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人事と管理会計の複雑な関係
経営管理における人事の意味
前回の記事で会社を運転するには財務モデルと変動損益計算書(以下、変動PL)を作ると良いと書きました。
その際、計数管理をするのは経理や会計畑の人が多いので、人のことを忘れがちとコメントしています。
逆もまた真なりで、人事畑の人は労務管理からキャリアスタートしていることが多いので、数字脳よりはリーガル脳・事務脳になりがちです。算数より国語の世界です。最近は採用・組織開発から入る人も多いのかもしれませんが、その場合はもっと定性的な脳になります。パッションとか、従業員の幸せとか。
経営管理における人事の位置づけは、目の前の現象に対処するミクロ的な「社員が輝く組織のために研修をする」とか「誰を異動させる」とかいう話ではなく、マクロ的な「●年後の姿から逆算するとざっと何人必要で、●人入社すると離職率がこれくらいだから●年で入れ替わって全体の人数推移はこんなもん」という、社員の集合体を人口動態統計のようにシミュレーションしてみる営みになります。
だから来年の4月にはこれだけ新卒が必要で、そのためには今までのやり方じゃ足らんから学校訪問するぞとか、そういう発信が計数管理屋から出せるといいですね。優秀な人事は自分でやるのかもしれませんけど。
要員計画・人事制度設計と売上・費用予算
最初のセクションでほとんど書いてしまいましたが、要員計画も基本的には財務モデルや中計などで作った「●年後の事業の姿」から導き出されるものです。
売上予算がこれだけだからスタッフは●名必要、というやつですね。そうするとヘッドカウントが出るのでまた費用が変わり、というのを繰り返しながら、「まあこんくらいならちょうどいい利益が出るか」というところに落ち着けます。
また、中小企業やベンチャーなどで今まで適当に運用していた人事制度を設計しなおすときも、実際にExcelに給与テーブル置いてスタッフをマッピングして人件費シミュレーションしたり、こういうインセンティブ制度にしたら全体でいくらになるんだろうと計算して費用予算に落とすわけです。
全部数字に落としてみるというのが経営管理ですね。
蛇足ですが、人事制度を作るときはこちらで基礎知識をインプットしてから書店で売ってる『人事制度の作り方』みたいな本を買ってきてやりましたね。一応、ファンド間売買に耐えられる会社にはなったので、ちゃんと作れたと思います。
社員のライフサイクルと採用設計
最初のセクションで「経営管理における人事は人口動態統計を見るようなもの」と書きました。
サービス業などでPOSがあれば社員が入社して売上を立ててから退職するまでのLTVがわかりますし、だいたい何年でいなくなっているのか、ある年に20人入社したら●年後の残存率はどれくらいなのかもわかります。
そうすると、組織が一定の成長率で大きくなりつつ健全に新陳代謝するには、毎年どれくらい入社して退職率はどれくらいが良いのかも見えてきます。
そのあたりの考え方を採用設計とともに解説したのがこの本です。初めて読んだときはまあよく考えてるなと思いました。
人事評価と社員の行動
最後に、経営管理もとい管理会計と人事評価、社員の行動の関係です。
これについては『現場が動き出す会計』という本があるわけですが、私の経験則だと、ここに出てくるような「指標のハック」みたいなのはまあそんなに悪影響はないかなと思います。たまに事故がありますけど、まあ行動はして前に進んでいるわけで。
むしろ、より深刻なのは、「管理不可能なことを人事評価の項目にされて、働くモチベーションがなくなり、会社の雰囲気が沈鬱になること」「やってほしいことが人事評価の項目に入っておらず、やっても得しないから動かない」などの評価と管理会計の不整合ではないかなと個人的には思います。
例えば、お店の家賃は店長には管理不可能なのに、営業利益が人事評価に入っていて詰められるとか、全社最適でコスト管理をしてほしいのにそれが人事評価に入っていなくて別にやっても得にならないとか。
私が多く経験している小さい会社だと、怠けると目立つし一人一人の役割が大きいので下手すると事業が沈むこともあり、そう露骨に「動かない」人はいませんが、大企業だと「この話はやらないほうがいいな。やってもいいことないな」と決め込んで動かない人は本当にいます。
人事評価でなくても、責任と権限の一致、研修内容と指摘事項の一致みたいな期待値の整合性は大事ですね。ズレてるとだいたい心にダメージが残ります。
まとめ
今回のはあまりまとまっていないですね。管理会計という可視化手段が会社の中を一本通っているときに、人事といえどもその「透明性」「ある意味個人を捨象して集計された数字の塊にしてしまう行為」からは逃れられないこと、業績管理の道具である管理会計が大の大人の行動や人生も変えるかもしれないこと、に想いを馳せていただけたら幸いです。
なんかね、まさか生まれてここまで生きてきた自分たちの人生が、「●●事業部の今期の営業利益」とかを気にして生きるものになっているとは思わなかったですよね。