あの頃、何をやりたかった?:高校生による高校生のための辞書サークル
2024年9月11日にインカレサークル「辞書尚友」は一周年を迎えました。
その時点でのメンバーは、OB2名を含めた6名。10月上旬に新たに2名が加わり、8名での活動が始まりました。
辞書が好きな人ってこんなにいたんだ!という感動。サークルを作った当初は、こんなにメンバーが増えるなんて考えてもいませんでした。
話は辞書尚友が一周年を迎えた9月に戻ります。
何本か辞書尚友のnoteを執筆し、サークル外では図書館実習に行ったりと、充実した夏休みだったとほくほくしていた9月の末、Twitterのタイムラインにこんなツイートが流れてきました。
「「わかる!!!めっちゃ友達ほしい!!」」
高校生の頃の私が、目を覚ましました。
私も辞書尚友を立ち上げるまで、正確に言うと辞書尚友をいっしょに立ち上げたふずくさんと出会うまで、ずっと同年代の辞書友達がいなかったのです。なのでこのツイートを見た瞬間、「全国の辞書好き中高生を繋げなければ」という使命感を感じ、自分に問いかけました。
あの頃、何をやりたかった?
あの頃、何をやりたかった?
早口で辞書トークをしたかった
幸運なことに、私は周りの友達や先生に恵まれていました。
私の友達に辞書オタクはひとりもいませんでしたが、「最近見つけたすごい語釈の話」や「もうすぐ好きな辞書が改訂される話」を鬱陶しがる友達はいませんでした。塾の自習室で『新明解国語辞典』を読んでいても塾長は全く怒らず、むしろ面白がってくれましたし、担任の先生に提出する学習記録(何時間何の勉強をした、というのを毎日書くもの)で私は勝手に『新明解国語辞典 第八版』発売までのカウントダウンをしていました。これに関しても一度もとがめられた記憶がありません。
しかし、早口で辞書トークをすることはためらわれました。というか不可能でした。早口オタクトークに着いてこられるのは、同レベルの知識を持っているオタクだけだからです。
オタクであれば「今度新明国が改訂されるよね!!まじで楽しみ!!」で通じるところを、非オタクには「新明解国語辞典っていうめちゃくちゃ面白くて大好きな辞書があるんだけど~」という前置きから話さなければなりません。たいてい面白がってはくれるのですが、どうしても相手が聞き役になってしまいます。
同じテンションで、同じ知識量で、辞書について語り合える友達。そんな存在がいたら高校生の私はすごく嬉しかっただろうな、と思います。
辞書について学びたかった
高1の3月から高2の5月までの3ヶ月ほど、私の通っていた高校は、コロナによる緊急事態宣言で休校を余儀なくされました。
そんなわけで家に引きこもる日々が続いていたある日、「ゆる辞書Zoom開催」の文字が飛び込んできました。ゆる辞書は定期的に開催されている辞書好きのオフ会です。緊急事態宣言を受け、それが初めてオンライン開催されることとなったのです。大チャンスだ!!と思った私はすぐに参加、これが初めて声を通して交流した辞書イベントとなりました。
そのとき行われていたのは、The Oxford Guide to Practical Lexicography (通称OGPL)の勉強会。すでに後半の章に入っていたこともあり、わからないことだらけでしたが、これをきっかけに「辞書にもっと詳しくなりたい。辞書学について学びたい」という思いが芽生えました。
今であればオンライン、ハイブリッドのイベントも豊富ですが、当時はあまりそういったイベントがありませんでした。私がうまく情報を集められていなかったのもあるかもしれません。私は近くの図書館の日本語学コーナーに置いてある辞書関連本を少しずつ読むことしかできませんでした。
「辞書について学びたい」そう思ったときに、その道案内をしてくれるような存在があれば嬉しかったと思います。
早稲田大学辞書研究会に入りたかった
偶然Twitterで早稲田大学辞書研究会(以下辞書研)を見かけたとき、その活動はすでに終了していました。
私がTwitterで辞書アカウントを作ったのは2019年8月(当時高1)ですが、同年11月には公式から正式に活動が終了していることが発表されています。
過去のツイートをさかのぼると、辞書研は早稲田大学の学生用語事典『早稲田大辞書』を発行するなど、精力的な活動を行っていたことがわかりました。
生まれ遅れた、と思いました。辞書サークルが存在していたのは調べる限り早稲田大学だけだったからです。私が早稲田に入れば活動再開できたりしないか?と考えたりもしました。そのくらい「辞書サークル」という存在は当時の私にとって魅力的だったのです。
きっと早口で辞書トークをできる友達もできるし、辞書についても学べるでしょう。調べれば調べるほど、生まれ遅れたことを後悔しました。でもこればかりはどうしようもないことです。
その後4年ほど、私は「辞書サークル」という憧れをしまい続けることになります。
今、何をやりたい?
