見出し画像

パウエル議長 Q&Aセッション(参考訳)@テキサス州ダラス・フォートワース(11月14日 )

 11月14日(木)ダラスのフォートワースで行われたパウエル議長の講演の後に催されたパウエル議長とワシントンポスト紙のキャサリン・ランペル氏とのQ&Aセッションの内容を参考訳で紹介します。
 このQ&Aセッションでは、FRBの独立性、インフレの期待管理、政策の不確実性、そして金融政策をテーマとして議論が進められました。 
 パウエル議長は、FRBが直面するインフレ抑制の難しさや政治的影響を排除するためのFRBの独立性の重要性についての見解を述べ、また、移民が減少することの労働市場の課題や生産性向上の要因として技術革新(特に生成AI)の役割についても言及を行っています。

[主なサブテーマ]

  • 中央銀行の独立性

  • インフレ期待と管理

  • 政策の影響と不確実性

  • 政府の債務と成長への影響

  • 労働市場と移民の影響

  • 生産性の向上と技術革新と生成AI

  • 金利政策と経済の引き締め



尚、本投稿は、以下投稿の続編となります。





1. Q&Aセッション(参考訳)


 

[キャサリン・ランペル](ワシントンポスト)
 パウエル議長、ありがとうございました。本日は議長だけでなく、他の連邦準備制度理事会の役員も公の場でスピーチをされています。同僚のクーグラー理事は、先ほどウルグアイで中央銀行の独立性の重要性についてお話をされました。今日のテーマがこれだったのは、特に理由がないとは思いますが。
 今日は学生の方々も多くいらっしゃるので、中央銀行が政治的に独立することがなぜ重要だとされているのか、その原則について一般的にご説明いただけますか?
 

[ジェローム・パウエル](FRB議長)
 はい、喜んでお話ししましょう。まず、独立性が何を意味するのかについてご説明します。これはつまり、私たちが金利などの金融政策について決定したことが、議会以外の政府機関から覆されることはない、ということです。連邦準備制度は法律に基づいて議会によって設立されたので、議会にはそれを変更する権限がありますが、私たちの決定を他の機関が見直すことはありません。私たちは国民の中長期的な利益を第一に考え、その観点から判断を下しています。したがって、私たちが決定をする際、特定の政党や政治的な利益は一切考慮せず、純粋に経済全体を見て最善を尽くしています。
 中央銀行の独立性については多くの研究が行われており、独立した中央銀行は、政府から独立しているほどインフレ抑制に成功していることが分かっています。これは理にかなっています。私たちは、労働市場を強く保ちながらインフレを抑制することに専念しており、政治的な要因を考慮しない方が、この複雑な仕事に集中できるからです。
 このテーマに関する学術研究は世界的にも非常に明確で、50年以上にわたり世界中の先進国で中央銀行の独立が進んできました。アメリカをはじめ、他の国々も何らかの形で中央銀行の独立性を取り入れています。また、この独立性には、私たちが行うことについて非常に透明性を持ち、国民や議会に説明責任を果たす義務も伴います。私たちの制度では、議会が連邦準備制度を監督しており、そのため、監督委員会や議会全体に対して私たちが何をしているのか、なぜそうしているのかを説明する時間を多く割いています。法令に基づき、私自身も年に2回ずつ下院と上院で証言を行っています。
 このようにして独立性を持つ中で、民主的な正当性を確保するための説明責任が私たちには課せられています。
 

[キャサリン・ランペル]
 今お話しいただいた経済状況は、いわゆる、ソフトランディングにかなり近づいているように思えます。まだ成功と言える段階ではないことは承知していますが、これまでの良い成果に対して、連邦準備制度の信頼できる独立性がどの程度影響しているとお考えでしょうか?
 

