってそりゃお前オレの3人目のオンナです く

      • 短歌の冬 10首連作部門 田中翠香選

        はじめに おはようございます。こんにちは。こんばんは。田中翠香です。今回の企画の選者を務めました。どうぞよろしく。 多数のご応募を頂きましたが、選出には非常に悩みました。悩んだ結果がこちらです。同じくらいの数の応募作を悩んだ末に選外としましたので、次はあなたの作品が選ばれるかもしれません。気がむいたら、また応募してください。またご縁がありますように。 佳作 車椅子の風景 (桜井弓月) 多様なる人の世なれば多様なる歩き方ありタイヤの足跡 自由とは善意の人に階段を運ばれるよ

        • 第6回毎月短歌 田中翠香選

          おはようございます。こんにちは。こんばんは。田中翠香です。今回、深水英一郎さんの表題の企画にご縁あって選者として参加することになり、「自選3首部門」と「題詠「肌」部門」でそれぞれ佳作3首、佳作秀歌2首、特選1首をそれぞれ選出しました。 以下、選出作品と選出理由を書いています。ということで、まず「自選3首部門」から。 (自選三首部門) 佳作(遠刈田温泉賞) 二回目のラストライブを見届けた帰路は十五のわたしと語る (小石岡なつ海) まず、1首目がこちらの歌。いやあ、いいで

          flipper連作短歌賞をめぐって

          flipper連作短歌賞flipper連作短歌賞が決まった。 お読みになった方はお分かりだろうが、受賞したのは私が一貫して1位に推し続けた、有朋さやかさんの『天性の蛇』で、他の選考委員の方からも高い評価をもらい、受賞が決まった。有朋さんおめでとうございます。あと、歌壇賞の予選通過も寿ぎたいと思います。さらなるご活躍を。詳しい作品の中身はflipper本誌を見てもらうとして、今回応募されなかった方もぜひ読んでください。土着性と血縁関係と祭礼の伝統が渾然一体となった、傑作です。と

          flipper連作短歌賞をめぐって

          短歌総合誌の新人賞に初めて出した頃の想い出。もしくは、わたしのラーメン探索紀行

          非合法ビジネス画像は、先日行ったとなり町のかつやの定食です。かつやはいいね。定食はいいね。裏切らない。 さて、今回は短歌総合誌の新人賞に初めて応募した頃のあれこれについて、つらつら書いていこうかと。受賞の必勝法など知らないので(だいたい知っていたら10回も応募していない)、羊羮をつまみ、ほうじ茶を飲みながら、「また田中が訳のわからんnoteを書いてるけど、よほど暇だったんだな」と思いつつ、流し読みしていただけたらと。 結社に入って短歌を本格的に始めた頃と、だいたい同じタイミ

          短歌総合誌の新人賞に初めて出した頃の想い出。もしくは、わたしのラーメン探索紀行

          初恋にまつわる一考察 -風変わりな名字&国交省の社宅を中心に-

          かばさんみなさまは、かばさんをご存知だろうか?「知ってる知ってる。よく動物園にいるよね。SNSでは夏になると決まって、口の中で西瓜を丸ごと粉砕する動画がアップされてて、実は川ではワニを越える最強のハンター」と答えてくれる知識人がいるかもしれない。が、残念ながら違う。そのかばさんはカバさんである。    今回のかばさんは加波山である。茨城県にある山だ。あいにく、加波山についてはあまりわからない。(茨城県内ではわからないが)同じ県内にある筑波山よりかは知名度が落ちる気がするし、加

          初恋にまつわる一考察 -風変わりな名字&国交省の社宅を中心に-

          A DAY OF THE SUMMER

          1.風に似た名を持つ人とゆく街に夏の気配が濃くなってゆく 2 夏風にのって歩けばきみの住む街にもきっと響く潮騒 3.会うたびに抱きたいひとがいるという日々にソーダの思い出がある 4 真夜中に目指すコンビニひかるからソーダアイスも星の子かもね 5.自分よりお酒が強い恋人のチュールスカートなびく海辺に 6 わたしよりお酒が弱い恋人は海辺にきても少し早口 7.映画館まで十分の道のりに夏のひと日が刻まれてゆく 8 月曜日午後二時過ぎにオムライスセットをえらぶきみがかわいい 9.ダイソ

