move 第1章『夢の栞』-⑦
夕飯を食べ終えた私は、宿題を早々に終わらせてベッドへ潜り込んでいた。
図書室で見た夢が気になって仕方がなかったのだ。
今まで経験した事のない、不思議な感覚がわずかに記憶に残っている。
あの続きを見てみたいと好奇心が踊り、真っ暗な部屋の中で必死に目を瞑る。
次第に意識が夜に溶け込み、数時間前に見た世界へ足を踏み入れた。
私のよく知る景色がそこには存在している。
忙しなく回る人々と自動車。
学校まで数分の距離にある十字路に立っていた私は、自分の身体をまじまじと見つめる。
どうやら動けるみたい。
とりあえず学校まで歩いてみた。
いつもの通学路は普段と変わらない。
何に惹かれてここへやって来たのか、正直分からない。
だけど、この世界には私の小さな幸せがあるような気がしていた。
見慣れた景色はやがて霧に包まれて、校門の前で足を止める。
私を待っていたかのように門が開き、校舎はやけに静かだ。
「よし」
意を決して中へと進む。
校舎内に人の気配はない。
当然と言えば当然か。
ここは夢の中、私の思う世界だから違っていて当たり前なんだ。
そのまま階段を上がり、二階にある図書室へ向かう。
図書室の扉は開いていた。
この先に何があるのか、好奇心だけで私は動いている。
思いもしない出来事があるのだと感じて、黙々と扉の向こうへ進む。
そして、図書室の秘密の小部屋がある扉までたどり着いた。
この扉を開けたら、何が待っているのか。
もしかしたら何もないかもしれないけれど、私は迷わずに扉に手を掛けて、ドアノブを回した。
ガチャ、と開いた先に。
「来てくれると信じてましたわ」
そこには文乃部長が私を待っていたのでした。
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