[ジェローム・パウエル]
 私たちの仕事において、信頼性はすべてと言っていいほど重要です。ご存じのように、パンデミックによる経済封鎖が解かれた後、各国で財政・金融刺激策が相次いだことで、世界的にインフレが急上昇しました。それに対応するため、私たちは金利を引き上げてインフレを抑えにかかりましたが、その間も国民は私たちへの信頼を保ってくれました。インフレ期待は調査や市場ベースの指標などさまざまな方法で測定していますが、どれもが私たちがインフレを抑え、2%の物価安定を取り戻すと信じているという結果を示していました。
 この国民の信頼こそが最も重要なポイントです。インフレは社会現象であり、人々がインフレ率が高くなると信じれば、実際にそうなる可能性が高くなり、逆にインフレが落ち着くと信じれば、価格や賃金を設定する側もそれを反映させ、インフレは低下していきます。したがって、私たちが信頼に足る存在であることが極めて重要です。この信頼性の一部は、インフレへの対応が必要と判断した際、私たちが迅速かつ強力に対応したことに由来しています。私たちの強力な対応は、いわゆるインフレ期待を固定することに役立ったと考えています。
 

[キャサリン・ランペル]
 最後にもう1問だけお聞きしたいと思います。その後は次の話題に移りますので、これが本当に最後です。アメリカの歴史の中で、連邦準備制度があまり独立性を保っていなかったのではと振り返られる時期がありましたが、そのような時期から私たちはどのような教訓を得たとお考えですか?
 

[ジェローム・パウエル]
 高インフレの時代を振り返ると、当時、国民は連邦準備制度が物価の安定を回復できると信じられなくなっていました。結果として、10年にわたる非常に高く不安定なインフレを招き、ビジネス環境は厳しくなり、固定収入の方々にとっては非常に困難な状況が生まれました。たとえば、固定収入の人がいる中で物価が20%上昇すれば、生活はすぐに苦しくなります。インフレは特に、所得や資産の少ない人々に大きな負担を強います。
 1970年代のアメリカでこれが起こり、当時の状況は非常に厳しいものでした。こうした経験があるため、現在は幅広い理解が得られています。私は議会でも多くの時間を費やしましたが、議会の上下両院、そして党派を超えて、独立した中央銀行が国民のために働くために不可欠であるという認識が広く共有されています。私たちも完璧ではなく、間違いもありますが、政治的影響を受けずにその任務に専念することで、最良の結果が得られるのです。
 

[キャサリン・ランペル]
 先週の記者会見で、この件に関して少しご説明いただきましたが、会見では選挙がFOMCの政策に与える影響について、しばらく様子を見る必要がある、とのお話がありました。この様子を見るという姿勢は、2016年12月のFOMCでの対応とは対照的に映る部分もあります。当時の議事録によると、委員の約半数がトランプ政権下での財政政策変更の期待から経済予測を上方修正し、これは共和党が上下両院とホワイトハウスを掌握していた「トリフェクタ」(訳注)も影響していました。実際、当時のスタッフによる減税の仮置きの見通しをもとに、議長ご自身も予測に変更を加え、景気の見通しに一層の自信を持ったとされています。
 そこでお伺いしたいのですが、現在の状況下でもこのアプローチは妥当だとお考えでしょうか?FOMCが成長見通しに下振れリスクを検討し始めている中で、今回の選挙結果が、成長の下振れリスクを取り除く、または少なくとも大幅に緩和する可能性はあるのでしょうか?

※「トリフェクタ」(trifecta)
特に政治において、3つの主要な力が一度に支配する状況を指す言葉。この文脈では、米国の「三位一体(トライフェクタ)」を意味しており、共和党が大統領職と上院・下院の両院をすべて支配している状況を指している。

[ジェローム・パウエル]
 そうですね、それがご質問ですね。まだ結論を出すのは早いと思います。その理由をお話ししましょう。スタッフの役割は非常に柔軟に対応し、リアルタイムでの判断を行うことにあります。これは資本市場が政策の変化やそれが経済に与える影響をすでに織り込んでいるのと似た役割で、私たちのスタッフも同様に対応しています。ただ、政策決定者としては、実際の影響がどう出てくるかをもう少し時間をかけて見ていくつもりです。
 確かに、12月のFOMCでは、スタッフが現時点で分かっていることを報告する予定です。しかし実際には、どの政策がどの程度、どのタイミングで実施されるのか、まだ不確定な部分が多いのが現状です。特に財政政策は議会を通過するのにかなりの時間を要し、今回も年末までに最終決定が必要になるとは限りません。そのため、今年の経済に直接影響を与える可能性は低く、2024年以降、場合によっては2025年、2026年、さらには2027年までその効果が現れないかもしれません。
 これにより、政策変更が経済に与える純粋な影響をじっくり評価し、その後に金融政策としての対応を検討するための時間が与えられます。もちろん、私たちは詳細な分析を行います。そして、最新かつ最も優れた研究や知見をもとにした分析を行うのです。政策変更が経済に与える影響についての広範な研究もありますし、私たちもその評価を行います。ただ、より確実性が高まるまで、政策調整は慎重に行っていくと考えています。
 