辞書尚友に高校生を入れたい
大学生辞書サークル「辞書尚友」は当初の想定を上回るメンバーが集まり、私は日々元気に早口辞書トークを繰り広げています。各メンバー少しずつ興味分野が異なるため、知らないこともたくさん教えてもらいます。
ひとりで閉じこもっていたあの頃より、辞書についてずっとずっと詳しくなったように思います。
「全国の辞書好き中高生を繋げなければ」と決心したとき、まず最初に考えたのが、「思い切って辞書尚友に勧誘してしまう」ということです。そう考えたのは、早稲田大学辞書研究会に憧れていた高校生の自分を思い出したからです。
しかし、中高生にとって大学生ってかなり大人なんじゃないか、という懸念点がありました。そもそも過ごしている環境が違いすぎるし、知識量にも差があります。というか、同年代ではない辞書友達ならTwitterにへばりついて辞書イベントに参加しまくればわりとスムーズにできるものなのです。
そういうことじゃない、「同年代の辞書友達」というのは他とはまた違った特別な存在なのだ、と思い直しました。同じスタートラインから同じ目的に向かう仲間を作れる場所を提供したい、そうした思いから急激に高校生辞書サークルプロジェクトが動き始めることとなります。
※ここで「高校生」と絞ったのは、中学生と高校生でも少し環境が異なるのではないかと思ったからです。そのため、自分たちに年の近い高校生のサークルを作ることを優先しました。中学生のみなさんは高校生になるまで少し待っていていただけると嬉しいです。
高校生辞書サークルを作りたい
2024年10月28日、辞書尚友の高校生支部「辞書高翔(じしょこうしょう)」が発足しました。創設メンバーは2名。突然「高校生辞書サークルを作りませんか?」(意訳)というDMを送りつけたにも関わらず、2人そろって快諾してくれました。本当にありがとうございます。
辞書高翔は辞書尚友の内部組織という位置づけで、辞書尚友が情報共有などに利用しているグループLINEに高翔のメンバーも参加しています。そのため、辞書尚友の活動(雑談会・勉強会など)にも興味があれば参加できるシステムになっています。
しかしTwitterやnoteのアカウントは独立しており、それらの運営は高校生メンバーにお任せしています。つまり、大学生の辞書サークルに少し参加しつつ、自分たちのやりたいことも自由にできる「高校生による高校生のための辞書サークル」なのです。
辞書高翔はこれから少しずつ活動を始めていく予定です。
第1回のオンライン会議は私と創設メンバー2人で行いましたが、2人から「もっと辞書の輪を広げていきたい」という熱意を感じ、とても嬉しかったのを、数日経った今でもかみしめています。心配性の私は何かあったらいつでも相談してねと何度も言ってしまったのですが、そんな心配をしなくてもこれから多くの発信をし、仲間を増やして辞書について語り合い、知識を深めていかれることと思います。
あの頃、何をやりたかった?と数年後振り返ることのないように、自分たちのやりたいことを極めていってもらえると嬉しいです。
高校生サークル「辞書高翔」をこれからどうぞよろしくお願いいたします。