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コナン・ドイル『緋色の研究』ネタバレ感想

※この文章には『緋色の研究』、ポーの「モルグ街の殺人」のネタバレが含まれます


ミステリー小説に興味のない人であっても、『シャーロック・ホームズ』の名を知らないものはいないし、
さらに言えば、その相棒が「ワトソン」という名前なのも殆どの人が知っているだろう。

間違いなく世界一有名な名探偵であり、世界で最も多くの二次創作やパロディが作られたキャラクターだとも言われている。

しかし、シャーロック・ホームズシリーズの記念すべき第一作『緋色の研究』の内容を知るものは少ない。
ある程度のミステリー好きに聞いても鮮明に答えられるのはシャーロキアン(シャーロック・ホームズ愛好家)が大部分を占めるだろう。

かくいうわたしもその一人。
長年、ミステリー大好きVtuberを名乗り、様々なミステリー系企画に乗り込んではミステリー好きを喧伝しているわけだが……

実はシャーロック・ホームズエアプです(笑)


数多のミステリー小説を読んではいるので、「ホームズに影響されたホームズっぽいもの」は山のように触れてきたが、原典はない。
別に意識して避けてきたわけではない。なんとなく読まなかっただけなのだが、ひょっとしたらこのタイミングで読めという神の導きだったのかもしれない。

シャーロック・ホームズは新潮、創元、角川などから発売されているが、
今回選んだのは光文社文庫版だ。
理由は簡単で、翻訳者の日暮雅通氏はヴァン・ダインの翻訳もしており、
今後ヴァン・ダインも読み進めていくのなら、同じ翻訳者で文章に慣れていた方が良いだろうという判断である。

さて、『緋色の研究』の簡単な内容から話していくが、
ワトスンがホームズと出会って二人で共同生活を始めて、
ホームズがちょっとした推理を披露しワトスンを驚かせて、
その後事件が発生して2人で事件現場に向かって、
ホームズが新聞広告で犯人をおびき出すための罠を仕掛けて……

待って???
これ「モルグ街の殺人」そのまんま過ぎない??????


ある程度は意識している部分はあるだろうとは考えていたが、
ここまで完璧に丸パk……流れを一致させてしまうのは想定外だった。
だがこれを「同じだ!」と安易に騒ぎ立てることは出来なかった。
はっきりと断言できないが奇妙な不信感……何かが根本的に間違っている……そんな感情がわたしの中で渦巻いていた。

視点人物と名探偵という2人を主軸に物語を展開させるならどうしても似通ってしまうのは仕方がないのだが、
それでもふつうの創作者なら、どこかでオリジナリティを出したがるものなのだ。
少なくとも新聞広告でおびき出して、さらに探偵が視点人物に銃を持つように促すところなどは意図的と疑わざるを得ない。

コナン・ドイルよ――何を企んでいる???

その答えは、ホームズが犯人の名前を告げた数刻後、理解させられることになる。

その瞬間、世界が変化した


これは比喩表現ではない。
舞台も時代も主人公も全てが変更された第二部が始まったのだ。
ホームズデビュー作の『緋色の研究』は二部構成で、シャーロック・ホームズが活躍するのは約半分の分量でしかないことを、ホームズエアプのわたしが知る由もなく、この唐突な物語の転換に面を食らってしまった。
そして、これまで脳内にこびり付いていた違和感の正体がすべて判明した。

コナン・ドイルが描きたかった世界はこちらであり、
シャーロック・ホームズの探偵譚は云わば疑似餌である。ということだ


筆のノリ方が明らかに違う。
丁寧な風景描写に緻密な歴史文化的背景を織り込み、広大な大地が目の前に広がる力強い筆致。
フェリアとルーシーという本物より強い絆で結ばれた親子が出会って生きて生きて生き延びてそして死ぬまでを描いた大スペクタル。
二人の死後その意志は本作の犯人へと受け継がれ、怨嗟と執念が吹き上がる復讐劇へと変貌する。

もうこの時点でミステリーとしての評価なんてものは、すっかり忘れて小説世界に取り込まれてしまった。

おっと、ついつい長話をしてしまった。
最後になってしまったが評価に移る。

『緋色の研究』

アイディア ★★★
ストーリー ★★★★
キャラクター ★★★★★
納得度 ★★★
カタストロフィ ★★


※採点基準はこちら
事件自体はシンプルであり、何かしらのアイディアが光る作品では無いが、第二部での背景描写など所持する知識を惜しげもなく動員してるところが好ポイント。
ストーリーは前述のとおり、後半部分が抜群に面白く稀代のストーリーテラーっぷりを魅せてくれている。また探偵パートにおいても読者を飽きさせないような起伏があるため十分に楽しめるエンタメ性は確保されている。
キャラクターはホームズに満点付けなかったら何に付けるんだ?
納得度……これといって読者が推理する余地は無いのだが、事件自体がシンプルなため荒唐無稽な推理も出てこないので、まぁそうでしょうねの範疇。
カタストロフィ……なんだかんだ犯人にとっても救いのある物語だとわたしは解釈している。ワトスン視点ではもちろんこの要素は僅少。

最後に

実のことを言えば本格ミステリ要素は薄いと考えていたため、ホームズ作品を読み進めるのは気乗りしなかったが、
『緋色の研究』を読み終えた今は『四つの署名』が今すぐ読みたくて仕方がない。

この文章を書き終えたことだし、早速次の作品に取りかかるとしよう。

※本Noteはこの記事からスタートした企画ですがもう破綻してます。

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