[キャサリン・ランペル]
 以前、連邦債務が持続不可能なレベルにあることや、それが成長に与える影響についてお話されていましたが、赤字や債務が非常に大きくなることで、連邦準備制度が目標を達成するのが難しくなる状況に達する可能性はあるのでしょうか?
 

[ジェローム・パウエル]
 現在、そのような状況には達していないことは明確にしておきたいと思います。私たちが経済判断を行う際に財政問題を考慮に入れているわけではありません。つまり、債務問題が金融政策の決定を導く要素にはなっていません。財政政策が経済に影響を及ぼすことは確かですが、財政政策を担当する選出された立法府を私たちが監督しているわけではありませんし、具体的な助言も行っていません。
 ただ、私や歴代の議長が繰り返し述べてきたように、米国の連邦予算は持続不可能な道筋にあります。現在の債務水準そのものが即座に持続不可能というわけではありませんが、長期的には持続可能ではない軌道に乗っているのは確かです。完全雇用の状況下で大きな赤字が発生しているため、いずれはこの問題に対処する必要があり、早いに越したことはありませんが、この点についてはこのあたりにとどめておきます。
 

[キャサリン・ランペル]
 高水準の赤字と債務が将来の成長に潜在的なリスクをもたらすことに加え、ショックが発生した際に財務省証券市場の機能にもリスクが及ぶ可能性はあるでしょうか?その場合、連邦準備制度はどのように対応するのでしょうか?
 

[ジェローム・パウエル]
 財務省の国債市場の機能は非常に重要で、通常は極めて流動性が高く、世界でも有数の大規模な金融市場として安定して機能しています。しかし、パンデミック初期には、この市場が一時的に機能を失ったことを覚えておられるかもしれません。通常、緊急時には資金が財務省証券市場に流入しますが、パンデミックの際はあまりにも異例な状況で、人々は長期の証券ではなく現金を持つことだけを望んでいました。そのため、私たちが市場を支援する必要がありました。
 より広く見ると、財務省証券市場が適切に規制され、企業が仲介に積極的に関わるインセンティブを持つことが重要です。この市場は比較的リスクが低く、その円滑な機能は経済にとって不可欠です。この安定性を維持することが非常に重要です。
 

[キャサリン・ランペル]
 ご指摘の通り、2020年3月のケースでは、連邦準備制度が最後の貸し手として市場に介入する必要がありましたが、あれは確かに二次市場での対応でした。同様の混乱がもし財務省証券の初期発行市場で発生した場合でも、同じように連邦準備制度が対応するのでしょうか?
 

[ジェローム・パウエル]
 私たちは財政機関ではありませんが、金融の安定を確保するという任務が他の機関とともに与えられています。例えば、パンデミックの初期のように重要な市場が停止状態に陥った場合には、市場を支えるための一連のファシリティを設けました。興味深いことに、これらのファシリティは実際には利用されませんでしたが、それが設置されている事実が信頼感を回復させ、市場が自律的に機能を取り戻したのです。これは非常に注目すべき事例でした。
 金融の安定性が脅かされる状況、例えばパンデミックやリーマンショックのような金融危機において、私たちは緊急対応ツールを活用することができます。しかし、こうしたツールはすべての事態に対して使うものではなく、あくまで重大な金融安定性のリスクが発生した場合に限り備えられているものです。
 

[キャサリン・ランペル]
 おっしゃる通り、現時点では連邦準備制度の範囲外にある政策がどのような形になるかを判断するには早すぎます。財政状況の詳細はまだ見えませんが、方向性として関税が引き上げられる可能性が高いという点については、ある程度わかっている状況です。正確な引き上げ幅や、キャンペーンで説明されたとおりになるかどうかはまだ不確かですが、その点についてどのようにお考えでしょうか?

