flipper連作短歌賞をめぐって
flipper連作短歌賞
flipper連作短歌賞が決まった。
お読みになった方はお分かりだろうが、受賞したのは私が一貫して1位に推し続けた、有朋さやかさんの『天性の蛇』で、他の選考委員の方からも高い評価をもらい、受賞が決まった。有朋さんおめでとうございます。あと、歌壇賞の予選通過も寿ぎたいと思います。さらなるご活躍を。詳しい作品の中身はflipper本誌を見てもらうとして、今回応募されなかった方もぜひ読んでください。土着性と血縁関係と祭礼の伝統が渾然一体となった、傑作です。ということで、今回携わったこの賞について少し書きます。
選考委員に選ばれて
ある日連絡がきて、flipper連作短歌賞の選考委員をお願いされた。特に断る理由がないので引き受けた。もともと賞で作品を選ぶというのは立派な権力の行使だと思っていたが、実際にやってみていよいよその思いは強まった。だからこそ、慎重に慎重に読んで選考しなくてはならない。では、応募されてきた36編をどう読むか。
読んで、外す
36作品からまず4作品選び、それを最終的に2作品する。ということは、最初の段階で32編、つまり約9割の作品を外さなければならない。つまり、「とる」ことを前提として作品を見るのではなく、「はずす」ことを前提として作品を見ることになる。だから、「とる」ためには、題材であれ構成であれ完成度であれ、とにかく飛び抜けていないと残せない。まず20作品超をはずし、10作品を相互検討し、6作品にした。この6作品は他の作品のできにもよるが、いずれも受賞ないし次席圏内であった。
さらに相互比較し、2作品を落とし、4作品にした。圧倒的に抜けていた「天性の蛇」は残すとして、あと1作品。ここまでくると、好みの要素はどうしても出てくる。もはやサイコロをふる気持ちである。ふらなかったが。
なぜ残したか
残ったのは「ひかりするどい」の他、南の島を舞台にした作品と日常を独自の視点で切り取った作品。クオリティは横一線。どうするか。
まず日常詠の作品を外した。切り取り方も完成度もよかった。ただ、詩情に若干の弱さを感じた所、題材がややありふれていた部分があり、外した。残るは「ひかりするどい」と南の島の連作である。相聞を緻密な心理描写で詠んだ作品か、完成度なら「ひかりするどい」を上回る、南の島の連作か。
残ったのは「ひかりするどい」だった。なぜか。南の島の連作は、完成されすぎていた。しかし、それ以上の場所に飛べないのではないかと、ほんの少しの不安があった。「ひかりするどい」には、文体などに南の島の連作より傷はあった。しかし、その傷が治れば南の島の連作より、さらに遠くに飛べるのではないかと考えた。そして、他の選考委員の話をききたい。のびしろに賭けてみたい。
「ひかりするどい」が残った。
本気で2作受賞させたかった
予想通り、「天性の蛇」は支持された。しかし、「ひかりするどい」を推しきれなかった。完成度の高い作品と、丁寧な心理描写が光るのびしろの多い作品。「ひかりするどい」を受賞させられなかったのは、ひとえに筆者の力不足である。(あるとしたら)次のflipper連作短歌賞への応募を心待ちにしつつ、さらなる豊潤な作品が読めることを楽しみにしています。
全力で読みます。