          A DAY OF THE SUMMER

          お茶会に脱法パンを

          法律で魔術の使用が禁じられて以来、魔法少女たちはパン工場で働いていた。 学校で最初から学び直すことを選んだ、一部の能力と環境に恵まれた少女たちを除き、たいていは働くこととなった。理由はきわめて単純だった。ほとんどの魔術師たちは簡単な読み書きや計算ならともかく、それ以上の一般的な学習には触れることなく、みっちりと魔導書の読解や魔術の実技に人生を費やしてきていた。そのため、よほど年若の魔術師や、もともと魔術以外の学問に興味を持っていた者を除くと、学費にも一般的な学校の膨大なカリ

          お茶会に脱法パンを

          短歌をめぐるHappy-go-lucky!

          パルメザンチーズの雨が降り注ぐ短歌とは、5・7・5・7・7の形式に則った31文字の定型詩である。 この点に異論はあまり出ないかと思う。とりあえずの大枠として、この部分は社会的合意がなされていると考えていいだろう。近年はかなりこの点の縛りは緩やかになったとはいえ、基本的には維持されている部分かと思う。少なくとも、現代短歌にあまり触れたことがなく、百人一首をはじめとする古典和歌くらいしか触れたことがない人は、とりあえずこの枠組みから入っていくのではないか。 例えば、 パル

          短歌をめぐるHappy-go-lucky!

          小指に触れる

          「明日って休み?」「わかったしたいの?」と定石に似た会話をかわす セックスに生産性を求めない 君の本音はあえてきかない 「ラブホには初めて来るの」と言うくせにパネル操作が熟練のそれ とりあえずフリータイムでいいよねと二時間もたない君が言ってる 「好きだ」って気持ちがないから「かわいい」と免罪符みたいに言い続けてる 「あくまでも君の心がほしいんだ」勃起しながらなに言ってんの 耳たぶを甘噛みすれば夜になるアリバイみたいな前戯をしつつ ゆっくりと命が口で死んでゆく恋人ならば飲むので

          小指に触れる

          星を狩る者たち

          かつてあった、でも存在しない記憶たちのために。 会いたいとそっと願った感情は褪せることなく本物だった 最後だと知らないあなたの笑顔だけ刻もうとした刻みたかった なにひとつ悟られぬよういつもより少し優しくあなたを抱いた 語り得ぬ昼の逢瀬のきらめきが時おり胸で光って消える まだ夢の中のあなたを置いたまま新宿という闇へ出てゆく 悔恨も孤独も乗せてまた今日も山手線は廻り続ける 僕もまた孤独のひとつと知っている みぞれは線路へゆっくり溶ける 改札を抜けて静かに振り返る東

          星を狩る者たち

          (不定期連載)東京食べ物探訪記~土手の伊勢屋編~

          上野駅に行く。そこから銀座線で3駅行くと、三ノ輪という駅がある。駅名の由来は知らぬ。三輪車の生産基地だったのかもしれないし、三ノ輪一族がたむろする三ノ輪城がそびえていたからかもしれない。とにかく三ノ輪は三ノ輪だ。 そんな三ノ輪駅駅から徒歩で約480m歩くと、なぜだか明日のジョーの像が立っている。ジョーは三ノ輪の生まれなのかもしれない。 ここまで三ノ輪三ノ輪と書きすぎた。本題に入ろう。 明日のジョーの像からさらに20m歩くと、そこに「土手の伊勢屋」はある。 ↑こんな看板が

          (不定期連載)東京食べ物探訪記~土手の伊勢屋編~

          貝澤駿一「ルカシェンコの子供たち」を読む

          <はじめに> 第32回歌壇賞にて、貝澤駿一の30首連作「ルカシェンコの子供たち」が、三枝昂之と水原紫苑の推薦を受けて候補作となった。貝澤のストーk…ファンならば、彼が最初に候補作となった29回以降歌壇賞において毎回予選を通過しており、今回最高得点を叩き出したことについて、感慨を深くする人も少なくないだろう。筆者は貝澤にはさらに上を狙えるポテンシャルが十分に備わっており、歌壇賞に限らず他の新人賞の受賞も間もないであろうと考えている。 本稿は、連作「ルカシェンコの子供たち

          貝澤駿一「ルカシェンコの子供たち」を読む