[ジェローム・パウエル]
 私たちにとって重要なのは、こうした政策そのものを評価することではなく、それが最大雇用と物価安定という目標にどう影響し、政策変更が必要かどうかという点です。しかし、現時点ではその答えは簡単ではありません。仮に関税が引き上げられるとしても、その内容がどうなるかは全く分かりませんし、また報復措置が取られる可能性があれば、それによって状況も変わります。さらに、このタイミングでは景気を支援する財政政策が行われる可能性もあります。こうした状況をすべて考慮し、経済全体としての純粋な影響を判断する必要があります。
 また、アメリカ経済は20兆ドルを超える規模であり、常にさまざまな要因が影響を与えています。政府政策の変更が私たちの目標達成にすぐに影響を及ぼすことはそう頻繁ではありませんが、そういったケースがあれば、私たちは最大雇用と物価安定の達成に向けて必要なツールを活用します。それが私たちの役割であり、常にそうしてきましたし、今回もそうします。今申し上げたいのは、これらの政策変更が目標達成にどのように影響するのかを慎重に見極めていくということです。
 

[キャサリン・ランペル]
 良いポイントですね。2018年に行ったように、関税による価格上昇が一時的なものなのか、それとも持続的なインフレにつながるのかを見極める必要があるのは今回も同じです。2018年当時、スタッフは関税による価格上昇が一度限りの調整であり、インフレ期待が安定している限り、それを「やり過ごす」ことが適切だとしました。しかし、次の機会にその条件が揃うかどうかは不透明です。
 2018年時点では、長期間にわたる低インフレの実績がありましたが、現在はインフレが高くなった時期が記憶に新しく、その影響がまだ残っています。また、今回も関税の報復措置やさらなる関税応酬の可能性も考えられ、インフレ期待がより不安定になるリスクもあります。したがって、価格ショックがトレンドインフレに波及するリスクは以前よりも大きいと言えるかもしれません。
 このため、今回の価格上昇が一時的なものであれば対応を慎重に見極める必要がありますが、インフレ期待がアンカーされなくなっている兆候があれば、より積極的な対応が求められる可能性があると考えています。
 

[ジェローム・パウエル]
 状況は以前と異なります。債務状況も大きく変化しました。そして確かに、今はインフレが非常に低かった6年前とは違いますし、当時はインフレ期待も低い状態でした。現在、インフレはかなり落ち着いてきましたが、完全に元通りではありません。今もインフレ率は2%を上回っている状況です。このことをすべて考慮に入れる必要があります。ただし、答えが明白になるのは、実際の政策が見えてからで、それでもなお、簡単には判断できません。ですので、具体的に何が起こるのか分かるまで判断は控えたいと思っています。推測や憶測は避け、実際の状況を見極めることが重要だと考えています。
 

[キャサリン・ランペル]
 前回はおっしゃる通り、さまざまな影響がありました。記憶している限りでは、前回の貿易戦争の際には、成長や投資、信頼感に影響が及び、FRBも実際に何度か利下げを行いました。では、もし関税の引き上げによって物価上昇と成長鈍化の両方が起こった場合、FRBはどのように対応するのでしょうか?そのような状況に対応するための手段はありますか?
 

[ジェローム・パウエル]
 おっしゃる通りです。2019年には、財政刺激や関税措置があった直後に3度の利下げを行いました。これは国内外の状況の総合的な影響を見ての判断でした。当時は世界経済が低迷していて、米国経済も弱まっているとの見方がありました。そこで、年央から3回の利下げを行い、それが自信を取り戻すきっかけになりました。2019年の終わりには効果があったと感じられ、その時点では状況は良好でしたが、その後パンデミックが発生し、全てが一変しました。このように、当初の予測と実際の展開は異なることが多いものです。
 当時も前の12月にはその年の展開についてのブリーフィングを受けていましたが、実際に起きたことは予想外のものでした。パンデミックのことではなく、その年の展開の予想外さについて話しています。年初の段階で3回の利下げが必要になるとは考えていませんでした。私たちは常に、最も適切と思われる対応を行うよう努めていますが、状況がどのように展開するかを見極めることが大切だと考えています。新政権発足まではまだ数か月あり、今後の政策の詳細やその経済への影響を判断するには時期尚早だと思います。
 

[キャサリン・ランペル]
 過去1年ほどで経済に影響を与えた要因の一つとして、移民が挙げられるとおっしゃっていました。移民が供給と需要のバランスを改善する大きな要因だとも指摘されていましたが、ここにきて移民の減少が顕著になっています。短期的に見て、こうした移民の減少がマクロ経済にどのような影響を与えるとお考えでしょうか?
 

