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ぬばたまの赤い半月:ショートショート
著者注:夢で見た話をそのまま書いています。
アプリにはできないのでここで成仏。
ショートショートというやつですね。
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主人公は自称ライター。風俗嬢に取材中。
性的な興味がない為、時間を借りて話を聞くだけ。
******
お嬢 : 本当に?お話だけでいいの?
ライター : うん。仕事だからね。領収書もらうし。
お嬢 : どうして私を指名してくれたんですか?
ライター : 不幸っぽくない人がいいなと思って。
お嬢 : え(笑)なにそれ?
ライター : 仕事を選ぶ理由は人それぞれ。色々な都合があるでしょ。
ライター : もし、取材対象者が、親のローンとか、悪人にカモにされてるとかだと、悲しいバックグラウンドを根掘り葉掘り聞きだして、その上脚色して「可哀そう」を書くことになっちゃう。多分上からそうしろって言われて。
ライター : で、〆は「それでも希望を捨てない」みたいな。
ライター : そういうのは書きたくない。
ライター : だからそういうバックグラウンドがないポップな子をお願いしますって言った。取材ってことも話してるし。
お嬢 : ポップ(笑)
ライター : お店に言ってないだけで、あったりする?そういうバックグラウンド。
お嬢 : ないない(笑)ポップだよ、わたし。
ライター : じゃあさ、変わったお客さんとか、面白かった事とか聞かせてくれる?
ライター : 身バレしないようフェイクも入れるし、差しさわりのない範囲で構わないから。
(ライター) : 彼女との会話はそれなりに盛り上がった。
(ライター) : 3度目の利用で、彼女は言った。
お嬢 : ねーえ。本当に会話だけならさ。お店じゃなくて外で合おうか?
ライター : え?なんで?
お嬢 : もったいなくない?お金。取材費って言ったって…してないんだし。
ライター : 領収書切ってるから別にいいんだけど。君だって休めるでしょ?
お嬢 : えー、でもおにーさんと話してるとめっちゃ笑うから、全然休めてないよー(笑)
ライター : 本当に?でも、助かってるんだよ。
ライター : こういうコラムものにしては異例の好評もらってるらしい。
お嬢 : だからぁ。おしゃべりは外でして、その取材費は着服しちゃえー★
ライター : 横領じゃん。
お嬢 : じゃあ、その分イイモノ食べさせて!お食事代!
ライター : うーん…まあ、それならいいかあ…
お嬢 : きゃあー★
(ライター) : 彼女は黄色い声を上げ僕をベッドに押し倒した。
(ライター) : 静まったベットの上。彼女はか細い声で言った。
お嬢 : ねぇ。何かお話してよ。
ライター : 僕が?
お嬢 : いいじゃん。たまには。
(ライター) : 頭の中をザッと検索する。僕の人生の中で面白い事なんかあっただろうか。
(ライター) : とりたてて大きな事はない。だがライターのテクニックの一つとして、小さな出来事を掘り下げて文字数を稼ぐという手法がある。
ライター : 的屋ってあるじゃん。お祭りの。
お嬢 : うん。
ライター : あれのさ?スーパーボールが浮いてるやつって意味わかんなくない?
お嬢 : あ、あー?うん?
ライター : あれって、金魚の代わりにスーパーボールをポイですくうわけでしょ。
ライター : で、考えてみたんだけど。
ライター : 金魚だと取るまでは楽しいけど、取った後飼わないといけないわけじゃん。
ライター : 飼える環境があったとして…僕なんかほとんど家に居ないし、死んじゃったら可哀そうだし。
お嬢 : わたし…たしか6年生きた。
ライター : 本当?すごいね!?
お嬢 : でも突然、プカッと浮いてて…もう空気みたいな存在でそこにいることも忘れてて、数えてみたら6年かぁ…って。そう思ったら急に悲しくなって…。
ライター : 大往生でしょ。幸せだったよその子は。
(ライター) : 彼女は僕の服をぎゅっとつかんだ。
ライター : でまぁ、飼える人はいいけど、飼えない人は池とかに捨てちゃうわけでしょ。
ライター : そうなると環境問題が~とかになるわけで。
ライター : その解決策?として出てきたのがスーパーボールなのかなぁって。
お嬢 : あ。そっか。スーパーボールの話してたんだ。
ライター : うん(笑)
お嬢 : それで?それで?
ライター : でもさ。スーパーボールって誰が喜ぶの?て思ったわけよ。
ライター : すくなくとも僕は今欲しくないし。金魚の代替品?にしては魅力がなさすぎると思った。その時は。
ライター : そしたら、目の前で子供がトライするわけだ。
お嬢 : 子供人気(笑)
ライター : 勝手に生き物(金魚)連れて帰ったら怒る親はいるけど、スーパーボールは誰も怒らないじゃん。なるほどなぁってちょっと感心したりして。
お嬢 : いっぱいとれた?
ライター : ううん、全然取れないの。
お嬢 : (笑)
ライター : 参加賞で一個だけ持って行っていいよってオジサンにいわれてさ。
ライター : その子は最初からずっと狙ってたボールを迷わず掴んだ。
ライター : なんか興味沸いちゃって。見せてもらったんだ。
お嬢 : え?!子供に話しかけたの?危ない大人だー(笑)
ライター : 取材ってことで(笑)
ライター : スーパーボールとれた?みせてくれる?
