「昭和少年事件帳⑦」ミツバチとランドセルの事件!
(はじめに)これは、私が青少年期を過ごした昭和時代の話です。
同じ時代を生きた皆さんをはじめ昭和をご存じない世代の皆さんにも楽しんでいただければ幸いです・・では、事件の始まりです。
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今回の話は小学4年か5年の時だと思います。
近所に住む同級生の幼馴染と下校中に引き起こした事件です。
たぶん今でも通ってる学校には通学経路の届けが出されていると思いますが、あれって公道を通ることが前提ですよね。
ですが、ワタクシ自慢じゃないけど届け出どおりに登下校した記憶が殆どありません。
だって、どう考えても公道を使うと遠回りだったのです。
じゃ~どこを通っていたのかといいますと、畑のあぜ道や他人の家の庭を横切って常に最短距離を心がけて登校していました。
って、いうか・・最短距離を通る以外に遅刻を避けられない状況が毎朝続いていただけなんですけどね(笑)
では、下校時はと言うと、朝ほどの切迫感はないので庭の横切りだけは遠慮していました。
そして、その日の帰り道、昨日までなかったモノが畑の中に並んでいることに気付いたのです。
それが、蜂箱(養蜂箱)です。
近づいてみると、箱のわずかな隙間からミツバチが頻繁に出入りしています。
置かれていた箱は全部で5、6個だったかと思います。
その時、蜂箱の近くに一本の竹竿のようなものがあるのを見つけました。
それがなぜそこにあったのかは不明ですが、何気なく拾い上げて蜂箱をコツン!と叩きました。
すると、ブゥ~ンという羽音とともに蜂の集団が箱から出てきたのです。
お~♪カッコいい~
昭和の子供の刺激ってこんなモンですよね(苦笑)
2人で順番に「蜂箱コツン!とブゥ~ン」の繰り返しで満足し、初日の遊びは終わりました・・
ソコでやめときゃ良かったんですが、やめなかったから事件になったんですけどね・・・(笑)
翌日、昨日の続きをするべく蜂箱に近づきました。
でも、もう「蜂箱コツン!」では物足りなくなっていました。
蜂箱が置いてあったた台の下に竹竿を差し込んでガクン、ガクンと揺すったのです。
すると、ブゥウォ~ン!昨日とは比べ物にならない数の蜂が飛び出してきました。
お~♪スゲ~ こうなると歯止めがききません。
最初は蜂が飛び出す度に逃げていたのですが、飛び出た後の反応が意外に遅いことに気付いたのです。
そこで進化した遊びが、ガクン、ガクンの後に差し込んだ竹竿の端を持ったまま逃げずに留まり、何秒耐えられるかゲームです。
箱から出てきた蜂は竹竿に添うようにスゴイ羽音をたてながら近づいてきますのでスリル満点なんです。
「今のは、これまでで一番長く持ってたやろ~」
“いや、俺の方が我慢出来てたって~”
夢中になっていたのでどれくらいの時間が経過していたか分かりませんが、そろそろ飽きてきたかなぁ~っていうタイミングでした。
”コラァ~ッ!!” 奥の畑から猛然と走ってくる人がいます。
マズイ、ここ(畑)のオヤジだぁ!
近所でも評判の口やかましい頑固オヤジの登場に慌てふためきながら逃げ出しました。
ミツバチは我々の襲来を受け・・我々は頑固オヤジの襲来を受ける、世の中って上手くできています・・・(笑)
オヤジも必死ですが、コチラも子供とはいえ逃げ足は速いので追い付かれることなく逃げ延びることに成功しました。
そして・・息を切らしながらの2人の会話です。
「危なかったなぁ~」
“明日からここは通れんねぇ~”
「しょうがない、遠回りになるけど暫くは病院前を通って帰ろう。」
(って、ソレが本来の通学経路だっつ~の(笑))
暫く身を隠していましたが、それ以上追ってくる様子もなかったのでそろそろ帰ろうかと立ち上がったその時です。
あ~っ!ランドセルがない!
なんと、2人とも現場にランドセルを置いたまま逃げてきていたのです。
どおりで頑固オヤジが深追いしてこなかったハズです。
ランドセル中には教科書からノートまで一つ残らず名前が入ってますので、犯人特定のために鑑識を呼ぶ必要もありません(苦笑)
「どうする?」・・どうするって考えるまでもなく、頭を下げて取りに行くしかないことは分かりきっていたのですが直ぐには動けませんでした。
どれくらい躊躇してたんですかねぇ~?10分とか15分かなぁ~?
結局、このタイムロスが致命的になるのですが、この時点では知る由もありません。
暫くしてようやく重い腰を上げます。
頑固オヤジの鬼の形相を思い浮かべると気が重いけど、ランドセルを取り返さないと家に帰れないので、意を決してオヤジの家へ向かいます。
恐る恐る玄関先で声を出しました「ごめんください~」
ガラガラと引き戸が開けられ出てきたのは頑固オヤジではなく、その奥さん(オバサン)の方でした。
「・・ミツバチの箱で遊んでごめんなさい。」
”あれは、あんた達の仕業かぁ~!”
頑固オヤジに負けず劣らずの似たもの夫婦でした・・目をつり上げ、キンキンする耳障りな声で散々怒られたのですが、その時間の長いこと・・
夜叉(オバサン)の登場は想定外でしたが、不思議なことにその後一向に鬼(オヤジ)の現れる気配がありません。
そのうち、オバサンもしゃべり疲れて間が空いたので「すみません。ところでオジサンは?・・」
“フン、うちの人なら、あんた達のランドセル持って学校に行ったわよ!”
「えっ!・・学校??」全く予期していなかった答えに唖然としました。
そうか~だからオヤジが出てこなかったのか~
もうこんなところで夜叉の相手してる場合じゃありません!
ランドセル返してもらうまではと思ってたから我慢してたのに・・全く無意味です。
”まだ話は終わってないよ~”っていう、オバサンの声を無視して学校に向かいます。
が、そこには当然のように担任の先生が手ぐすねを引いて待っていました。
昭和の先生ですからねぇ~言葉プラス愛のムチ付きです(苦笑)
しかも蜂箱へのいたずらを怒る前に”寄り道したことがイカン!”から説教が始まったので、これまた長い・・
我々にできるのは嵐が過ぎのを無の境地でただジッと耐えるだけです・・当然、無の境地ですので話は聞いていません(笑)
そして、長かった説教がようやく終わりました。
あ~やっと、これで帰れる~、「で、先生、ランドセルは?」
その時、先生がニャッとして放った一言・・“ランドセルは教頭先生からお前たちのお母さんに直接渡してある。”
は~??
そうです、結局私たちは最後までランドセルの動きに追いつくことができなかったのです。
当然、家に帰ってから更に親から怒られたことは言うまでもありません。
たった一つのいたずらで、どれだけ怒られるんだって話です。
最終的に言われたのは、『お前は只でさえあそこのオヤジに目を付けられているんだから、明日からは指定通学路をとおれ!』です。
目を付けられている理由、それは今回の蜂箱事件のことではありません。
実は私が毎朝横切ってる他人の庭って、この頑固オヤジ家の庭だったのです。
そして翌朝、遅刻ギリギリの私はまたこの庭を走り抜けます。
苦虫かみつぶしたような頑固オヤジの顔・・見なくても、目に浮かびます・・・