[ジェローム・パウエル]
 その前にお伝えしたいのは、移民問題は適切な価値判断に基づいて政治的な権限を持つ方々が判断するものであり、私たちが判断するものではないということです。私たちは純粋にマクロ経済への影響を調査・報告しているだけであり、移民の適正な水準についての見解は持っておりません。それは有権者と彼らが選んだ代表者が決めることです。
 2023年と2024年には移民の急増と労働力人口の増加が見られ、経済成長を確実に後押ししました。それが労働市場のバランス回復にどれだけ影響したかはまだ判断しきれませんが、経済規模を拡大させたことは間違いありません。深刻な労働力不足の後だったこともあり、働き口はありましたし、移民も非移民と同じような水準で職に就いていました。その後、B政権が数か月前に規則を変更し、移民数は減少に転じました。これは国全体にとって何が最善かを考えた上で、選出された方々が下した判断です。私たちの判断ではありません。
 影響としては、労働力増加と生産性という二つの供給サイドの要因が、アメリカの潜在的および実際の産出量を押し上げている状況です。労働力増加の影響は現時点では弱まり、全体の産出量を押し上げる要因ではなくなりつつあります。また、求人件数も大幅に減少しているため、全体への影響は不透明です。現在、失業者一人あたりにおおよそ一件の求人がある状態です。
 生産性に関しては、これが非常に重要で、生産性とは一時間当たりの産出量のことです。生産性が向上することでしか、国民の収入が時間とともに増加することはありません。過去数年、ここ五年ほど生産性の向上が見られたのは非常に意義深く、歓迎すべき動きであり、今後も続くことを期待しています。特に理由がなければ続かないはずはありません。しかし、過去50年を振り返ると、生産性が一時的に上がっても一、二年で傾向に戻ることが多いです。生産性の成長は通常、技術革新や教育水準の向上といった長期的な要因によって支えられるものだからです。大幅な生産性向上が継続するのはまれではありますが、過去に起こったことはあります。
 

[キャサリン・ランペル]
 生産性についてもう少し質問したいのですが、移民の件で一つだけ追加の質問です。経済成長は、労働力の規模とその労働力の生産性によって決まりますよね。以前、移民減少の影響についてお伺いしましたが、たとえば大量の強制送還が行われた場合、労働力が実際に減少するとどのような影響があるのでしょうか?
 

[ジェローム・パウエル]
 そうですね、私たちの役割は政策についての推測やコメントをすることではありませんので、その点については控えたいと思います。
 

[キャサリン・ランペル]
 いえ、良いか悪いかを聞いているのではありません。労働力が減少するとどうなるのか、それだけをお伺いしています。
 

[ジェローム・パウエル]
 そうですね、つまり、単純に計算してみれば、労働者が少なければそれだけ作業量も減るということです。ただ、こういう話は、あまり深く突っ込むと、どうしても政治的な問題に触れてしまいかねません。正直なところ、できるだけそのあたりには触れたくないんです。
 

[キャサリン・ランペル]
 では、生産性についてお話ししましょう。おっしゃる通り、ここ最近、生産性は平均を上回っています。過去9四半期のうち8回、GDP成長が平均を上回っているのも、生産性の向上が大きな要因だと思います。これは何に起因するとお考えですか?
 

[ジェローム・パウエル]
 これは将来的に多くの議論を呼ぶテーマでしょうが、候補を四つか五つ挙げられると思います。ひとつは、パンデミック中に多くの人が新しく事業を始めたことです。こうした新規事業は多くが早々に失敗したり、目立った結果を出さない場合もありますが、新事業の活発な創出期には、統計的に見ても生産性が高まる傾向があります。多くがテクノロジーを駆使していたり、技術利用が社会全体に広がるからです。これが一つ目です。
 もう一つの理由として、例えばヨーロッパの多くの国が労働力をそのまま維持したのに対し、アメリカでは政府の補助金や強制的な貯蓄などでお金が手元にあった人々が職を辞め、新しい仕事を求めたことが挙げられます。行きたくても旅行や外食ができない状況だったためです。このように、多くの人が望まない仕事から希望する仕事へと大規模な再配置が起こり、これも生産性向上に寄与したと考えています。
 また、大幅な労働力不足を背景に、人々の技術力を補完し労働を代替するような技術の活用に多くの時間と労力が費やされました。こういった取り組みが進んだことも大きな要因です。
 

[キャサリン・ランペル]
 具体例を教えていただけますか?
 

