苦手克服。
ありがたいことに、子供の頃から、字が綺麗と褒められる。自慢できることのひとつだ。
鉛筆を筆に持ち替えると、話は別。
書道の時間が嫌いだった。大嫌いだった。どれだけ練習しても上手くならない。手が汚れるし、下の名前の画数が多いせいで、いつも字が潰れていた。
大人になって習字をすることなど、全くと言って良いほどない。ありがたい。必要になるのは、慶弔の時くらい。筆ペンだから、何も問題はなかった。
とある日、東急ハンズに行くと、「水でお習字」と目があった。もちろん本当に目が合う訳がないのだけれど、あれは本当に目があったとしか言い表せない。今こそ、克服する時かも。そんな気持ちが湧き上がった。
気づくとカゴに入れていた。
家に帰り、適当な容器に水を入れる。筆を水につける感覚。
懐かしい…パリパリして、なかなか馴染まない筆先が、妙に心をくすぐった。まずは書いてみる。
気がつくと、滲んで少しづつ消えていく。書いた字が残らない寂しさもあるが、楽しさが勝った。
気がつくと、夢中になっている自分がいた。子供の頃の苦手を克服し、またひとつ大人になれた気がした。
No.62 おうち書道する/100