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原作ファンが観た実写映画『恋は光』感想

実写映画『恋は光』がとにかく素晴らしかったので、いち原作ファンとしての立場から感想を書きます。
なにぶん恋愛がテーマなのでオチに関しては伏せておきますが、そこ以外については映画・原作双方のネタバレも込みで書くので、一切のネタバレ無しで観たい方・原作を読みたい方は今すぐブラウザバックしてください。

原作マンガ『恋は光』のストーリー

映画『恋は光』は秋★枝先生による同名のマンガが原作。まずは原作を読んでいない方のために超ザックリ、原作のストーリーを説明します。

全7巻の原作マンガでは、恋している女性が光っているように見える男子大学生・西条さんが主人公。西条さんは自分に対して光っていない幼馴染・北代さんと何もない日常を送っていたのですが、ある日出会った東雲さんに惹かれ、西条さんと東雲さんは「恋とは何か」についての意見交換をするようになります。そこに、他人の彼氏を奪う略奪愛しかできない女性・宿木さんが現れ……というような流れ。

直接的に西条さんにアプローチしてくる宿木さんや東雲さんだけでなく、幼馴染の北代さんも西条さんのことがずっと好きなので、あらすじだけ見ると一見、ハーレムものか何かのようにも思えますが、そんなことは全くなく。どちらかといえば4人それぞれの恋愛の形をしっかり描き、4人がどのような道を歩むのか、見守るようなマンガだといえると思います。
恋愛の本質、本能の在り様など哲学的なことを話題にしていながらも、キャラクターの口調が比較的ライトなため、難しい話が苦手な方にも読みやすい作品です。4人の主要人物の考え方が見事に分かれており、自分の考え方と照らし合わせて「恋とは何か」を考えさせられる、そんなマンガでもあります。

脚本の取捨選択が巧み

さて、ここからは実写版のお話。上映するというだけで批判されがちな実写化作品ですが、アクションものでないリアル寄りの作品の場合、CGやメイク・衣装などについては批判されづらいため、他と比べるとその点は有利だといえるでしょう。
それでも7巻に及ぶ原作マンガを2時間にまとめるのはどう考えても難しいはず。特に『恋は光』の場合、展開の都合上、途中で区切るという訳にはいきませんから、どうあっても途中を削るかストーリーを変えるかせざるを得ません。

そこでこの映画が取った手法は宿木さんと西条さんの恋愛要素を削ることで、原作の四角関係を三角関係+αくらいに収めるという手段。あくまでもメインとなるストーリーラインを北代さんと東雲さんからの西条さんへの恋愛感情・好意という範囲に収めることで、かなり多くの展開を削ぎ落とすことに成功しています。これはめちゃくちゃ巧い。
宿木さんが次第に西条さんを本当に好きになっていく原作の展開も好きでしたが、2時間の映画にするという観点からいえば、そこを削ったこの実写脚本の選択は大正解でしょう。

また他にも原作には東雲さんを好きになる他の男性の登場があったり、物語のターニングポイントとなる央さんの掘り下げがもっとあったりと、映画と比べれば多くの要素があります。しかしこれらを削ることで実写『恋は光』は2時間の映画として分かりやすく、ストーリーがごちゃつかずに綺麗にまとめられています。
この脚本の取捨選択は数多くある実写映画の中でもトップクラスに巧いのではないでしょうか?ストーリーの本質的な部分を損なわず、観やすい映画として成立させている。本当に凄いと思います。

効果的な演出の数々

映画的な演出にも効果的な点が多くあります。

例えば東雲さんの家。先に書いたように7巻のマンガを2時間の映画としてまとめる場合、脚本の段階で多くの要素を削らなくてはなりません。原作がある映画でこれをすると薄くなりがちな要素がキャラクターの掘り下げ。描写が減れば減るほど、観客が各キャラクターを理解しづらくなるのは自然の摂理です。

実写『恋は光』がこの問題に対して編み出した答えは、視覚的にキャラクターの特性を伝えることでした。原作における東雲さんはかなり変わった人物で、映画でも少し触れられていた「スマホを持っていない」件についてもっと時間が割かれたり、本好きな要素にももっと深く触れられていたりと、「浮世離れ」している彼女の描写は数多くあります。
ではこれができない実写映画ではどうするか?東雲さんの家を古風な田舎の家にしちゃえば良いじゃない、と。原作マンガでも東雲さんの家は和風ではありましたが、これを思い切って大学から遠くに配置し、家の近くを歩く描写まで加えることで、都会の大学からは感覚的に異なる場所に住んでいることを演出しています。
実際にはこの田舎っぽい描写にかけられている時間は多くはありませんし、説明もそこまでされません。それでも実写映画という映像メディアならではの手法として、視覚的にこれらの情報を伝えることで東雲さんの「浮世離れ」要素を凝縮して伝えているのだと思います。

ともすると説明口調が多くなりそうな哲学的な原作マンガに対し、映画であるという利点を活かして説明的なセリフを減らし、代わりに視覚的アプローチでのキャラクター描写を試みている。これまた、メチャクチャ巧いです。今後制作されるマンガ・アニメの実写化作品の手本になりうるんじゃないでしょうか。

