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「昭和少年事件帳④」激マズッ~スイカ事件!
(はじめに)これは、私が青少年期を過ごした昭和時代の話です。
同じ時代を生きた皆さんをはじめ昭和をご存じない世代の皆さんにも楽しんでいただければ幸いです・・では、事件の始まりです。
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今回の話、何歳の時の話だったのか正確には覚えていませんが、多分、小学3、4年生ぐらいだと思います。
夏休みに入り暇を持て余していたところに近所に住む同級生がやって来ました。
“暇やったら川にいこうや”
この町で夏休み中にこどもがに遊びに行く場所といったら川と山しかありませんので、必然的に二者択一です。
水着にTシャツ姿で、二人して川に向かって歩き始めました。
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私の住んでいた地区は町の中心部に近い田園地帯でしたので、川までは結構な距離があったのですが、家を出て直ぐに近所の畑にスイカが生っているのを見つけました。
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「お~いいこと思い付いた!スイカ持って行って冷やして食べようや♪」
畑の持ち主のおじさんは知ってる人だし、後でちゃんと「貰ったよ」って報告すりゃ~いいだろうぐらい感覚でしたが、よく考えてみると・・これって立派な窃盗ですよね。
勿論、昭和にも法律はあります!
ただし、子供のすることは許されるハズという、自分勝手な解釈をしていました。
と、言いながら、周りを警戒しつつ(・・解釈と矛盾しますけど)、スイカをもぎ取るため畑に入りました。
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罪の意識はあります。
時期はまさに旬ですので、大きなモノが至るところにゴロゴロしています。
ただし、どれを採っていいとは思っていません。
タダで勝手に頂くに際しては、出来の良いモノ、要するに売り物になりそうなモノには手を出さないと決めていました。
持ち主の許可がないんですから、当たり前というか最低限の良心でしょうね(苦笑)
なお、この点に関して言えば、スイカは他の作物に比べ見分けが付きやすく、子供の目から見ても出来の善し悪しは一目瞭然でした。
丸く模様のくっきりしたモノを除いて物色します・・
形の歪んだもの、模様や色にムラのあるもの、まだ小さいものなどが候補ですが、悩んだ末にこの時、私が選んだのは、形は悪いけどムチャクチャ大きなスイカです。
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結果的に、この判断が最悪の結果を招くのですが・・この時点でそのことに気付くほど賢くはありません・・(笑)
畑からスイカを抱え、川に向かって意気揚々と歩き始めました。
でも元気が良かったのは最初の数分だけです。
熟れたスイカはずっしりと重く、この選択が間違いだったことに直ぐ気付かされました。
考えてみれば子供2人だけで食べるのですから、小さめのモノで十分だったのに欲張りすぎです。
一旦畑に戻り、違うスイカと交換しようかと本気で考えたのですが、形が悪いとはいえ大きいスイカを無駄にしてしまうことを考えると気が引けて戻れませんでした。
覚悟を決めて友達と交互に持ち替えて進みますが、どちらも直ぐにギブアップの繰り返しです・・何故ならこのスイカ、形が歪で持ちにくい上に重心がずれていたためバランスをとって歩くのが難しかったのです。
結果、途中何度も休むハメになるのですが、休むとは言っても南九州地方の強い日差しが照りつけるアスファルト道路の道端ですからねぇ~、休みが休みになりません。
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暑さと疲労で徐々に体力は奪われていきます。
それでもフラフラになりながらどうにか川の近くまで来ました。
舗装道路から脇に外れて橋の下まで降りれば川原です。
が、ここでの気のゆるみが更なる悲劇に繋がります・・
やっと着いたぁ~と思ったその時です、小石に躓きつんのめりました。
危なっ!足を踏ん張りぐっと耐えた次の瞬間、持っていたスイカがスポ~ンと手から抜けました・・
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両手は汗でぐっしょりでしたので、意に反してスイカを放り捨てるような形になりました。
そして、地面に落とされたスイカは、一瞬にしてグシャッ・・と無惨です。
故意に叩きつけた訳でもないのにここまで砕けるとは・・
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落しどころが悪かったのかも知れませんが、これまでの苦労は全て水の泡です。
もうこうなってしまえば手の施しようがないっていうのが普通の考え方だと思いますが、私達は違っていました。
何しろ我々の親は戦後の貧しい時期に少年少女時代を過ごしています。
事ある毎に『食べ物を粗末にするヤツはろくな死に方せんぞ!』って言い聞かされているのですから、簡単には諦めません。
砕けたスイカを拾い上げて恐る恐る口にしました。
確かに最初の一口だけは喉が渇いていたこともあり、味がしたような気もしますが、実際にこのスイカが甘かったかどうかの記憶がありません。
むしろ鮮明に覚えているのは、その噎せ返るような熱さです。
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茹でたようなスイカ
灼熱太陽が照り付ける畑で熟れて、その後アスファルト道の上に直に何度も降ろしながら運んだ後のスイカですからねぇ~
食べ物を粗末にすれば地獄行きなら・・熱いスイカを食べるのもある意味、地獄です・・
親からの教えを忠実に守ったとはいえ、何故そこまで無理して食べたのか自分でもよく分かりません。
道端に藪なんていくらでもあったので放り捨ててしまえば証拠なんて何も残らなかったハズですけどねぇ~
やはり、近所のおじさんが丹誠込めて作ったスイカを無断で採ってきたという、後ろめたさみたいなモノがそうさせたのかも知れません。
この話、この後の展開に記憶がないので事件そのものは大した話ではないのですが、私の食に関する嗜好には大きな影響を与えました。
というのも、大好物だったはずのスイカがこの日を境にまったく食べられなくなったのです。
熟した赤い実を見ると、どうしてもあの日の湯気立ち上るスイカを思い出します。
結局、私が自ら進んでスイカを食べたのはこの事件前までで、それ以降は、全くと言っていいほど口にしていません。
それどころか、何故かスイカに限らず甘い果物全般が苦手になったのですから、いかにこの時のインパクトが強かったかお分かりいただけるかと思います。
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という事で、最後にこれだけはお伝えしておきます。
茹でたスイカを食べてはいけません、きっとトラウマになります!・・あえて言わなくても、食べてみようって人いないでしょうけどね・・・