子供 : ほら見て!すごいでしょ!!
子供 : これだけなんだよ。これだけ特別!!
ライター : それは半分が赤くて、半分が白い球だった。
ライター : その子は「ゲットだぜ!!」って叫びながら走っていった。
お嬢 : あー!半分が白くて、半分赤い!!(笑)
ライター : 気になって水の中を見てみたんだけど…たしかにその柄はその1つだけだったみたい。
ライター : 他はピンクとかオレンジとかの単色か、半透明でラメが入ってる物だけだった。
ライター : 1つだけの"半分色違いな球"を見つけられるって、子供凄いなーと思ってさ。
お嬢 : 子供すごーい(笑)
ライター : それから、縁日があれば、なんとなくスーパーボールを見るようになったんだけど…
ライター : ないんだよね。そういう半分色の違う球。
お嬢 : ないの?
ライター : 的屋のおじさんにも聞いてみたんだけど「そんなのは見たことないって」
ライター : 地方取材の時でもお祭りがあれば寄ってさ。話しできそうな雰囲気の時は聞いてみたり。あと、写真も撮らせてもらって拡大して探してみたりしたんだけど…
ライター : 結構な数のお祭りを探したんだ。けど、誰も「そんなの見たことないって」
お嬢 : えぇ…
ライター : ってことはさ…ボールがないってことは…
ライター : あの子も、居たのかな?って…
お嬢 : ちょっと!!
(ライター) : 彼女は飛び起きて枕を抱えた
お嬢 : まさかの怖い話!?
ライター : 怖い?
お嬢 : 怖いよ!!怖い流れだったじゃん!!!
ライター : あの時なー…ボールと子供の写真撮らせてもらってればなー…
お嬢 : 撮ってないの?
ライター : いや、こんなに関心持つと思わなかったからさー…
お嬢 : スーパーボール否定派だもんね。
ライター : 今むしろ積極的に求めてるよ。
ライター : まぁ…でも。
ライター : 撮っても…映ってなかったかもしれないねぇ…
ライター : やめてってば!!
ライター : 写真なぁ…
ライター : 薄暗い神社に赤く連なる提灯。
ライター : 誇らしげに笑う子の手に半分色の違うスーパーボール
ライター : …ああ。画が強い…!ほんっと撮ればよかった…!!!
ライター : 写真があれば記事一本書けたのに!!!
お嬢 : 証拠にもなるもんねー?そういうボールが確かにあったっていう。
ライター : そうだよー…
ライター : でも。メーカーに問い合わせる程の事でもないっていうか。
お嬢 : 問い合わせてないの?
ライター : ずいぶん前の話なんだ。もう7.8年?
ライター : 今ここで話すまで、そんなにたいしたことじゃないと思ってたから…
ライター : 初めて人に話したし。
お嬢 : 初めて…?
(ライター) : 彼女は機嫌良さそうに再びベッドに沈んだ。
(ライター) : 何が嬉しかったんだろうか?
ライター : あ、でも、卸さんとは会う機会があったから、軽く聞いてみたんだけど
お嬢 : うんうん。
ライター : やっぱりそんなのは無いって。
ライター : ていうのも、白いボールがそもそも珍しいらしくて。やっぱり色鮮やかな方が子供に受けがいいから。
ライター : 特注があればって感じらしい。
お嬢 : そうなんだぁ…
ライター : ましてやピッタリ半分の色が違うってことは、半円を作って張り合わせているってことで…
ライター : そうなると強度が落ちちゃうんだって。
お嬢 : 弾まないのかな。
ライター : …変な方向に弾むかもね。
お嬢 : 半分のところで割れそう…
ライター : そうだね。
ライター : あの子が宝物をしまっておくタイプならまだ無事かもしれないけど…
お嬢 : 壁にバンバンぶつけるタイプだったら…(笑)
ライター : まあ、でもお化けはボール投げないから。
お嬢 : …
お嬢 : …その時の子供は私です…
ライター : …
お嬢 : …
ライター : 男の子だったよ。
お嬢 : そっ、れっ、はっ、…お、お直ししたから!
ライター : 本当に?(笑)それ次の記事にしていい?
お嬢 : ダーメー!!!
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著者注:
画像検索をしてみたら白いスーパーボールも、半分色の違う球も普通にあったのですが、夢の中のセリフをそのまま採用しました。
サスペンスな夢を見ることが多いので、平和な夢で良かったです。
タイトルの意味:
「ぬばたまの」は万葉集に出てくる枕詞。
この言葉だけで、黒、夜、月、夢、を連想させるので便利です。
夜の仕事をしているお嬢にもかかってます。
「赤い半月」半分が白く、半分が赤い。
月のまるさがスーパーボールを連想させてくれます。
縁日で会った「子供と球」は夢だったかもしれない。
満ち欠けする月のように不確かで儚い記憶。
白い月は昼に見る月。
お嬢はこの後きっと転職して昼の世界に行くのでしょう。
(2021/7/11追記)
知人より質問がありましたので。
二人の性別に関して:
ライターを男性とは一回も書いていません。
お嬢も…今の時代において絶対とは言い切れません。
記憶の中の子供も、はたしてその記憶が確かなのか?兄のお下がりを着ている女の子だっていることでしょう。
自由に想像して頂いて構いません。
また、イメージにピッタリなフリー素材を見つけましたので挿入しました。
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