仕事をするのは何のため? 大学生200人と考えた“3つのしごと” = 仕事(Work), 私事(Life), 志事(Career)
「ねぇ、仕事って何のためにするの?」
子どもにそう問われたらどう答えますか?
・お金のため
・生活のため
・家族のため
生まれてきた宿命だ、という方もいれば、ただの暇つぶしだよ、という方もいると思います。
先日、教室で高校生にアンケートをとる機会があったので、仕事のイメージを聞いてみました。
こちらを読んで下さっている大人のみなさん。
「これだから今どきの高校生は…」と嘆くでしょうか?
僕が高校生にアンケートをとっているときに、同室に学校の事務員さんが数人いたんですが、みなさん揃って首を縦に振っていたのを僕は見逃しませんでした笑
どんな仕事でも、どうしたって辛い部分はありますよね。
サラリーマンも辛いし、経営者もまた違った悩みがたくさんある。
ノルマに追われて嫌々やって、生活費のために渋々やっているから、朝の通勤時はどうしても気が重い…。大人のそんな表情を、高校生は敏感に感じ取っています。
また同時に、彼らと話していて感じるのは、「まるで目に見えないモンスターと対峙しているようだ」ということです。
ネットやSNSでキラキラした大人をたくさん見るけれど、その一方で仕事上での辛いこともたくさん知ってしまう。
ブラック企業のことや、「配属ガチャ」と表現される上司との関係性。心や体のバランスを崩してしまった方の投稿もたくさんありますし、自分が大人になったらこんな風に仕事で悩むのかな?という不安に囲まれています。この情報化社会では「知りたくなくても知りすぎてしまう」という表現が正しいかもしれません。
でも、本当にそれでいいでしょうか?
仕事でこそ得られる喜びはたくさんありますし、仕事以外にも、社会に出ると面白い出会いがいくつも待っています。
「仕事って、社会って面白いよ!みんなもこっちに来て人生楽しもうぜ!」
大人がみんなでそう言ってあげられたなら、どれだけ心強いでしょう。
なので、社会を構成する大人の一人として、精一杯考えてみました。
一人ではなく、大学生200人と一緒に。
テーマは「3つのしごと」。
明確な正解に辿り着いたつもりは全くありません。
しかし対話の末、何とか試行錯誤して出た答えをぜひ楽しんでもらいたいと思います。
3つの“しごと”
ありがたいことに、僕は年に1度、日本大学芸術学部 放送学科の先生にお声がけいただいて授業をやらせてもらっています。
最初は専門である映像技術の話をしていたんですが、放送学科以外の学生さんも多いことから、僕の仕事を紹介しつつ、就職活動に役立つような話をする内容に最近は落ち着いてきました。
芸術が専門の学生さんですから、卒業後はそれぞれの専門分野である映像・写真・演劇に羽ばたいていくのが当たり前……かと思いきや、実はそうとも言い切れないそうなんです。
就職活動の末、違った業界に入社する学生さんもいますし、そもそも専門分野を仕事にしたくない、という方も多くいると聞きました。
まぁ、芸術が専門だからといって就職先に選ぶ必要はないし、別に変わったっていいと思います。自分の人生です。
でも、きっと大学を選ぶときに、好きな分野だからこそ自分の学科を選んだんだと思うので、仕事にするとなるとちょっと違うかも?と感じているのなら、少し寂しい気もしますよね。
先ほどのアンケートで、高校生が「これ好きだからやろっ!て気持ちでやったら夢と現実の差で落胆してやめてくイメージ」と書いてくれましたが、
実際にそんな声をたくさん聞きます。
どうしたら仕事のイメージを少しだけ変えて、社会に出ることをちょっと楽しみにしてもらえるのか?