[ジェローム・パウエル]
 たとえば、コールセンターを見ても、今ではさまざまな方法で業務を自動化できます。今後、コールセンター業務は人工知能によって処理されるようになるかもしれません。また、ファーストフード店も同様です。私自身はもう年齢的に行くことはないですが、行くと、あるいは人から聞く限りでも、多くの部分が自動化されています。実際、空港でも見かけますが、注文を受ける人がいなくても、画面にメニューが表示されて、それをタッチすると食事が出てくる仕組みです。労働者が不足していたときに、こうした自動化への大きな動機が生まれましたね。スタッフが少ない店舗も見かけましたし、こうした自動化が進んだ一例だと思います。
 

[キャサリン・ランペル]
 今のお話の中で生成AIについては触れられていなかったかと思いますが、こうした技術が新たな生産性向上の時代を加速させる一因になるとお考えでしょうか?
 

[ジェローム・パウエル]
 人工知能は、生成AI以前から既に大企業や中規模の企業でも頻繁に活用されており、生産性に影響を与えています。生成AIはまだ初期段階にあり、私たちが取引している企業や銀行でも実際にはまだ導入されていません。リスクをよく認識しているからです。ただ、信頼できる機関の試算によれば、今後10年で生成AIが大きな生産性向上をもたらすと予測されています。一方で、こうした見通しは過大評価されているとする懐疑的な見方もあり、それも信頼できる意見です。
 これまでの歴史を振り返ると、イノベーションや新技術が生まれても、その効果が生産性の統計に現れるのはすぐではなく、かなり後になってから大きな影響として表れる傾向があります。今回も同じかもしれません。今回の技術は本当に画期的で、教育水準の高い人々が担ってきた多くの業務も代替できる可能性があるという点は明白です。
 

[キャサリン・ランペル]
 その点は金融政策についてのお考えにどのように影響していますか?
 

[ジェローム・パウエル]
 短期的には、それほど影響はありません。私たちは労働市場の動向を非常に綿密に監視しています。金融政策は、最大限の雇用と物価の安定を目指し、それを達成するための手段を用いるものですから、基本的に2〜3年先を見据えて行うものです。長期的な生産性向上を左右する要因は、私たちの手中にあるものではありません。
 技術の進化に対して私たちができる最善のことは、マクロ経済的な物価の安定、つまり物価の安定と強く安定した労働市場を整えることです。人々がインフレの変動や高騰を心配する必要がないようにするのが、私たちにできる最も重要なことだと考えています。
 

[キャサリン・ランペル]
 おっしゃる通り、規制・監督する金融機関の多くも、AIなど新しい技術を試しているところです。ただ、多くのAIは「ブラックボックス」的な性質を持ち、その意思決定プロセスが不透明で、ソフトウェアエンジニアなどでさえその判断の根拠を説明できないことがよくあります。こうした点が規制を難しくしていると感じられるのは、特定のシステミックリスクに対する盲点が生じかねないからでしょうか。つまり、もし銀行が自らの意思決定のプロセスを完全には理解していない場合、意図せず似通った行動をとることがあり、それが表面化しづらいリスクになる可能性も考えられますね。
 

[ジェローム・パウエル]
 こうした点については、まさにご指摘のような疑問を含め、さまざまな課題が浮かび上がっています。ただ、監督対象の金融機関について言えば、良い知らせとして、私たちも彼らもこうした課題を十分に理解しているという点があります。特に規制のある銀行においては、AIを安易に導入するのではなく、慎重に取り扱い、顧客対応や問題解決においても安易に活用することなく、非常に用心深く導入方法を検討しています。現在は試行段階にとどまり、業務に本格的に導入するには至っていません。
 皆が、技術の進化やその可能性、リスクについて深く理解しようとしている段階です。ご指摘の通り、AIは意思決定を行いますが、なぜその判断に至ったのかを把握できないことが多い。そのため、貸付の分野で差別的な結果が生じた場合、どう対処するのかが課題です。これは大きな挑戦ですが、私たちも銀行側もこうした点を十分認識しています。
 

[キャサリン・ランペル]
 もうすぐ5年計画の戦略見直しが行われますが、この5年間の経験を通じて、2020年に採用した戦略を再評価する必要があると感じる点はありますか?
 