他に、(好みが分かれそうなところではありますが)音楽の使い方も僕は好きでした。
僕は映画評論の専門家ではないので実際のところは知りませんが、映画音楽はザックリ分ければ2種類になると思っています。1つは音楽として独立して楽しむことができる、主に壮大な音楽(『アベンジャーズ/エンドゲーム』の"Portals"、『パイレーツ・オブ・カリビアン』のテーマなど)。もう1つはシーンに合わせた、いわば効果音的な使い方がされている音楽(サム・ライミ版『スパイダーマン』シリーズでキャラクターの歩調に合わせてリズムが刻まれる音楽など)。
『恋は光』では後者に属している音楽が多いように思えました。きらめく光に合わせて流れる綺麗な音、東雲さんの心に沸き起こる嫉妬心に合わせて響く低音、「恋は戦い」のセリフのすぐ後に流れる戦国風のイントロなどなど……。コテコテではありますが、非常に効果的だと感じられました。

とにかく原作への理解度が凄い

ここまで書いてきたように、とにかくこの作品の製作陣の方々は原作に対する理解度の高さが凄まじいです。どの要素を削り、どの要素を残し、またどの原作に無い要素を敢えて追加するか。『恋は光』を実写化するにあたって重要な本質は何か。映画として成立させるために必要なこと、映画だからこそできることは何か。どの原作読者よりもここをじっくり検討し、練り上げて作られた作品なのではないかと、そう思えてなりません。

そして更にこれを支えるのが北代さん・東雲さん両名の演技力の高さ!
北代さんはほとんど原作からそのまま飛び出したかのような再現度の高さ。センセとの恋愛を半ば諦めた不憫な表情、追い詰められた時の苦しそうな悲しそうな表情、センセと一緒にいるときの楽しそうな笑顔、軽快な口調、ときに自嘲的な態度、全てが北代さんそのものです。
一方の東雲さんも表に出てくる「恋している」表情、深い思索に入るときの固まりっぷりなどはいかにも東雲さん。また嫉妬に駆られた際に現れる少しキツい表情や大きな声、若干押しが強いように思える性格などは原作と比べて少々アクが強くなっており、これはむしろリアリティを増す助けになっています。こんな人、いそう。人間味があります。

それでも僕は原作のセンセの方が好きだ

ただ面倒くさい原作ファンが個人の好みとして敢えて言うなら、センセこと西条さんに関しては僕は原作のキャラクター性の方が好みでした。
原作の西条さんは一見、表情が死んでいるようでいながら、実際にはかなり顔がよく動くキャラクターです。真顔のときは確かに能面のように見えるかもしれませんが、東雲さんや北代さんと話しているときには多彩な表情を見せます。

一方、実写版の西条さんはとにかく眉がキリっとしていて表情がほとんど常に固まっています。これはむしろ原作の西条さんとは対称的だとすら言えるでしょう。
また一文字目でまごつくような口調もあまり上手いとは思えず、正直違和感を覚えてしまうところはありました。

ただ、これは仕方ないことだとは思います。背が高くてイケメンで線が細く役者をやっている方が、陰キャに対する高い理解度を持っていないのは、これもう仕方ないですよ。そんな俳優さんがいるなら見てみたいものです。まず無理でしょう。

低くて腹の底から響くような神尾楓珠さんのお声は僕の思っていたセンセの声にピッタリで、実写版の演技としてもハマっていて、この点は大満足でした。
また序盤から、原作の彼ならまずしないであろう他人の忘れ物に手を付けるという行為をしてくれたおかげで、これは原作とは異なる西条さんなのだと割り切れたのも大きかったです。無骨な実写版センセにも、2時間観る内に次第に慣れていきました。

最後に製作陣の皆さまに深い感謝を

これだけ深い理解をもって『恋は光』を実写化してくださったこと、製作陣の皆さまには本当に本当に心の底から深く感謝したいです。美しく、楽しく、深く、こんなに作り込まれた実写映画になるとは思ってもみませんでした。
『恋は光』の素晴らしい実写映画を世に送り出してくださったこと、そしてまたそれによって原作を新たに知る方も増やしてくださったこと、本当に、本当にありがとうございます。大満足と表してもなお足りないくらい充実した映画体験でした!

ここから更に重大なネタバレなので、原作ファンでまだ映画を観ていない方、映画で『恋は光』が気になったけどまだ原作を読んでいない方は "絶対に" 読まないでください!

それでも具体的に書くとネタバレが過ぎるのでぼかして書きます。

僕は原作ではあるキャラクターが大好きです。彼女が報われれば全てOK、そう思って読み進めていたのに、残念ながら彼女のその愛は報われませんでした。
7巻ラストの秋★枝先生曰く、作品のテーマが「恋」だったがゆえに彼女は報われなかったとのこと。

それを読んで非常に納得はいきました。しかしそれと同時に、諦められない気持ちも断ち切れませんでした。メタ的に、作劇の都合だと、特定のオチをつけなければいけないからだと、そう納得はできても、それでも彼女が報われない展開に心の底では納得がいきませんでした。

そんな彼女に幸せな「未来」を与えてくださり、ありがとうございました。

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