答えは「3つの“しごと”」にあると僕は思っています。
こちらが、僕がパーソナリティーを務めているPodcast「ほぼ教育最前線 あなたにかわって、私が聞きます。」で、相方である大ちゃん先生(大野大輔さん)が考えた「3つの“しごと”」です。
(「仕事・私事・志事」と検索すると様々な記事が出るのですが、そのどれとも違う彼のオリジナル版だと捉えていただけると嬉しいです)
1つめは「仕事(Work)」
これは従来意味する「仕事」と同義と捉えていただいて問題ないです。いわゆる「ワーク」で、サラリーマンでしたら会社組織からお金がもらえますし、パート・アルバイトが行うのもこちらの「仕事」になります。
高校生や大学生がブラックに捉えているのもこちら。
それに対し、“しごと”って実は一つではないんじゃない?というのが今回の提言です。
2つめは「私事(Life)」
プライベートと置き換えてもいいです。
家族・恋人・友人と過ごす時間はほとんどこちらの「私事」。ほとんどの方にとって、日々の食事や睡眠もこちらですよね。「ワークライフバランス」と言われるように、「仕事(Work)」とどうバランスをとっていくか?というテーマでよく語られます。人間、仕事だけをずっとやり続けることはできないし、私事(Life)あっての仕事でもあります。
この2つだけで終わらないのが大ちゃん流。
3つめは「志事(Career)」
“こころざしごと”と書いて“志事”としています。
人生に於いてなしとげたいことや、社会に貢献すること。地域で評価されるなど、承認の実感を得られることでもあります。自分自身の心の中にあるものを、表現する・達成することって人生の潤いですよね。
この3つめの「志事(Carrer)」を聞いてハッとしました。
仕事と私事(WorkとLife)どちらもすごく大切だけど、2つだけではこの現代社会を幸せに生きられないかもしれない。社会・地域・家族といった、人間社会を構成する「We」の中で好評を得て、初めて人は安心できるのかも?と思ったんです。
3つの“しごと”図 バージョン①
そんなわけで、学生さんには授業の冒頭にこちらの図を提示してみました。
仕事(Work)と私事(Life)が隣り合っているけど、溶け合っている状態。
その下にはお皿のように支えているものがあって、志事(Career)としました。
これが理想系だ!と言いたいわけではありません。「僕はこんな感じだけど、みんなどう思う?」と問いたいんです。
少しだけ、授業で話した僕の経歴について書かせてください。
僕は映像の制作会社でカメラマンやディレクター、プロデューサーなどを担当しています。
情報・報道・ドキュメンタリーといったニュースの現場が得意なので、あらゆる場所で撮影をしてきました。北は北海道から南は沖縄まで、47都道府県全てで撮影をしたことがあります。
そして、世界では「北は北極から南は南極まで」カメラを持って行きました。北極も南極も仕事で行った事があるなんて、冒険家か研究者でもなかったらなかなかないですよね。
映像にハマったきっかけは、大学の自主映画サークル。カメラと映画が大好きだったあの頃から、基本的には変わらずに過ごしています。あの頃があったから今があるし、学生時代の自分を褒めてやってもいいな、と思える今日この頃です。
こんな風に、学生時代〜現在に至るまで、映像を織り交ぜつつ40分ほどお話しさせてもらいました。
図に戻すと、
僕に関して言うと、カメラと映画が大好きな大学生がそのまま大人になっているので、「仕事(Work)」と「私事(Life)」の境目がもはやないんです。
例えば、家族の映像を撮ったらそれはもちろん「私事(Life)」にあたるんですけど、それを編集で繋いだものを提出して、CMコンテストで賞をいただいたこともあるので、それってもはや仕事とどっちがどっちか分からないですよね?
そして、「志事(Career)」でいうとこちらも大学生の頃から変わっていないものも多くて、一つが「映像を作ってきた先人たちに恩返しがしたい」という思いです。
映画によってさまざまな価値観を知ることができたし、大切な仲間に出会うことができました。黒澤明やスピルバーグに「ありがとな」と言うことはできませんが、自分がコンテンツを作る事で、次世代に繋げることはできるかもしれない。そんな思いが自分を支えています。
その他、自社のことであったり、面接官として学生さんのどこを見ているかなど、自分を通して「しごと」のことを考えてもらいたいと、たくさんお話させてもらいました。
大学生の感想
授業後、クリエイティブに興味のある学生さんなので、200人のうちほとんどが熱い感想を送ってくれました(ありがとう!)