[ジェローム・パウエル]
 私たちは戦略レビューを行い、いくつかの変更を加えました。「長期目標と金融政策戦略に関する声明」という1ページの文書がありますが、文字がどんどん小さくなっているので、次回は2ページに増やすかもしれません。
あの当時は、世界金融危機後に長期間にわたって金利が非常に低かった時代でした。例えば、主要な欧州諸国では長期債の利回りがマイナス0.3%という、極めて低い水準でした。中央銀行にとっては、政策金利をゼロ未満には大きく下げられないため、景気支援策として利下げを実施できないのは大きな課題でした。そのため、現在のように金利が十分にプラスの水準であることは歓迎しています。
 当時は、金利がゼロに張り付いてさらに下げられない状況で、どう金融政策を運用するかについて、多くの研究がありました。その状況では、中央銀行は経済を支援できず、低成長・低インフレ・高失業の「罠」に陥るリスクがあります。その打開には財政政策が必要ですが、それもまた課題です。
 そこで私たちは、ごく標準的な「メイクアップ戦略」を採用しました。具体的には、事前に「インフレ率が低すぎる場合には少し高めの水準を容認する」と約束し、これによりインフレが初めから低迷しないようにする考え方でした。
 しかし、この方針を発表してから4か月後にパンデミックが起こり、その1年後にはインフレが上昇しました。こうして20年続いた低インフレの時代は、この枠組みの発表からわずか数か月後に終わることになったのです。そこで今、金利がかなり高くなった状況を踏まえ、ゼロ金利制約の問題をどのように考えるべきかが課題になっています。
 5年ごとに枠組みを見直す中で、「この高金利の状況を反映して枠組みを調整するべきではないか?」という疑問も生じます。当時の一部の変更がもはや不要かもしれませんし、少なくともデフォルトのアプローチにするべきではないかもしれません。これらは必要に応じて使えるツールとして残しつつ、基準はインフレを目標とする伝統的な反応に戻すという考え方もあります。まだ結論は出ていませんが、こうした問いについて検討していく予定です。
 

[キャサリン・ランペル]
 長期金利や中立金利が高い水準になる可能性について言及されていましたが、ジャーナリストなどから中立金利に到達したかどうかをどう判断するのかと問われると、「結果を見て判断する」とよくお答えになっていますよね。少し宗教的な響きもありますが、それが分かるまでにはどのくらい時間がかかるのでしょうか?もし中立金利に到達してからその効果が現れるまでにラグがあるとすると、その分だけ政策ミスのリスクも高まるのでしょうか?
 

[ジェローム・パウエル]
 少しご説明させてください。私たちは金利を上下させていますが、何が高い、低いと判断する基準は何かというと、やはり中立的な水準が必要です。それは、景気を過度に押し上げも引き下げもせず、中立的に保つ金利水準のことです。しかし、この中立金利を正確に特定するのは、理論的にも経験的にも非常に難しいと認識しています。
 このことが示唆するのは、慎重に動くべきだということです。現在の状況では、政策は引き締め的であると感じていますが、その厳しさの程度についてははっきりとは言い切れません。つまり、過熱していた経済が冷えつつあり、経済活動や融資、雇用などに影響を与えている状態です。実際、労働市場の緩やかな冷却、インフレの大幅な低下、労働市場の安定といった形で、目指していた方向に進んできました。
 そのため、金利を徐々に中立水準に戻すプロセスに入りましたが、最適な水準を見極めるには、慎重かつ着実に進めることが重要だと思います。急ぎすぎないことが大切ですが、労働市場が深刻に悪化する兆しが出た場合には、先手を打つ必要があります。しかし、今のところその兆しは見えていません。キャサリンが指摘したように、金融政策には「長く不確定なラグ」があるとされており(ミルトン・フリードマンの言葉です)、経済活動や雇用などに影響が出るまでに時間がかかります。このことが、適切な政策水準を見極める難しさをさらに増しています。
 こうした状況では、慎重なアプローチが求められます。中立水準に近づくにつれて、ゆっくりと進めるほうが、適切な判断を下せる可能性が高くなるかもしれません。迅速すぎず、遅すぎもせず、労働市場を支えつつ、インフレも抑制できるバランスを見つけようとしています。データがゆっくり進むことを許すなら、その方が賢明だと考えています。
 

