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夜が明けるまで~連載第二話 ハローワークにて「仮面の偽証」~アラフォー就職奮闘記~
とにかく一刻も早く、正社員の仕事に応募しようと私はハローワークへ連日通うようになっていた。
新宿の駅から雨に濡れずに入れるその素敵なビルは、私が通うハローワークもあったが、実はその中に、今回派遣切りにあった仕事先を紹介した派遣会社も入っていた。
登録したときに担当者と相性が良かったのか、リーマンショックの前は、この派遣会社は次々と私に大手の仕事を紹介してくれたものだ。
それには感謝しているが、それにしてもこのビルは立派すぎる。
一緒に契約終了になり、前日蕎麦を食べた友人と
「このビルの高額な家賃の一部は、私達が働いた分のマージンだよね。ひどすぎる。」
と言い合った。
ハローワークに行く前に、駅の中にあるインスタント写真で履歴書に添付する写真を撮り持っていった。
その写真を見せるといきなり、担当の就職相談員の逆鱗に触れる。
「こんなの駄目に決まっているでしょう。ちゃんと写真館で撮って、後ろは明るくて綺麗な色のグラデーションにして、シミやシワ、陰を光で飛ばしてもらってください。あと、写真を撮る直前に、ちゃんと美容院に行って髪をセットして、できればプロに化粧もしてもらってください。」
できるだけ若く見える写真にしろ、ということですね。
はいはい、わかりましたよ。
「○○百貨店の写真館が良いですよ。」
この担当員、ハローワーク職員の名を借りた○○デパートの回し者か?
その上、
「年齢の分だけ、履歴書を送るつもりでいてください。」と言われ、一瞬眩暈がする。
これは長期戦になるな、と覚悟した。
変なところで素直な私は、早速美容院に電話する。
「ヘアセットとメイクをお願いします。」と電話で伝えると
「ご結婚式の出席ですか。」と聞かれた。
まさか失業中で就職活動用とは言えないので
「いえ、パスポートの写真に使いたいのです。長く使うので、綺麗に撮りたいんです。」
しょうがないので嘘をつく。
そして、今度は○○デパートの写真館に電話で予約をした。
こちらはインターネットで調べると、破格の料金だったが仕方ない。
数日後、美容院に行きその足で写真館に向かう。
写真館に行くには、華やかな化粧品売り場や宝石売り場を通らなければならない。
失業中に足を踏み入れるには、いかにも煌びやかで場違いも甚だしいが、あまり店員と目を合わせないようにして、早足で写真館に直行する。
カメラマンの女性にいろいろ指示を出されて、やっとできた写真を見ると、流石に失業中の疲れが表情に見える、、、、気がした。
ハローワークの指示通り、
「顔のこの辺とこの辺の影を飛ばしてください。」とお願いする。
できた写真を見るとあら不思議。
確かに、どこかの苦労知らずのお嬢さんか奥様みたいな私が、かすかに微笑んでいた。
季節はいつのまにか夏になっていた。
写真はハローワーク職員の合格をもらったが、相変わらず仕事は決まらない。
10年前のバブル崩壊のときに、新聞に掲載されていたサラリーマン川柳を思い出す。
「炎天下 着いた職安 氷点下」
上手いことを言ったものだ。作者は天才だ。
思いもかけず失業したせいか、この作者の感性は冴えわたっている。
この時の作者は今、どうしているのだろう。
私も、まさにこの川柳の心境であった。
(第三話 「ハローワークの天使」に続く)
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