一部抜粋します。
オンラインでの授業でしたが、自分の話を真剣に受け止めてくれて、思いが伝わるとすごく嬉しいですよね。
3つの“しごと”について考えるきっかけになった学生さんも多くいて、やってよかったなーと実感する瞬間です。
一方で、こんな意見も多く寄せられました。
いかがでしょうか?
「大学生は考え方が甘い!」と思いますか?
僕の授業に関して言うと、知らない社会人がいかに社会を楽しんでいたとしても、それはあくまでもその人のこと。たまたま好きなことがあり、たまたま体力もやる気も運もあって、たまたま豊かな人生を送れているだけ、と感じてしまったかもしれません。
一方で、自分たちの目の前に立ちはだかるのは「目に見えないモンスター」。
数えきれないほどの不安要素を前に、本当に社会でやっていけるのか改めて悩んでしまってもしょうがないことだなーと受け止めました。
「バランス」という見えないモンスター
こうした学生さんたちが共通して気にされているのは、「どうやってバランスを整えるか?」ということです。
「ライフワークバランス」という言葉の通り、どこに比重を置いて、どう生きるのか、ということが多くテーマになりがちです。そこに「志事(Career)」の話をしても、また整えないといけないバランスが増えた、と感じてしまっても仕方ないのではないでしょうか。
そういった意味では、僕が授業で提示させてもらった図は不完全だったかもしれません。
溶け合っているとはいえ、「仕事(Work)」と「私事(Life)」は常に半々ではないだろうし、「志事(Career)」が常に下支えしてくれているとは限りません。
「これが理想のバランスです。こうなりましょう」と言ったつもりはないですが、そう受け止められてしまったとしたら僕の方に非があります。
本当はもっと混沌としていて、境目がなくて、もっと言葉にできないものでもある…。そう伝わる図にしたいな、と思うようになりました。
3つのしごと図 バージョン②
そんなわけで、年に1度の授業は終わってしまったんですが、図を作り替えました。
図だけを送るわけにはいかないので、クリエイターらしく、画像と音声(僕の声)を合わせた動画をYouTube限定公開にアップロードする形で説明しました。尺は43分!
その動画に登場した新しい図がこちらです。
「仕事(Work)」「私事(Life)」「志事(Career)」の考え方はそのままに、全てが重なり合っています。仕事なのかプライベートなのか何なのか、境目がなく、全てに「?」がついている状態。
これを一言で言うと、「人生って悪くないかもね」だと思うんです。
「生まれてよかった!」という人生最良の瞬間ってあるにはあると思うんですけど、毎日そう思えている人ってほとんどいないですよね?
例えば、恋愛映画だったら「2人は見事ゴールイン!しあわせに暮らしましたとさ」で終わるけれど、現実はそうはいかない。結婚後も人生は続いていて、趣味が理解できないとか、足が臭いとか、ちょっとしたボタンのかけ違いが出てきたり、それでもなんとか形を作っていくのが現実の夫婦関係です。
それが現実だとしても、嬉しいことも楽しいこともあり、総じて「まぁ、悪くないかな」くらいなもんだと思うんです。でも、それでいいと思っています。
その上で3つのしごと以外にも、もう一つのグラフを載せました。それが「面倒くさい」です。
面倒くさいことって人生でたくさんありますよね?
僕の場合、精算業務とか資料の提出とかがすごく苦手で、どうしても億劫になってしまいます。家事が苦手な人もいれば、人と会話することにプレッシャーを感じる人もいる。
人それぞれに「面倒くさい」があり、私たちの人生を微妙に蝕んでいます。
こちらの図は1枚で終わりではなく、動くところがポイントです。
生きていると、哀しいことや怒ること、たくさんありますよね?
自分や家族の病気とか、事件・事故。親の介護が大変だ、という方もいると思います。例え普段は「人生って悪くない」と思えていても、ちょっと歯が痛いだけで暗くなりがち。…そんなことを表現してみました。
ここで大切なのは、面倒くさいことは無くならないっていうことだと思うんです。
今をときめくあのスターにも、誰もが憧れるあのスポーツ選手にも、「面倒くさい」は必ずある。残念ながら絶対に無くならないどころか、新しい「面倒くさい」が現れて、人生を蝕んできやがるわけです。ああ、面倒くさい。
だからこそ言わせてほしい。
相対的に「人生って悪くないかもね」を育てませんか?