[キャサリン・ランペル]
 今も金利は引き締め的だとおっしゃいますが、最近発表されたCPIやPPIの数字を見ると、例えばCPIは3%を超えていますし、1か月のレートは3か月のレートよりも高く、さらにそれも12か月のレートを上回っています。経済は好調で、市場は活況を呈し、今日発表されたコアPPIも予想を上回り、企業設立も増加しています。こうした状況で、なぜ金利を引き下げるのでしょうか?経済は順調に見えますが。
 

[ジェローム・パウエル]
 経済が非常に好調であることは歓迎すべきことです。ただ、労働市場に目を向けると、力強いデータの多くは供給サイドの拡大によるものです。失業率は3.4%から4.1%に上昇し、若干の冷え込みも見られます。私たちの使命は経済成長そのものではなく、最大限の雇用と物価の安定です。
 インフレについては、依然として予想通り上下しながら減少していると見ています。今日の数値は想定よりやや上振れましたが、過去18か月の全体的なトレンドは維持されていると考えています。この報告も細かく分析し、12月の会議前にはもう一つのインフレ報告と、10月分の最終データ、そして新たな雇用統計も確認する予定です。それらを踏まえて、慎重に判断していきます。
 私たちは現在の政策が引き締め的だと認識しており、特に労働市場がその指標となっています。ただ、その厳しさの度合いについては完全には掴めていない部分もあります。過度に急ぎすぎるリスクと、逆に行き過ぎないリスクの両方を意識しながら、今は適切な水準にあると感じています。現在、米国経済は非常に良い状態にあり、政策も安定しています。経済が弱まった際には利下げの余地も十分にありますので、当面は慎重かつ計画的に進めるのが方針です。
 

[キャサリン・ランペル]
 お時間が限られているので、最後の質問をさせてください。次期FRB議長を事前に発表することで、金融政策への影響力を高めるという「シャドウ・チェア」の構想が浮上しています。ご自身の理事としての任期は2028年1月まであり、議長任期の2026年5月を超えていますが、かつてマリナー・エクルズ氏が議長退任後も数年間理事を続けたように、どのような状況であれば議長退任後も理事として残ることをお考えでしょうか?
 

[ジェローム・パウエル]
 そうですね、議長としての任期を最後まで務めるつもりですし、現時点ではそれが私の決めていること、考えていることのすべてです。私たちは、アメリカ国民のためにこの職務を全うすることに専念しています。それだけで十分に取り組む価値のある仕事ですし、そこに集中しています。
 

[キャサリン・ランペル]
 ありがとうございました、パウエル議長。本日は感謝申し上げます。皆さまもご参加いただき、ありがとうございました。
 

[ジェローム・パウエル]
 ありがとうございます、キャサリン。  



2. オリジナルコンテンツ

 オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご視聴になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。



<御礼>

 最後までお読み頂きまして誠に有難うございます。
役に立ちましたら、スキ、フォロー頂けると大変喜び、モチベーションにもつながりますので、是非よろしくお願いいたします。 


だうじょん


<免責事項>

 本執筆内容は、執筆者個人の備忘録を情報提供のみを目的として公開するものであり、いかなる金融商品や個別株への投資勧誘や投資手法を推奨するものではありません。また、本執筆によって提供される情報は、個々の読者の方々にとって適切であるとは限らず、またその真実性、完全性、正確性、いかなる特定の目的への適時性について保証されるものではありません。 投資を行う際は、株式への投資は大きなリスクを伴うものであることをご認識の上、読者の皆様ご自身の判断と責任で投資なされるようお願い申し上げます。

いいなと思ったら応援しよう!