バランスなんて一生保てない
「面倒くさい」はなくならない上に、意思とは無関係に(しかもタイミング最悪のときに)出現したりするやっかいなやつです。でも、しょうがない。
例えば、「嫌いな上司の意識を根本から変える」とか無理じゃないですか?
自分に降りかかる影響を少なくすることはできるけど、完全にゼロにすることは神様じゃない限り不可能です。
一方で、「人生って悪くないかもね」は大きくすることができます。
3つの“しごと”=「仕事(Work)」「私事(Life)」「志事(Career)」で構成されているので、そのうちどれでもいいです。自分が納得する形で育ててみるのはどうでしょう?
「面倒くさい」がなくならないなら、「人生って悪くないかもね」を相対的に大きくしちゃおう、という作戦です。
では、どうしたら大きく育てられるのか?
僕は「人生って悪くないかもね」を育てるため必要なものは「自己投資」だと思っています。
自己投資しようぜ!
こちらの図をご覧ください。
とあるピッチ大会に参加した際に、他の参加者の方(→Xでも発信されているお医者さん)が表示されていたスライドがすごく良くて、画像をお借りしたものです。(一部改訂しました)
「内発的動機づけ」=好奇心や関心など、自分自身の内側から発せられる動機には3つの構成要素があり、それが「自律」「熟達」「目的」とのことでした。
自分で決めて、例え失敗しても、自分で選んだ結果だからこれでいい、と思える「自律」した状況であること。
より高められる余地があり、「熟達」に切磋琢磨できること。
人や社会に認められている感覚があり、応援されるような「目的」があること。
このような内発的動機づけをすることこそが、現代社会でモチベーションを高く保つ方法であると知りました。
もちろんその全てが「仕事(Work)」で叶えられることでもあります。
ただ、仕事ばかりでもないですよね。趣味でも一生懸命やれば「熟達」の喜びを知ることができますし、ボランティアでも「目的」の思考で社会に大きな貢献をすることもできます。
つまり、内発的動機づけ=「自律」「熟達」「目的」がしっかり揃っていれば、3つの“しごと”=「仕事(Work)」「私事(Life)」「志事(Career)」も大きく育つのではないでしょうか。
一言で言うと、「自分の人生の舵を自分で握ったらやりたいことがどんどん増えてくるし、その結果みんな喜んでくれたら最高にハッピーじゃない!?」ということです。
そんなモチベーションが高い状態には、残念ながら待っていてもなれないですよね。だからこそ勉強をしたり、人と会ったり、旅をしたりする。
でも、誰も正解なんて教えてくれないんです。日々なんとか自分らしくジタバタしないといけない。
でも、どうせやるならワクワクすることがいいですよね。そんな意味も含めて、「自己投資しようぜ!」としてみました。
まとめます
いかがでしょうか?
一つでも引っかかる部分があったら嬉しいです。
学生さんへの返答の最後、僕はこんなスライドで終えました。
授業では、一部学生さんを「3つの“しごと”を、どうやってバランスを整えようか?」と不安にさせてしまいました。
でも、どうせ無理というか、そもそもバランスなんて幻想にすぎないと思うんです。諦めてください笑 …というか、バランスなんてとれていない人生の方が楽しくないですか!?
自律した人生に向けて、いま自分にできることをワクワクしながら、でも必死にやってみる。ゴールなんてないし、知れば知るほど知りたいことが増えてくる。だからこそ、その時にできる自己投資を続けてみよう。そんな思いでお伝えしました。
仕事をするのは何のため?
タイトルである「仕事をするのは何のため?」に戻ってきました。
特に答えは記しません。ここまで読んでくださったみなさんの中で、少しでも「仕事観」が変わったら嬉しいです。
仕事は面倒なことがたくさんあります。
いや、人生って面倒なことだらけですよね。
それでも、未来を作る子どもたちのたちの前ではこう言い続けてほしいと思います。
「仕事って、社会って面白いよ! みんなもこっちに来て人生楽しもうぜ!」